「見たところ一人のようじゃな」
 みかんがあぐらから片膝だけ立て、まるでヤクザの親分のように不動を見据える。
「生田さんと一緒に来たつもりだけれど?」
「はん、捕まえて案内させた、の間違いじゃろ。……ま、立ち話も何じゃ、上がれ」
「あ、あのなぁ……一応、俺んちだぞ」
「……言われてみればそうじゃの。どれ、ワシの部屋に移動するか」
 キレの悪い俺の突っ込みに、これまたらしくなく、素直に従うみかん。
「……い、いや、別にいいけど」
 調子が狂う。
「なら甘えよう。ほれ、座れ」
「…………」
 みかんを、警戒した目で見つめる不動。
「……お邪魔します」
 意を決したように不動を押しのけ、靴を脱いで俺の隣に座る生田。
 みかんの隣に行かず、俺にぴったりとくっついて座ったのは、コイツなりに自分はどちらの味方でもないという意思表示か。
「……状況を説明してもらえるか」
「見ての通りですよ。……どうやら、みかんちゃんたちについてもそこそこ調べはついてるみたいです」
「……個人情報?」
「いえ種族的特徴」
 生田を使って俺の部屋を探したのは……やっぱり前回の飲み会でのコナかけと関係あるんだろうな。
「お前は何かされなかったのか」
「直接、何かしようってのが目的じゃないみたいです」
 ……不動さくらの顔を見る。
 こいつは、何者なのか。
 何が目的なのか。
 そういえば、全然わからない。
「自称霊能者……そういえば、百年くらい昔にはそりゃあ多かったのう?」
 一向に動かない不動さくらに、嘲るようにみかんが声をかける。
「霊能、ね。現代ではそれなりにこの第六感についての研究も進んでいてね。……自分の知覚が捉えているものがそんなにオカルティックなものでないのは理解しているわ」
「ククッ。ムー系気取りか現代人気取りか、どっちかにしたらどうじゃ?」
「自称森の妖精が東京の安アパートで麦茶を飲んで、よく言うわ」
 バチバチと火花が散っている感じ。
 どちらも俺にとって魅力的な女だったはずなのに、今はその女性的魅力は影をひそめ、まるで鎧のように無機質な空気を発し、互いにじんわりとした殺気を放っていた。
「クックックッ」
 みかんは、それでも悠然とした態度を崩さず。
「して何の用じゃ? さして親しくもない同期生の訪問には、いささか時間が遅すぎやしないかの?」
「用なんてひとつよ」
 不動さくらがおもむろにハンドバッグに手を突っ込む。
 そして取り出したのは、短い「く」の字の黒い鉄の塊。
「!?」
 さすがに、俺と生田は同時に二人の間から離れる。
「ふん。今時トカちゃんか」
「選べるほど裏の世界には縁がなくてね。苦労したわ。……動かないで」
 トカレフ、というかピストルに詳しくない俺には銘柄なんてわからないが、とにかく拳銃をみかんに向ける不動さくら。
「私の用は、あなたの排除。……わかってるのよ、あなたたちの妖術は発音なしには発動しない。それでなくても敏感肌でね、あなたが何かやろうとしてもすぐにわかるわ。ちょっとでもおかしな真似をしようとしたら撃つ」
「やれやれ。……不動さくら、だったか。どこでそんな中途半端な知識を手に入れたのか知らんが。言っておくが、殺し損ねたらたとえどんな瀕死でもワシらはものの二秒で全快するぞ?」
「ちゃんと鼻っ面を狙うから大丈夫よ」
 クソ物騒な同期生は、にっこりと笑い。
「これ以上小野崎君と生田さんに関わらないと約束して。そして二度とこの星に来ないと。そうしたら……」
「やっほーザッキー」
 突然、不動さくらの後ろに生える金髪碧眼お気楽エルフ。
 ……空気読め。
「!!」
 当然超びびる不動さくら。
「なっ、何、あなたは……っ」
「通りすがりのエルフのお姉さんです」
「エルフっ……!?」
 いつもの笑顔で部屋の中を覗き込み、そしてみかんの表情を見て一瞬だけ固まり。
「ああ……」
 何かを得心した顔。
 そして。
「それにしてもそーゆーのはよくないなー」
 困ったように笑いながら、不動さくらの手の銃を指差す。
 不動はその瞬間、青ざめた。
 当然、銃は前後二方向には撃てない。そして発砲したが最後、次の瞬間には二人の「エイリアン」のどちらかに、「何か」をさせる隙になる。
 この時点で脅迫を軸にした不動さくらの「対エイリアン戦術」は破綻していた。
 が。
「くっ……!!」
 至近にいたウメさんを、人質にすればいい。
 逆転の秘策として閃いたのだろう。即座にウメさんに銃を向けつつ手を伸ばし、

