2008年もついにクライマックス。
「今週から師走。ティーチャーランじゃ」
「何を言っているのかさっぱりわからないぞ」
「ここまで溜めたのじゃからそろそろ出撃すべきだと思うんじゃ」
バッ、とダークエルフが広げたのは……ダブルサイズ用毛布。180x200とかそんな寸法の奴。
「KO・TA・TSU! 人類最終決戦兵器KOTATSU!」
「こたつ如きに怪獣とでも戦えそうな枕詞つけるな!」
「少なくともここにおる侵略者は今こたつに出てこられたら全力で白旗を揚げて捕虜になる自信があるぞ!」
この小娘にはエイリアンとしての誇りをそこまで安売りしないでいただきたい。
「えー、でもまだちょっと微妙に気候早くね?」
「お主の体の構造はどうなっとるんじゃ! ここまで寒かったら普通こたつじゃろうが!」
「電気代食うしなあ……たまにパソコンとレンジと同時に使うとブレーカー飛ぶしなあ……」
脆弱な学生下宿用アパートのエレキテルパワーを使いこなすには、多少の厚着をして過ごす工夫が必要だ。いや雪がチラチラし始めたらさすがにそんな苦行もしてられないけど、少なくとも12月第一週はまだ我慢できる時期だと俺は思う。
「女を一匹飼っとるんじゃから女の生理についても理解するべきじゃ! よいか健一」
「色々と誤解されそうな字面だなオイ」
「そんなこた好きに誤解しとけ。よいか、女はすべからく末端の冷えに弱い。男一人と同じつもりで温度調節するもんではないわ」
「うーむ。でもなあ。……部屋の中にいるんだから、毛布とか駆使して自分の熱を利用する方向で何とかならない?」
「そうまでしてこたつを駆逐したいかこの鬼畜外道!」
「そこまで言われるのかよ俺!」
わいのわいのやってたらドアのノック音が響き、武田と生田が酒とおつまみとジュース(生田&みかん用)を持って入ってきた。
「よーオノケン。……何喧嘩してんだよ」
「我が家の座卓をこたつにすべきかどうかについて激しい意見衝突の末乱闘に」
みかんが子泣き爺の如く背中にしがみついて腕を首に巻きつけて締め上げていた。なんとかキマるのは阻止しているがちょっとヤバい。
「こたつなんてそんな大したもんじゃなし、セッティングすればいいじゃないですか」
生田が呆れたように言って酒とジュースを冷蔵庫に放り込みにかかる。
「ブ、ブレーカーという背面の敵がいる現状KOTATSU様の安直な出撃は大事故に繋がる……」
「熱量最弱で回すか、いっそ電気入れなくてもいいんじゃないですか。こたつって保温性高いからそれだけでも結構温かいもんですし」
「それじゃ!」
「ぐはぁ」
キマッた。いかん急速に気が遠く。
「ほらほら、みかんちゃん降りて降りて。武田先輩もプラモいじってないで雀牌出して」
「あ、こら、武田!」
みかんが最近作成したジムコマンドG型中隊(12機編隊)が武田の手によってアイドル騎馬戦状態に。たった数十秒でイタズラしたにしては異常に完成度の高いポージングだが、武田はいらんところで小器用なのでたまにこういうことをやらかす。
「合わせ目消し丁寧だなあ」
「いいから元の状態に戻せっつーの!」
みかんが部屋のあちこちに妖精さんの如くジムコマンドを仕込んで(冷蔵庫で卵持ってたりトイレの突っ張り棒の上で小旗持ってトイレットペーパーの三角山に登頂成功してたりした)遊んでいたのをわざわざ俺がかっこよく飾りなおしておいたというのに。
「武田氏、そのポージングをするならドール用ブラがなくては手抜かりじゃ」
「おお愛媛氏、確かにそうだ。色っぽくない」
「煽るな!」
ジムコマンドのお色気など誰も求めてない。
