「で、その二人とはどういう関係?」
「恋人」
「……どっちが?」
「両方。どっちも、俺の愛しい女」
それで、姉さんは爆発した。椅子を鳴らして起ち上がり、もともとつり目気味の目が
もう三角になって、上品な口も怒鳴るために大きく開いた。
「いいかげんにして!」
声は爆音+高周波で、正直つらい。両脇の沙織や里香も目を閉じて身をすくめている。
姉さんと違ってこっちはかわいい。
ダイニングでは、姉さんによる俺への審問が行われていた。
不適切な関係についての釈明を聞くってやつだ。
直接的な証拠を掴まれていないのなら、まだ言い逃れとかごまかしとかも考えてもよかった。
けれども、こうも決定的な場面をみられると、言い訳をしようという気力がわかない。
「それは二股でしょう! 雅史は、二股掛けられる女の子の気持ちがわからないの?」
そんな馬鹿ではない。道徳論がとおらない事態に陥っているだけだし、
そこは俺が最近悩み抜いたところだ。
結論はすでにでている。机にのりだして俺を睨みつける姉さんの目を、
俺はいっさい視線をそらさず見返した。
「気持ちを考えたから、二人と付き合っている。独占させてあげられないつらさはわかるつもりだ。
だから、沙織と里香をできるだけ愛してやり、できるだけ悲しみを少なくするように努力している。
できているかどうかは、わからないところがあるけど」
俺の言葉を聞いた二人がそっと俺の手を握ってくれた。
「馬鹿言わないで! そんなのは都合のいい言い訳よ!」
「じゃあ、どうしろと?」
「別れなさい! 二人に頭を下げて、……ううん、土下座して、謝りなさい!
そして何を言われても耐えなさい。
雅史がやったことは、それだけ酷いことなんだから!」
それも俺がすでに通ってきた道だった。
「で、別れて、誰が幸せになるの?」
「雅史っ! 二股を続けても、女としての幸せはないのよっ! 
別れれば、その子達をそれぞれ愛するふさわしい人が出てくるかも知れないのに、
あなたはそれを邪魔しているの。わかる?」
俺はここで初めて姉さんから視点を外し、二人を交互にみた。
「姉さんの言葉に一理はあるけどどうする? 里香や沙織を独占して愛する男が
出てくるかもしれないのはその通り。
女の幸せに関しては、俺にはわからない。でもやっぱりこの関係に耐えられないって言うなら、
それは仕方がないと思う。
相手に負けるみたいで悔しいとかそういうのを抜きにして、もう一度よく考えてみてくれ」
そういうと俺は目を閉じて待った。姉さんも少し落ち着いて腰を椅子に下ろした。
いずれ、明るみに出れば批判は来るし、第三者の目にさらされると保たない関係なら、
今壊れるのも仕方がないと思う。
良い夢を見ることが出来たと思った。俺には過ぎた夢だった。後悔はない。

「私は、矢代くんの側に居たいです。……ううん、矢代くんだけなんです、
私を受け入れてくれたのは。
本当は矢代くんを私だけのものにしたいです。……中塚さんがいると腹が立って悲しいです。
……でも、矢代くんに捨てられるのは、……い……や……です……」
沙織の語尾は泣き声で震えていた。体を震わせてしゃくり上げる沙織を俺は抱き寄せ、
頭を優しく撫でる。
俺を必要としてくれることへの心からの感謝の気持ちで、抱きしめた。
キスして押し倒して入れながら抱きしめたくなったが、それは我慢した。
「お姉さんは、つらかったときに、誰にも理解されなかったときに、
ただ一人側にいてくれて助けてくれた人をあきらめることができますか?」
うつむいていた里香が、眼鏡を光らせながら、姉さんの目をみつめた。
「それに愛してくれる人がまた出てくるなんてどうして言えるんですか?」
「あのね、あなたは雅史に二股……」
「私が矢代くんを奪い返したくて、片桐さんと付き合っていた矢代くんを誘惑しました。
片桐さんに奪われてそれっきりなんて絶対に嫌だったんです。
あきらめたくて、あきらめようとして、毎日泣いて、でも矢代くんは優しくて、
そしてわかってくれるんです。
もう嫌なんです! あんな苦しいのは嫌です!
