かつて、戦争があった。
「それは母な地球を滅ぼす愚かな戦争だった……」
「誰も砲台MSの話はしていない。不謹慎だから黙れ駄ークエルフめ」
「GXの悪口を言う奴はワシが出て行ってやっつける」
「ジャパンの終戦記念日の話をさせろ!」
「どうせ婆様に読んでもらったかわいそうなぞうの話くらいしか知らんじゃろうが」
「くっ……じゃあお前は戦時中にこっちにいたのか!?」
「なんでそんな自虐プレイしなきゃならんのじゃワシが」
まあ異星人というかエルフが東南アジア戦線で泥をすする日本兵と魔法戦されても困っちゃうが。
ああでもリーンの○翼ってそういう話だっけ。
「ガンダムはもうええんじゃ。それよりコミケじゃー。行かんか。行かんか健一」
「仕送り来てないんだから駄目」
どうも口座に現金が届いてないと思ったらウチの親が入れ忘れたらしい。
そして地元の金融機関は今時盆は全休。
つまり現在俺文無し。
そして食費光熱費家賃を俺に依存しているみかんには一人で贅沢されるとムカつくので禁止だ。
「ええい、これだから甲斐性なしの大学生は。働け!」
「それはこっちの台詞だ!」
このジーワジーワと蒸し暑い8月15日。
日がな一日その甲斐性なしと六畳一間でダラダラしているダークエルフ娘に言われたくはない。
あのバレンタインから数ヶ月。
「実にいろいろなことがあったな……」
「そうじゃな……本当に色々あった」
しみじみと天井を見上げる俺とみかん。
「ビッグファン平和島のツタヤが撤退してしもうたのう」
「そしてドンキホーテが朝5時に閉店するようになった」
「ドンキの存在意義など安くて無駄なものが多いコンビニじゃろうが。閉まってどうするんじゃ」
「いや、でも正直朝五時から十時って本当に行く用事ないし……」
「朝飯が欲しくなる時があるじゃろうが!?」
「いやそこは素直に買い置きするかコンビニとかマック行こうよ」
色々なことがあった。地味な変化として。
他にも平和島駅前マックが24時間になったりとか流行ってない回転寿司「夢や」がラーメン屋に摩り替わったりとか不動さくらと武田が就職したりとか。
「しかしアプトノスはともかくアプケロスから生肉と骨しか剥ぎ取れないハンターは何なんじゃ。このクソでかい甲羅とか邪魔な尻尾とかどうみても独自の素材としてなんか作れそうではないか」
「落ち着け。確かにランポスとギアノスで別の防具作れるのにアプケロスシリーズがないことは疑問だけどそんな防具わざわざ欲しいか」
「……いらんな」
「いらないよな」
そこに突然開く天井。もはや驚く気もない。
「私も混ぜろ若人どもー♪」
すたん、とテーブルに着地。上の住人、金髪碧眼オミズエルフ紀州ウメさん。
「お主も暇か」
「お店がお盆休みでさー。やんなっちゃうね、お盆って言えばどこもかしこも休みで。いやごめん嘘ついたバケーション大好き」
「お主も結構漫画やゲームを嗜んでおるというにコミケは行かんのじゃな」
「ん、今日は行かないー。一日目に企業は行っちゃったしー」
ギギギと歯を鳴らすみかん。俺もちょっとギギギ。俺だってできることなら行きたかったんだよう。
「……二日目の乙女向けとかゲーム系はええのか」
「フフフ私はむしろ男性向けのほうが性に合う女! 本番は明日なのよ!」
へんなひとだ。
「というわけで私も混ぜろよお二人さん。1乙するごとに一枚ルールね」
「何が!?」
「暑いんだから脱ぎルールに決まってるじゃんー?」
「なんでもかんでもエロに繋ぐなこの色魔!」
「いやちょっと待てみかん。それはとても悪くない提案だ」
「だよねー?」
「うるさいドスケベふたり! えっちなことはいけないと思うんじゃぞ!?」
い、いいじゃんよう。暑いんだから出すとこ出してたわわになっても。DAISUKE的にもオールオッケーだって言うじゃんよう。
「だいたい乙らなければいいことだ」
乙る→死ぬ。1パーティ1任務につき二回まで死んでもいいのがモンハン不変のルール。3回目で任務失敗ふりだしにもどる。
当然よく死ぬとパーティに迷惑がかかるので歓迎されない。
「昔から据え置きでやり込んでた健一と元々1000時間ハンターのウメはええかもしれんがワシはまだまだP2G初心者じゃぞ!?」
「大丈夫大丈夫、どうせランク低いハンターは難易度高い任務に連れてけないからさ」