「そーゆーのはね、古今東西負け役のやることだよ?」

 ウメさんは銃口を手で塞ぎ、伸ばしてきた手も逆にひねり上げる。
 銃への恐怖など微塵もない、ある意味エイリアンらしい大胆さだった。
「い、ぎっっ……!?」
「エイリアンと戦う気ならハイヒールで来るもんじゃないよねー」
「……お主に助けられるとはのう」
「いやー、別に助けに来たわけじゃないよー?」
 不動さくらをあれよあれよという間に床に押し付けて踏みつけるウメさん。武道の心得でもあるのかもしれない。
 ……って、何千年の寿命の人たちだ、片手間に何学んでたっておかしくないけど。
 とにかく思わぬ発砲事件の危機が去り、胸を撫で下ろす俺と生田。
 が。
「……さてと。ついに、そーゆー時期みたいね?」
 ウメさんが寂しそうに、俺を見る。
 みかんに目を移すと、みかんもまた。
「うむ。……健一」
「な……なんだ、よ」
「そろそろ、時がきた」
 みかんは、にっこりと笑い、立ち上がって。

「──────────!!」

 歌った。


 気がつくと闇の底にいた。
 自分の手足はうすらぼんやりと見えるが、上も下も何も見えない。
 地面はあるみたいだが、自分がどこにいるのかは、わからなかった。
「くっ……!!」
 俺は焦燥感に駆られ、闇の中で走り出す。
 みかんはああいう笑い方をするヤツじゃない。あんな綺麗な笑いじゃなくて、もっとこう、なんというか、俗物で駄目駄目な。
 と、何かにぶつかる。
「きゃっ……!?」
「ぬ、わっ……!?」
 声に聞き覚えあり。
 闇に目を凝らすと、俺とぶつかって尻餅をついていたのは不動さくらだった。
「不動……!?」
「小野崎……君」
 不動は気まずそうに目を逸らす。
 何を説明するでもなく、いきなりピストルなんて振り回した挙句に取り押さえられて、あれじゃ単なる狂人だ。気まずいのも無理はない。
「不動……お前」
「……小野崎君、ここは何? ……私をどうする気?」
「俺が聞きたいぐらいだ」
「……?」
 不動は、俺がみかんたちの意思に沿い、何かの目的があって「ここ」に閉じ込めたと思っているらしい。
 そりゃ……そう思うだろうけど。
「俺も閉じ込められたっぽいし、アイツらがなにをしたいのかはよくわからない」
「……何、それ」
「本当なんだ」

 とりあえずぼんやり向かい合って意味のない驚き合いをしていてもしょうがないので、不動の手を引いて歩き出す。
 地面は平坦で、とりあえず足元が見えないからといって困ることはなかった。
「……不動、お前、なんなんだ? なんでアイツにピストルなんか向けた? アイツらのこと、どこまで知ってるんだ?」
「…………」
「不動」
「あなたはどこまで知ってるの?」
「……多分お前よりは少ないよ」
「いいから」
 ……まあ、ピストル持ってるわけでもなし、下手すれば一生ここから出られないとかっていう罰ゲームかもしれないし。
 今の不動に、俺の知っていることを話してもそれほど問題はないのか。
「……アイツらは銀河の反対側の星から来てて」
「うん」
「トーンキャストとかいう歌で他人の認識を操れたり瞬間移動したりできて」
「うん」
「あと水浴びの時には男がいても全裸」
「…………!!」
 あ、微妙に固まった。
「みかん……黒いチビ助の方はは多分無職。金髪の方はノーパンだったりぱふぱふしたりするエッチな喫茶店勤務。無類のスキンシップ好き」
「…………」
 言えって言ったんだから仕方ないだろ!