片桐さんは大っ嫌いだけどそれでも、それでも……」
里香が絶句して、そして透明な滴だけが後から止めどもなく流れ落ちる。
空いた手で、里香を引き寄せて、そっと涙をぬぐう。
途方もなく自分が幸せ者だと気付かされて、
同時に沙織と里香を支えなければいけない責任の重さも感じて、足が震えそうになった。
一人、自分のことだけ考えて気ままに過ごした日々を、懐かしくさえ思った。
かけがえのない愛を二つも手に入れた代わりに、自由も放埒も、たった今失われたのを知った。
子供の日々が終わったのだと、手に入れた愛の重さが告げていた。
「な、何を……、あんたたちは何を言ってるの? ……そんな関係って……雅史!」
呆然として震える姉さんは、俺をみて叫ぶ。でも、すでに俺を呼ぶその声にに力はない。
「姉さん、確かに俺は人に言えないような事をしている。モラルに反している。
姉さんの言うとおりだと思う。
だけど、沙織も里香も俺を必要としてくれるから、応えてやりたいんだ。
モラルに反するからって切り捨てても沙織も里香も幸せにしないんだ。
ほんとは二股なんて悪いことなのに、どうしてだろうね。
……ともかく、俺は自分が二股をかける最低の男って言われても、
それを受け止めることにしたんだ。
自分が正しくあるよりも、沙織と里香が幸せな方が、たぶん、とても大事な事だから。
……ごめん、姉さん。心配をかける悪い弟でごめん。……ごめんなさい」
涙を浮かべて目を見開く姉さんの姿に、頭を下げながら俺の心が痛んだ。
誰かを幸せにしようとして、別の誰かを傷つけていくことが、何よりも悲しい。
けど俺は全員を幸せにする方法を知らない。そんな力を持っていない。
だから、せめて俺を好きになってくれた沙織と里香だけでも幸せにしてやりたい。
もしかしたら俺達の未来が苦い結末に終わり、二人が俺から去り、俺は全てを失うかもしれない。
でもそんな不確定な未来で、彼女達の今の思いを踏みにじる理由にすることはできない。
姉さんはきっと俺を軽蔑し、嫌悪するだろう。だが、それは避けようの無い結果だ。
「ごめん、姉さん。……今までありがとう」
「どうして……どうして……」
姉さんが泣いていた。力なく椅子に座りこんで、嗚咽を殺して、こぼれ落ちる涙を拭きもせず、
静かに泣いていた。
「沙織、里香、行こう」
放って置いていいのかと目で語りかける二人に俺はかぶりを振った。
姉さんの信頼も愛情も裏切った最低の男が、これ以上舌を動かしたとしても、
それは姉さんを傷つけるだけだと思ったのだ。

「泣いていたけどいいの?」
「言い訳をしても二股は二股だから。何を言っても姉さんを傷つけるだけだから」
里香が俺の言葉を聞いて、顔をうなだれさせる。
沙織はつないでいた手に少し力をいれた。
自宅から駅までの夜道を俺達は歩いている。
夜空は晴れ上がって輝く砂粒をばらまいたように満天に星がきらめいていた。
涼風が俺達の間を吹き抜けていき、紙屑を転がしていった。
「でも……お姉さんも矢代くんをすごく愛してるんですね。すこし妬けます」
沙織の言葉に、俺は複雑なものが心をよぎるのを感じた。
「愛してる……か。どうだかな。あの人は本当に俺を愛しているのかな?」
「何を言ってるの? 普通ならあんなに怒らないんだから!」
俺の言葉に里香が少し怒ったような表情をした。
「きっと、姉さんは温かい家庭が欲しかっただけなんだよ。
だけど血のつながらない父親への違和感がどうしても残って。
それでも母親に迷惑掛けたくなくて、だから、俺と仲良くすることでそれを埋めようと頑張って。
……それで昔の俺が無邪気に応えてしまったから、姉さんは俺の世話をすることが、