「そうそう。それに元々一人で充分なゲームだぞ。3人も揃えば楽勝楽勝」
俺とウメさんは気楽にPSPを構える。
数分後。
「あ、ごめん一人で3乙しちゃった。てへ☆ じゃあ三枚脱ぎまーす。ってシャツとスカートとブラだからぱんつ以外全部だね」
「わざとか!? わざとかウメ!?」
「いーじゃんザッキーがちょっと嬉しいだけだしー?」
「ブラボー」
「健一も少し真面目にやらんか!!」
「んふふ、そろそろザッキーも色んな意味でオトナになっていい頃だし? そろそろ攻めとかないとナマデンワちゃんとかさくらちんとかに抜け駆けされそうだし?」
えっちな店仕込みの脱ぎっぷりで魅せながら妖艶に笑うウメさん。
「やめんか真昼間から!」
「えー」
「えー」
ブラ取ろうとしたところでみかんに脳天鉄拳制裁される。
……いや、みかんの目があるところで全力で誘惑されても困るといえば困るんで助かったけど。
「まったく。健一も安易なエロに流されてはならんぞ。既成事実握られた男ほど弱いものはないんじゃ」
……うん。あとで不動さくらにどんな目で罵倒されるかとか泣かれるかとかみかんにどう接すればいいのかとか考えるといろいろ怖くはあるね。
……あれ?
俺の現在の状況ある意味キツくねえ?
エルフ美女美少女二人と延々モンハンをしているという状況は、よく考えるとすごくもったいないと思う。
「なんかこう、エルフ的なイベントとかないの?」
「なんかまた酷い指定が来たよみかんちゃん」
「森の中で熊さんに出会ったり白い貝殻の小さなイヤリングで恩を売られたりしたいんか」
「それエルフだったの!?」
衝撃の事実。
「フフフ、甘いよザッキー。くまさんに出会って歌でなんとかできるのなんて宇宙人かリンミンメイかUGAに弱体化させられる前のジャイアンくらいだよ」
「そうだったのか……でも俺はそんな歌歌えないからそれ以外で」
「……落ち着かんか健一。歌が入る前に普通に会話しとる時点で何か世界観が違うじゃろ」
「それもそうか」
びっくりした。
「しかし確かにちょっと退屈だねえ。せっかくのお盆にクーラーもない部屋でゲーム機突き合わせてカチカチカチカチ」
「うむ」
二人ともPSPをテーブルに放り出した。テーブルには三人前のコップと結露したプラスチックのウォーターピッチャー。中身は麦茶。
確かにみみっちい。いや全部仕送り停滞が悪いんだ。貧乏は嫌いだ。
「……そうだ。そういえばエルフふんどし女相撲はどうしたんだみかん」
「お?」
去年聞いたじゃないか。心躍るステキイベント。
「去年は結局スカされたからな! 今年こそは是非見学したい」
「む、むぅ……確かに近いが」
「いーねー。というかもういいから私たちでやっちゃおうよ。みかんちゃんと私とナマデンワちゃんとあとライムちゃんだけでも充分面白そうだよ!? ていうかナマデンワちゃんの恥ずかしがる姿をいじりたい、そんなウメさん日本の夏」
「むう……た、確かにあれは……ワシらも納涼行事としてやっとるから咎め立てはできんのう」
よし。いいぞ。素晴らしいイベントの予感にわくわくしてきた。
「ちょっと二人に電話してみるねー」
ウメさんが携帯を取り出す。エルフなんだから魔法とかでなんとかしろよと思わなくもないけど。今までPSPで対戦してたのだからこの際目を瞑ろう。
そして。
「二人とも戦場で戦っておりました。殺気立った妄想乙女マジパネェ」
そうだった。
ナマデンワは俺と武田が染めたけど、ライムちゃんも意外とオタ気質があったんだった。
まさか二人とも有明で戦っているなんて。
「んー……私とみかんちゃんだけじゃ物足りないよねえ」
「相撲は結構疲れるというか痛いからのう。人数が欲しいところじゃ」
とても残念だが話しは収束の方向に向かっているようだった。
「くそう」
「ま、まあザッキー、そんな気を落とさないで。……そだ、やる時のために場所選定しに行こうよ」
「場所?」
「まあ、とりあえず土俵は川原でないとのぅ」
「そうなの?」
よくわからん。
「あはは、汚れれば水浴びするしね」
「エルフは水場じゃと水浴びの延長と思うからこそ、開放的な気分になるもんじゃ」
それはそうかも知れない。まあ確かに街中で水着だとヤバい人みたいだけど水場が近ければ普通に思えるしな。
「じゃあこの辺だと……呑川?」
「あんなきったない川で水浴びは勘弁じゃ」