「私があのエイリアンのことを知ったのは偶然」
 俺が一通り話すと、不動さくらは渋々と口を開いた。
「霊の中に、あのエイリアンがいたの」
「……あいつらの、霊か」
 想像はしにくいが、こっちの世界で死ぬエルフもいたのだろう。とても長命なようだが不死身だとは聞いていないし、実際あいつら食ったり飲んだり欲まみれだし。
「霊というのは、強度によってはこっちの意識を飲んじゃったりするけど、その霊はかなり弱まってたから押さえ込めた。そして逆に彼の持つ情報を引き出せるだけ引き出せた。……そこからわかった事実は大筋、小野崎君と同じ。そして、奇妙……というか、当然なんだけど、いくらその事実を訴えようとしても誰も耳を貸さないし、実在の証拠もつかめない」
「…………」
 認識させない、定着させない。
 エルフを始めとする異星人たちは自分の存在をそうやって人類社会に馴染ませ、紛れ込んでいる。
「東京にきて、ますます実在に対する確信は深くなったわ。霊の母数が多いから、エイリアンの霊も段違いに多いもの」
「……それで、どうしてピストルなんか用意するに至ったんだ」
「決まってるじゃない。私たちの星に、異星人のスパイが紛れ込んでいるのよ。しかも地球人を取り込もうとまでしてるのに」
「それで……追い出すために?」
「本当は私が権力者とかならいいんだけどね。……誰も協力してくれない、私一人ではピストルが限界。それだって、霊能を生かしてかなり危ない端を渡って、ようやくだけどね」
 きっと霊能者には霊能者なりに色々手段があるんだろう。いろいろと困った人が隠した場所を探るとか、弱みを掴むとか。もしかしたらヤクザと霊能を通じてコンタクトし、直接取引したりしたのかもしれない。
 でも。
「……そんなのひとつでなんとかできるほど、ヤツらは少なくないぞ?」
 エルフは人間社会にかなりの数が入り込んでいる。俺はそれを見た。一人や二人、ピストルで殺したり追い返したりしたところで焼け石に水にもなりはしない。
 が。
「あのね、小野崎君」
 不動は呆れたように言った。
「その、あなたのエイリアンに対する認識自体、いじられている可能性もあるのよ?」
「…………」
 そこを疑いだすとそれこそ何も言えない。
「もしかしたらまだ少数かもしれない。見つけて、私たちがやられっ放しじゃないってことを向こうにわからせることができるなら……」

『残念ながら、健一の言うことの方が正しい』

 みかんの声が響いた。
「みかん!?」
『ワシらは、お主らが思っているほど少なくはない。街を歩けば外国人と大差ない頻度ですれ違えるし、そのほとんどが、魔法を操れる』
「人数とか、魔法とかっ……ふざけたことを言わないで!」
 不動が空に向かって叫ぶが、みかんの声はいささかもイラつきも慌てもしない。
『魔法は特別ではない。ワシらが特別なのではない。……特別なのは、お主らじゃ』

 不意に、周囲が星空になる。
 いや。
 宇宙。
 加速度を感じない、ただ高速で流れる宇宙空間の幻像。
 俺と不動は手を繋いで、宇宙空間に立ち尽くしたまま、星の海を泳いでいた。
「なっ……」
 俺はなんとなくすぐに幻覚とわかったが、不動はさすがに驚いている。