姉さんの望みにすり替わったんだ。
いまでも俺の世話をして、姉さんが望む、昔の俺達の家が戻ってくると思ってる。
……もう他人なのにな」
心に浮かんだ言葉をふと垂れ流して、俺は周囲の沈黙に気付いた。
沙織も里香も、驚いた目をしていた。
「なに? どうしたの?」
「ちょ、ちょっと待って! 血のつながらない?」
「もう他人ってどういうことです?」
「あっ! ……あ、いや、家庭の事情ということで」
「……おかしいとは思ってたんです。矢代くんの家、女物がありませんでした。
女性が生活している気配が無いんです」
「それどころかいつ来ても誰もいないし、私、二週間ほど通って、初めてお姉さんにあった」
普段はけんかしているくせにこういうとき、女は団結するらしい。
「私も初めてです。実はいろいろと聞きたいことがありました」
「うん、ちょっと嫌だけど、片桐さんに同感。というわけで」
俺の肩に里香の手が掛けられる。沙織が腕を抱き込んだ。
「「詳しい話を聞かせてもらいましょうか?」」
二チャンネルステレオ音声での命令に、俺が逆らえるはずもない。

 ファーストフード店のマークが印刷された紙コップに残ったコーヒーはわずかだった。
店内では食欲の解消にいそしんだり、新聞や本を読んだり、
雑談したりと思い思いに客が過ごしている。
「簡単に言えば、姉さんは義理の母の連れ子。俺は親父の連れ子。
そして、義理の母と親父はすでに五年ほど前に離婚ずみ」
俺の前に沙織と里香が珍しく並んで座り、ジュースを飲んでいる。
俺の家庭事情に興味津々というわけなのだが、俺は長々とした自分語りに酔うつもりはなかった。
不幸といえるかも知れないが、悪いことばかりだったわけじゃないからだ。
「あ、あの、変なこと聞いちゃって、ごめんなさい」
「……私は謝らないから。私は矢代くんの事を知りたいし、知るべきだと思う。
矢代くんは弱みを見せたくないって思って、すぐに人の間に壁をつくろうとするけど、
もうこんな関係になったんだから、そういうの私許さない」
頭を下げた沙織が傲然と胸をはる里香を驚きの目で見上げた。
だがその里香の顔もすこしばつの悪そうな色が漂っている。
俺は肩をすくめた。
「いいさ。里香の言うことは正しい。……沙織も、もう謝らなくていい」
「じゃ、突っ込んで聞くけど、実のお母さんは?」
「……四年前の夏休みの時は、ヤクザみたいなヒモの女をしていた」
二人の女の顔が凍り付く。特に尋ねた里香は、顔面を蒼白にしていた。
「気にするなよ。ナイーブな中学生が、親の離婚を契機に本当の母親のことが気になって、
訪ねてみたらそうだったってだけのことだから。
それ以上は知らないよ。良かったら次の質問どうぞ?」
動揺はない。昔の話だし、真実というものが残酷過ぎて小気味良いので、
割り切りやすかったというのもある。
子供を捨てた母親に幻想をみた俺が間抜けなだけという話だ。
「……その」
「謝るのはなし。里香と沙織が俺の家庭事情を知ることのどこが悪い?」
顔を曇らせて頭を下げかける里香を制止する。善意なのだろうけど謝られると惨めな気分になる。
「……義理のお母さんと矢代くんのお父さんが離婚になったのはどうしてですか?」
勇気を出して訊いてみましたって顔をして、沙織が尋ねた。
「義理の母に好きな男が出来たから。義理の母は、前の旦那とよりが戻っちゃったんだよ。
よりが戻りかけても一旦は別れるとかなんとかしたんだけど、結局完全に戻っちゃって、離婚した」
二人の顔がますます重くなる。 
これだから身の上話はいやだった。俺は残ったコーヒーを飲み干した。
「ああ、もう。そんな変な顔するなって。俺のお袋達の話はもういいよな?