チャッチャッチャッ、とそれぞれ慣れた手つきで麻雀牌を積む。
こたつ麻雀。
「やっぱコレだよなー、大学生活の楽しみっちゃあ」
「お前はもう少し大学生活に対して視野を広く取るべきだと思うよ。楽しいけどさ」
しみじみと言う武田にツッコミを入れる。
「そういえば武田先輩、もう卒業でしたっけ」
「そういえばって……まあいいけど。確かに卒論ヤバかったしなー」
「もう完成したのか?」
「なんとかな。一応ってとこだが。まあほぼ大丈夫だって教授にも言われたし」
武田と俺は同期だが、俺が留年してしまったので卒業が一年早い。
「しかしお前が社会人ねぇ」
「悪いか。あ、それポン」
「悪くはないけど、ちゃんと就職できるってのがまだちょっと信じられない」
オタク度は俺より勝っていると言える本物のアキバ系だというのに。
「っつーかお前はのんびりしすぎだ。もう三年だろ、真面目に就職活動していい時期だぞ」
「また留年しちまうかもしれないしなあ」
「今度留年したらあたしと同学年ですよ。ロン。親満です」
「……アウチ」
点棒と、生田の同窓という二つの意味で中規模ダメージ。
「ククク。まあ就職浪人というのも健一には似合いじゃろ」
「黙れ無職居候の分際で!」
「早く積んでくださいよー」
「ま、オノケンなら俺よりゃ要領よく内定取れんじゃないか? 意外とアドリブ強いしさ」
「ちゃんと就職してくださいよー。恥ずかしい。はいリーチ」
「なんでお前が恥ずかしがるんだよ! っていうかダブリーかよ早ぇよ!」
「ふふふふふ、ダブリの健一だけにな」
「うるさいよ!」
そんなこんなでまったりと半荘終了。生田トップ。
みかん、武田と続いて俺ドンケツ。
「テメエら家主に容赦ねーな!」
「オノケン先輩がいちいち大物狙うのが悪いんでは」
「つーかオノケンの狙いわかりやす過ぎ。少し迷彩とか覚えろよ」
コイツらちょっと勝ち星が進んでるからって得意げに!
「次負けた奴スーパーまでお使いな。ドンキでもいいけど。おつまみ追加導入」
「くそ、言ったな!? 自転車貸してやらんぞ!?」
「罰ゲームありがやっぱ燃えますか」
「このクソ寒いのにお使いはキツいのう」
「見てろよお前ら。俺の勝負強さを」
ジャラジャラと牌をかき混ぜ、次戦に挑む。
どうも俺が負けるのは清一色と混一色ばかり狙うのがひとつの付け目になっているらしいので、対々和狙いに切り替える。
これは捨て牌が読みにくくて防御しづらかろうフハハハハ(素人考え)。
「ロン」
「あ、俺も」
「そこでど真ん中切るかのう」
アウチ。
「……オノケン先輩、さっきの寸評聞いてました?」
「ね、狙い変えたのに……」
「自分が和了ることばかりじゃなくて他人を和了らせない打ち筋をですね……」
「つか説教してるけど生田マジ容赦ねーな。ひのふの……三倍満って」
「武田氏のと合わせると見事にハコテンじゃのう」
いぇーい。箱かぶり最短記録更新かもしれない。
「頑張れー。サキイカな」
「イカリングお願いしまーす」
「イカばかりじゃろう。じゃあワシはうまい棒セット。サラダ味」
「ちくしょう!」
ジャンパーを乱暴に着てダッシュ。
次こそは勝つ。次こそは。
そして帰ってみると何故か次の半荘が始まっていた。
東家にみかん。
南家に生田
西家に武田。
そして生田の対面、北家でたおやかに手を滑らせるのは……不動さくら。
「!?」
「おかえりなさい、ケンくん。お邪魔してます」
「け、健一い……」
「な、なんでこんなことに」
「い、いえ、さっき来たので『なんでケンくんいないの』っていうから、罰ゲームって話したら」
「……仇討ちだってよ」