『この銀河に、どれだけの星があり』

 やがて、銀河を見下ろす位置に辿り着く。
 みかんの声に相槌を打つように、ウメさんの声も響く。

『どれだけの知的な生命がいるかなんて、想像もつかないでしょ?』

 一拍。
『全ては神様が創った』
『直径十万光年、厚さ1.5万光年』
『四千億の恒星とその惑星、星雲』
『全ての星々が纏う「エネルギー場」を細胞とし、シナプスとした、エネルギー生命体……いいえ、巨大意識体』
『それが、ワシらとお主らが神様と呼ぶもの』

 星の海を駆けながら。
 途方もない大きさのガス惑星に、何十キロという大きさの小惑星が、ぽちゃんと落ちて波紋を作る。
 巨大すぎて理解できないほどの恒星をかすめ、それらが無数に集まった円盤を頭上に見上げて。
 俺と不動さくらは圧倒されながら、ぽかんと口を開ける。
『この円盤が身じろぐだけのエネルギーに想像がつくか?』
『その意識体にアクセスして、その力を借りる「魔法」には、一生命体の想像力が追いつく限りのことを叶え続けたとしても、実際のところなんの消費にもならないんだよ』
 銀河に飛び込み、恒星をかすめる。
 灼熱の惑星ふたつを経て、妙に大きな衛星を伴う青い惑星に、飛び込む。
 そしてそこに、溢れかえるように緑と動物が生まれる。誰かが歩いた軌跡に沿って、荒野を切り裂くように、緑が溢れていく。
 それは、ウメさんがいつかやったという生命創造のプロセスだった。
『……知的生命というのはな。銀河一般において、この「神様」にアクセスし、望みの効果を引き出す技術を……魔法を持つ種族を言う』
『そしてその括りに、未だ地球人類は到達してない』
『……世界全ての核兵器など持ってきても、例え人類全てが団結しても』
 忽然と、地球の近傍に彗星が現れる。
『魔法を持つ種族にはね。かなわないよ。見えず、効かず、追いつかず、死なないんだから』
 結末は、見せるまでもない。
 そう言いたげに、地球と彗星はフェードアウトした。


 いつの間にか不動と二人、手を繋いだまま、部屋の中で倒れていた。
 その俺たちを囲むように、みかんとウメさん、そして生田が座っている。
「……なあ、みかん」
 俺はぼんやりする頭で起き上がり、みかんを見た。
「……お前たちは、何をしに……?」
「地球文明は未熟なんです」
 代わりに生田が口を開いた。
「……食べ物を取り合う。機械を作る。政治をして、資源をやりくりして、必死に未来へ進んでいく。……もう、ないんです。銀河、神、魔法という力を手に入れた種族に、そんな悩みなんて」
「…………」
「だけど、約束された無限の満足と、安寧の長い長い時間は、どんな種族も繁栄には導かなかった」
「え……」
 生田は目を合わせない。
 銀河にありふれた異世界の末路と、醜く足掻く地球の現実。
 両方の血を持つ生田は。
「だから次の文化が育つのを待つんです。次の知的種族が生み出すものを、待つんですよ」
 複雑そうな声で言った。
「神様は、自分の似姿としてミクロな物質で生命と知性を生み出した。そして知性は怠惰な安眠の末の静かな死を憂い、次の世界に望みを託す。……そして地球は、その何万だか何十万だか知りませんけどね。それくらいの世代のステージなんです」
 生田の言葉の余韻が消えるのを待って、ゆっくりとみかんが口を開く。
「神はおる。精霊も悪魔もおる。白いエルフも黒いエルフも、おそらくは猫耳もうさ耳もも妖怪もUMAも、地球とは違うどこかから来て、幼くも足掻き続ける人類をオモチャにしながら、待っておる」
 ウメさんは、いつもと違う妙に哀しみと慈愛に満ちた目をしている。
「待ってるんだよ。神様も、私たちも」
 生田は眼鏡を外した。指を振って、エルフ耳を隠す幻像も払う。
「……自分たちでもわからない、自分たちでは辿り着けなかった『何か』を、人類がいつか生み出すかもしれない、その時を」
 みかんは微笑んだ。
「じゃから……これは、仕方のないことなのじゃよ。……健一。また、こうなってしまったのう」