聞きたいのは姉さんのことだろ? ついでに親父のことも話しておこうか?」
二人は顔を見合わせ、やがて戸惑ったようにうなづく。
「じゃ、親父のことから。親父は今年の初めくらいから三十代のバツ一女性にはまってて、
そっちの家に泊まり込んでる。
少し前に紹介されたから、俺が高校卒業したら結婚するんじゃないかな?」
女達の応えはない。その後悔と罪悪感に満ちた顔を見て、
舌打ちしたい気分になったが、こらえて話をすすめる。
「で、姉さんだけど、さっきも言ったとおり、義理の母の連れ子だから、
血のつながりがなくて離婚したら他人なわけ。
だけど、姉さん的には親父と義理の母にもう一度再婚してほしいらしいんだ」

「それって!」
「無茶だろ? ただ、あの人……ああ、ごめん。義理の母ね。
あの人は前の旦那とよりをもどしたらさっそくそいつにに殴られて酷い目にあったんだってさ。
たぶんあの人は根っからのDVマゾ体質の女なんだよ。
殴られないと愛されている実感が湧かない人なんじゃないかな?
あばらと鼻を折られて離婚したのに、再婚した俺の親父が殴らなかったから、
愛されているかどうか不安になったらしい。
それで、よりが戻ったらまた殴られて、ついには腰の骨折って入院だってさ。
もうどうしようもないよ。
けれども姉さんにとっては、自分の母親だからなんとかなって欲しいって思うんだろうね。
時々俺の親父にもう一度やり直せないかって言ってる」
「そんなの最低の女です……あっ、その……」
沙織の顔が嫌悪に歪み、非難したのが俺の義理の母であることに気付き、あわてた。
「いや、その気持ちはわかるよ。ただ、やり直したいって思ってるのは姉さんで、
昔家族だった時の俺達の温かい関係を取り戻したいらしい。
だからたまに俺の家に来て、俺や親父のために飯を作ってさ、また家族になりたい、
あの人とやり直せないかって訊くんだ。
親父は大人だからさ、姉さんの気持ちを察してはぐらかして答えないんだけどさ、
答えないから姉さんは、まだ希望を持ってる」
二人は、もう一言も発しなかった。
俺は涙を浮かべていた姉さんの顔を思い出す。
ちくちくと刺す胸の痛みは平気な顔を取り繕って耐えた。
「だから、姉さんは、もう他人なのに、昔のように俺の姉さんで居たいんだ。
壊れてしまったものなのに、それでもとりもどしたいんだよ。
でも姉さんはさ、不倫で狂ってたあの人と俺達の間で板挟みになりながら、
必死で頑張って俺を愛してくれた人なんだ。
だからそう言う人をむげにはできないんだけど、……それでも沙織や里香を悲しませてまで、
姉弟ごっこする必要はないよ。
悪いけど、姉さんには本当に悪いけど、俺にはどうすることもできない。
きっと今がそんな空しい夢を終わらせるしおどきなんだと思う」
重たい空気を吹き飛ばしたくて、俺は大きくため息をついた。
「ふぅぅ、さ、つまんない話はこれでおしまい! これ以上遅くなったら怒られるだろ?