「大丈夫、そこそこ打てるから。……はい、ツモ。3900点オールね」
点棒の状況を見ると、既にかなりむしってるっぽい。
「……イカリングとサキイカとうまい棒」
「そ、そこにおいといて下さい。……う、うかつなの切れないな……」
「ワシ下手するとノーテン一回で飛ぶんじゃが……」
「く……こんなヒリつく勝負は久々だぜ」
そして、その状況で武田やみかんが勝てるはずもなく、あっさりと勝負は決まり。
「俺もう帰る」
「ビールあと6本あんぞ」
「かえる」
武田はお使いを終えると、背中を丸めて帰ってしまった。
「やー、ケンくん、ほら勝利の美酒よ」
「お前武田に何か恨みでもあるのか」
武田の残したビールを勝手に飲みながら上機嫌の不動さくら。
みかんと生田は部屋の隅で哭きの人とか雀聖と呼ばれた人とかの漫画を読みながら対策会議をしている。
「かんぱーい」
「というか最近お前よく顔出すな……」
「だってもう大学ほとんど講義ないし。なんか最近妙に暇だしねー」
酒飲んで嬉しそうに笑ってる。
……コイツも卒業する組なわけだが、妙に暇なのは……夏に霊能をみかんたちに封印されたおかげで、そっちの方面に割いてた時間が余ったせいだろうか。
記憶も改竄されてるから本人自覚はないだろうけど。
「さーて、じゃあ武田君もいなくなったことだし、ちょーど四人だし」
ニヤリとする不動さくら。
「とこっとん勝負つける、生田さん?」
「む……」
……そういやなんだか生田とさくら、後期の初っ端の学食での激突から妙な緊張感が漂ってたっけ。
「わ、ワシは抜けとった方がいいのかのう……」
「待てみかん、どこへ行く」
「え、えーと、コンビニで朝まで時間を潰そうかと」
「俺もいく!」
こんな無敵と最強の対決の場でヒリついていたら神経が大変なことになってしまう。
が。
「ちょーっと待ったー!」
天井から例の如く回転して飛び降りてくる金髪エルフ。どてらとロンスカとニット帽装備。
「ウメさん!?」
「フフフこの時を待っていたのよ!」
ニット帽とどてらを畳んでその辺におき、いそいそとこたつに入る。
「私も混ぜてー」
「駄目です。定員オーバー」
すげなくされても全くめげないというか意に介さないのがこの人の強さ。
「フフフ。……ねーザッキー、いいよねー」
「い、いやその……」
俺に転嫁されても困る……とみかんと一緒に逃げの一手を打とうとすると。
「ザッキー。……他の人が和了ったら一枚ずついくからさー。ザッキー見てるだけでいいからさー」
「!?」
ちょっと細めた目でぷち、とカーディガンのボタンを外してみせるウメさん。
他の女子がみんな震撼する。
「な、そんな……どういうつもりよっ!」
「だ、駄目ですよっ!」
真っ先に反対したのはやはり不動さくら。ついで生田。
「え、なんで? 家主さんにショバ代サービスくらい当然じゃない?」
「それは押し売りよ!」
「ちょっとは場の空気読んで下さい、そんなエッチなことっ……」
「んー、でも私、ザッキーに裸見せるのなんてそんな恥ずかしくないよ? もう何度も見せてるしねー」
「!!」
「そ、そういう問題じゃ……」
「あれー? そっちのおねーさんはザッキーのなんだったっけかなー? まだ恥ずかしいの?」
「そ、そんなことっ!!」
「ああっ、乗らないで下さい不動先輩っ!!」
「うーむ、まあよいか。ナマデンワとて一度くらい健一にパイオツ見せとるじゃろ」
「それとこれとは別で……」
「!! う、受けて立つわっ!!」
「ふどーせんぱいー!?」
……ウメさんは挑発させたら天下一品といえるかもしれない。
そして。