 歌が。
 聞いた端から消えていくような、澄んだ歌が響く。










 2008年、夏。
 ありふれた休みの朝。
 俺は、大森駅の改札前で、降りてきた彼女に手を上げた。
「さくら!」
「ケンくん、おまたせ」
 輝くような笑顔を見せる、さくら。
 ついこの間からの、俺の恋人。
 彼女との出会いはもう三年半も前になるが、思い通じて付き合い始めたのはほんの数週間前の話だ。
「どこに行こうか」
「デートコースは男の子の腕の見せ所でしょ?」
 彼女を恋人にしてからの毎日は、輝いている。
 今まで生きてきた人生が、まるで色褪せてしまっていた。
 俺は彼女に恋するまで、何をして生きていたんだ、とか、真剣に考えてしまう。

 イトーヨーカドー三階でサーティーワンアイスを食べたり。
 ロイホで昼食を共にしたり。
 水族館で、バカでっかいピラルクやアカエイにキャーキャー言ってみたり。
 俺とさくらは、ただのなんでもない大森周辺を満喫する。

 そして、夕方。
 お決まりとして、俺の部屋に。
 ココから先は大人の時間だ。
「散らかってて悪いな」
「そうでもないじゃない」
 今までどうして使っていなかったのか、ガランとした押入れに雑誌とかゲーム機とか、こまごましたものを押し込めたからなんだけど。
 それなりにちゃんと掃除はした。
 それでも、安アパートにきちんと足を揃えて正座するさくらはどこか掃き溜めの鶴というか、微妙に浮いた存在感。
 でも、そんなミスマッチもワクワクしてしまう。
 と。

 コンコン、とドアがノックされる。

「はい」
 俺はドアを開ける。
 そこには中学生くらいの、見慣れない女の子が立っていた。
「……どちらさんで?」
 黙って立っている女の子に俺がそう言うと、女の子は微笑んだ。
 なんだか安心したように。
「?」
「あ……隣の者ですが、明日引っ越すことになりまして。ご近所にご挨拶を」
「ああ……すみません、お隣の人だったんですか」
 俺は頭を掻いた。
 東京に限らず、都会って奴は近所付き合いが希薄になりがち。
 俺だってずっと住んでいたのに、隣に女の子が住んでいることさえ知らないなんて。俺も東京者になっちゃったもんだ。
「はい」
 彼女は再び微笑んで。
「あまりご縁もありませんでしたが、そういうことですので。ちょっとゴタつきますが申し訳ありません」
「ああ……うん。そりゃ構わないですけど」
 俺はなんだかあまりにも周りに無関心な自分が恥ずかしく思えて、適当に会釈をしてドアを閉める。
「誰?」
「お隣さんだってさ。あした引っ越すからゴタつくって」
「ふうん」
 さくらは少し意地悪な目をした。
「女の声だったけど。可愛かった?」
「……さあ」
「さあ、って」
 誤魔化したと思ったのか、さくらが膨れる。
 が、可愛かったともそうでなかったとも言い切れない。
 なんとなく印象の薄い娘だったのだ。
「もう。……ケンくんってば、私とエルフ以外には本当に淡白ね」
「エルフ……?」
「あら? エルフって好きじゃなかった? ファンタジーの。それがいるかどうかで見る漫画選んでるとか、武田君のサークルでもよくそんな話してたじゃない」
「…………」
 そうだったっけ。
 エルフって……ええと。
「耳尖ってる奴だっけ?」
「そう、それ」

「……んー。昔は好きなキャラいたかも知れないけど、思い出せないや」


 不動さくらと恋人になるまでの俺の人生は。
 まるで色褪せてしまっていた。
 俺は、そのことに疑問を持っていない。

(続く)


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