もう帰らなきゃ」
起ち上がった俺を四つの瞳が、冴えない色で見上げる。俺は彼女らの手を引いて起ち上がらせた。
「もう終わったことなんだ。今、そんな顔をして悩んでもとりかえしはつかない。
それに、俺達だって偉そうな事は言えない。
俺のやってることは、親父を裏切ったあの人とあまり変わらないから」
その言葉で二人の顔に緊張が戻った。
「だから、俺は沙織や里香をできるだけ幸せにするしかない。
いや、俺が沙織や里香と一緒に幸せになって、姉さんなんかいらないって事を
見せつけてやらなきゃいけないんだ。
そうやって姉さんを俺と過去とあの人から解放してやって、
姉さんがいい人を捜すようにしむけなきゃ。
それが、俺の姉さんに対する最後の恩返しだよ。……さあ、帰ろうぜ」
そうして二人の手をひいて店を出たとき、俺はしゃくり上げる声を聞いた。
振り返ると、二人ともこぼれ落ちる涙を手でふきつつ泣いていた。
「な、なんで泣くわけ?」
彼女たちは答えなかった。だから俺は二人を引き寄せた。
「大丈夫だよ。口で語れば酷いことばかりに聞こえるけど、楽しいこともいっぱいあったんだ。
二人が思うほど酷くて悲しいもんじゃないよ。ただ、ちょっと関係が複雑なだけでさ」
だが彼女たちは泣きやまない。
泣いているのは彼女たちなのに、なぜか俺の心が解放感と温かさに包まれていた。
よくわからなかった。よくわからなかったけど、見上げた空に優しく星が瞬いていた。
この時のことを、俺はずっと後になっても克明に思い出すことが出来た。

 二人を送って家に帰ると、電灯は全て消えていた。
姉さんは帰ったのかと思いながら、電灯をつけて俺は息が詰まるほど驚くことになった。
ダイニングの暗闇の中で、姉さんがじっと座っていたのだ。
「姉さん! ど、どうしたんだよ?」
その言葉で目を泣きはらした姉さんが顔をあげる。それを見て、俺の胸が潰れそうに痛んだ。
「……まーくん、……ご飯食べるよね?」
見ると、テーブルには料理が並んでいる。……沙織と里香が作ったものではないが。
「……う、うん。食べるよ」
俺に選択肢があるはずもない。
いそいそと立ち上がってご飯を盛りつけ始める姉さんの目を盗んで俺はゴミ箱をのぞく。
……俺が食べさせてもらっていた料理は無惨な姿でそこにあった。
ため息をついて、俺は見なかったことにした。

「はい、あーん」
そりゃ、ここんとこ毎日こうだったし、楽しんでもいた。だが、
「姉さん、……頼むから箸をよこして下さい」
頭を抱える俺のすぐ横で、姉さんが箸で料理をつまんで、俺の口に運ぼうとしていた。
米飯を茶碗に盛って、お茶を入れると、姉さんは俺の左にわざわざ椅子を寄せ、
密着して座ったのだ。
箸が用意されていなかったから、はじめっからそのつもりだったのだ。
泣きはらした目も、今現在はなぜかきらきらと喜びに輝いていたりする。
「あの子達にさせて、私じゃ駄目なの? 昔は私が食べさせてあげたのに」
「昔って俺が二歳や三歳の頃じゃないですかっ!」
抗議をするが、姉さんはがんとして動かなかった。
俺には姉さんの考えがさっぱりわからなかった。
……俺の周りの女ってどうしてこういうのが多いのだろうかと思った。
「はい、あーん」 
「姉さん!」
「……そうなんだ。あの子達の料理は食べられても、私のじゃ駄目なんだ」
見る見るうちに姉さんがしおたれて、うつむいた姉さんの顔から左手の皿に、
涙とおぼしきしずくがしたたり落ちはじめる。
「わ、わかりました。わかりましたってば! 食べますから!」
だが姉さんは顔を上げない。
「ごめんなさい、姉さん。どうか俺に食べさせて下さい。お願いしますから」
「そう? もうまーくんってば、甘えたさんなんだから」
ぱっとあげた顔には満面の笑みが浮かんでいて、涙は一滴も見あたらない。
頭を殴られるような衝撃と共に「また、やられた」という感慨が通り過ぎた。
小さい頃からこの手を何度食ったことか。俺も大概進歩がなかった。
だが姉さんは俺に反撃の隙を与えず、料理がつままれた箸を俺の口に突き出した。
観念して口を開け、入れられたものを咀嚼して飲み込んだ。
「はい、あーん」
姉さんは何か知らないけどやる気だった。

 姉さんに飯を食べさせられた後、風呂に入り、俺は自室にひきあげた。
姉さんはこの家に泊まるときは、昔の姉さんの部屋を使っている。
どうせ親子二人には広すぎる家なのだ。
いろいろと精神的に疲れたが、問題集はやっておくべきだったので済ませる。
切りの良いところまで進めると、時間は寝る時間になっていた。
スタンドの蛍光灯を消し、小さくのびをする。
机から起ち上がって、明日の授業の準備を行い、
手帳を見てやり忘れた課題がないかどうかを確かめる。
見落としはなく、必要なものを鞄に詰め、明日着ていくワイシャツと制服を取り出して壁に掛けた。
そのまま部屋の電灯を消して、ベッドに転がり込み、やけにベッドが温かい事に気付く。
手を伸ばして探ると、柔らかく温かいものが触れた。
「姉さん! いつのまに!」
ふとんを剥ぐと、過激なほどセクシーなナイトウェアを来た姉さんが微笑んでいた。
「勉強ご苦労様。集中してたから邪魔しないようにそっと入ったの。さあ、一緒に寝ましょう?