「ザーッキー、はいこれ」
「う、うん……って俺に渡すのかよ」
「嬉しくない?」
「ごめんちょっと嬉しい」
ポーン、と投げられたウメさんのブラが俺の手に乗る。
いい脱ぎっぷりだ。
そしてこたつを囲む4人の美女美少女、そのうち半分はトップレスで残り半分はブラジャー姿。
実力は拮抗している……と見せかけて、脱ぎが足りない面子に対しては容赦なく直撃させて脱がすという無駄に神がかった腕前を披露するウメさんだった。
「う、ううっ……み、見ないでくださいよう……」
トップレスなのはウメさんと生田。生田は恥ずかしそうに片手で胸を覆っているのが逆にそそる。
ちょっと可愛い縞のスポーツブラのみかんと、妙にレースの素敵な黒いブラのさくら。
そしてその様子を台所側から見ている俺。
「むむ……と、通らばリー」
「はいロン。2700点」
「ひっ!?」
ついにさくらもおっぱい披露の時が来た。
「け、ケンくん、こっち見ないでっ!」
「えー、なんか意外と深い仲っぽくないなー。あ、ザッキー私は無料で見放題、面倒な登録もなくとっても簡単だよー」
「どこの要検索ストリームだあんたのおっぱいは!」
「あはははは」
「くぅ……」
悔しそうにブラを取り、ヤケになったのか俺のほうに威勢良く投げるさくら。うん、こいつもなかなかのおっぱいだ。
「さーて、次はパンツよねー」
「……ワシのことはどーでもよいんかのう」
「みかんちゃん黙ってた方が……」
「いや、この空気で一人だけ脱がんのもなんか負けた気がしての」
「負けていいんだよそんなの……」
「勝っ……てもこの女が余計ケンくんを誘惑するだけ……脱がせば勝ちなのか脱がされれば勝ちなのかわからなくなってきたわ……」
「ふふふふふ」
俺がサムアップを送ると、力強くおっぱい揺らしながらウインクと共にサムアップを返してくれるウメさん。
実に素晴らしい混ぜっ返しの手腕だ。
が。
「へくしっ」
「さ、さすがにこの時期に長時間裸は辛いですよぅ」
「こたつ強めよっか。スイッチそっちー?」
「あ、ちょい待て、今パソコンも動いて」
バチン。
「きゃあああああああああ!?」
ブレーカーが落ちて漆黒の闇になった直後、不動さくらがいきなり悲鳴を上げる。
何かと思い、慌ててブレーカーを上げると、涙目になって俺に飛びついてきた。
「く、暗いのは、真っ暗は駄目ぇぇっ!!」
「お、おい、さくら!?」
その後も若干錯乱したさくらがキャーキャー騒いだのでちょうど来ていた大家さんに怒られ、おっぱい麻雀大会は自然にお開きになった。
「……さくらって暗いの駄目だったんだ」
「いや、多分例のアレの影響じゃろうな」
「?」
「霊能の制限。というか自分に霊能があるということを概念として忘れさせる記憶改竄。結果的に闇の中から聞こえてくる声、見えないはずの映像を理解できずに、現実感を閉じる『暗闇』に対して極度の恐怖感を抱いておるのじゃろ」
「…………」
「なんとかせねばならんかのう」
「お前は服を着ろ。というか何故ブラも脱いでやがる。その前に勝負終わってたろうが」
「実質的勝利を噛み締めとるんじゃ」
「頼むから着てください。まだ大家さんいるんです。今度踏み込まれたときにどう言い訳しろと」
「ワシだけならどうせ異常と認識できんからええんじゃと何度」
「そうだっけ」
「……くしゅんっ」
「いややっぱり着ろ。頼むから着ろ。見てるこっちが寒い」
「むー。感想はそれだけか」
「それだけってことにしといてください」
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