「せめて多摩川だねー」
「多摩川か……」
徒歩で行くには多少遠いが、まあ電車を使えばいいから悪くはないか。
「ま、涼むにはちょうどいい時間だし。行こうか」
「そうじゃな。部屋の空気も淀んでおる」
「お出かけお出かけー♪」
俺たちはそのままごそごそと立ち上がり、玄関に向かう。
「ウメ服を着ろ」
「あ」
……下着姿のまま出ようとしたこの人は認識隠蔽があるにしても自由すぎると思う。
六郷土手駅。
京急線で多摩川の河川敷に行こうとすると、ここが一番適切になる。
「……な、なんか人がやたら多いのう」
「そうだな……」
夕方で人出がある時間帯とはいえ、尋常でない混みっぷりだった。
その疑問は近くの看板を見てすぐに氷解する。
「大田区平和都市宣言記念事業花火の祭典……今日だったっけ?」
「あはは、ちょうどいいじゃない。暇だしお金もかからないよ」
ウメさんの言う通りだが。
「これは相撲の場所選定どころじゃないなあ」
「いやいや、そんなのはまた今度でよいではないか。夜店じゃ夜店♪」
「金はないぞ」
「綿菓子やチョコバナナくらいだったら買ってあげるよー。お姉さんに任せなさい♪」
「いやほう♪」
「あ、ずりー。俺にもおごってよウメさん」
「カラダで返してくれるなら」
「……やめとく」
注意しよう。流されそうな自分に。
花火は七時過ぎに始まった。
ドーン、ドーンと。
腹に響く……いや、これは肋骨に響く感じか。
景気のいい音と共にたくさんの花火が打ち上げられる。
「花火をじっくり見るなんていつぶりだろうなあ」
「お主はもっと風流に目を向けるべきじゃな」
「綿あめで口の周りベットベトで言うなよ風流とか」
真っ白なわたあめにかぶりついて幸せそうなダークエルフと、それに増して山ほどの駄菓子を抱えてむしゃむしゃしている金髪エルフ。
色気もへったくれもないがこれはこれで幸せな風景だ。
「いいよねえ、花火って。人の情熱とか、暖かさとか感じられて」
ウメさんがしみじみと言う。
情熱とか暖かさとか、そういう視点で花火を見たことはないけど。
「ワシらの星では夜空にこんなもの打ち上げるなど、有り得んかったからのう。そういう文化はなかったんじゃ……まあ、地球の物質文化ほとんどに言えるんじゃがの」
「んー。でも、情熱か……なんか違う気もするけど」
「情熱だと思うよ? ただ人を楽しませるために、これだ大掛かりでこれだけ綺麗で……ま、ちょっと危ないけど。こういうものを打ち上げて、その美しさを競うっていうのは、憧れるよ。……そういうものが生まれる文化そのものにね」
「そういうもんかなあ」
「文明としては、幼稚な段階じゃがな。じゃが、それを失ってしまうのじゃ。いずれ、な」
「だって感覚を楽しませるだけなら、個人の知覚に干渉するだけで充分だしね」
「…………」
それも寂しいな。
美しいと思う心と、感動を共有するっていうのは……いや、魔法なら共有することも出来るのかもしれない。
でも、確かに必要充分だけでいいって、そういう感覚を作って満足するって言うのよりは……花火を作って打って見る、そんな文化はいとおしい。
「ほら、ザッキー。見なよ。……結構みんなそう思ってるんだから」
ウメさんに言われて見回す。
花火の色とりどり、黄色や緑、赤の光に断続的に照らされる中には、確かにたくさんのエルフや異星人がいた。
感覚を解放されている俺からはよく見える。
……川の水の中になんか見たような触手生物が数体いたような気もするが気のせいにしておこう。
「……なんか、大切にしたくなってくるな、そう言われると」
「ザッキー一人で大切にしてもしょうがないけどねー」
「じゃが……うむ。この星は、よい星じゃぞ。少なくとも、楽しむ文化を持つこともできずに滅んでいく文明もあるのじゃから」
綿菓子の残りの割り箸を咥えて言っては威厳も何もない。でも俺は頷いて、みかんの肩をそっと抱き、空を見上げた。
「っ…………?」
みかんはちょっと驚いた顔をしたが抵抗はしない。
ウメさんは食べるのに夢中だった。
帰ってから部屋の前で浴衣着て待っていた不動さくらにすごく恨まれたが、まあ、今日はおおむねいい日だった、としておこう。
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