いらっしゃい」
ぽんぽんと自分の隣を軽く叩いて姉さんが俺を誘った。もちろん、いけるわけがない。
「姉さん、俺はもう子供じゃないんだから」
「まだまだ子供よ。私はまーくんのおむつを替えてあげて、ご飯食べさせてあげて、
おっぱいも吸わせてあげたのよ?」
「姉さん!」
「三歳の時、ママのおっぱい欲しいって泣いて、母さんのところに行ったけど、
嫌がられて私のところに来たでしょう?
そのくせ、私のオッパイがぺったんこだって泣かれて、私まで涙が出ちゃったんだから。
私、小学校の四年生だったのに」
こうなると俺に反撃の手段はない。
「いや、あのね」
「その後、私の胸が大きくなったら、まーくんは小学校に入っても、
オッパイ吸いたいって来たわよね?」
「そ、そんなこともあったようななかったような……」
「おねえちゃん大好き、おねえちゃんのおっぱいも大好きって、妙な歌を作って歌ってたわねぇ」
恥ずかしさに身もだえしたくなったが、かろうじて耐えた。
これだから姉さんには勝てない。
「あのかわいい子達に、この話したら、喜んでくれるかしらぁ?」
「よ、喜んで添い寝をさせていただきます、お姉様」
俺はいそいそとベッドに潜り込んだ。
……だから俺は言った。俺の人生はそんなに酷いことばかりじゃないと。
恥ずかしいこともそれなりにあるわけで。

 俺がベッドに潜り込むと、姉さんは昔話を始めた。幸せだった頃の話だ。
ディズニーランドに行ったときの話や、温泉旅行の話。初詣に、クリスマス。
本当にそう悪いことばかりじゃなかった。
あの人がおかしくなるまでは、俺達はほんとうの家族だった。
過ぎ去った日々の懐かしい記憶。それをつかのま、俺達は共有していた。
温かい気持ちに浸っていると、不意に姉さんが言った。
「……ねぇ、まーくん」
「ん?」
「姉さんのおっぱい、吸ってみない? なんかおっぱい吸われるの、懐かしくなったのよ」
「いいっ? ちょ、ちょっと?」
「まーくん、驚きすぎ。やらしいこと考えたでしょう?」
驚く俺に姉さんはちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
「あのねぇ、俺の年を考えてくれよ」
「ごめんね。でもなんか、まーくんに吸って欲しい気分なの。いいでしょ?」
「うーーー」
だが俺がうなっている間に、姉さんはいそいそとナイトウェアの胸元を開けていた。
暗闇の中ででっかくて真っ白い柔らかな乳房がさらけ出された。
「さぁ、ほら」
迷っていると頭を抱えられて、乳房に押しつけられる。
正直、始末に困るおっぱいだった。
一人前の男が乳首を吸うだけで満足する訳はない。
だからといって、義理とはいえ姉である人の胸を愛撫するわけにもいかない。
「どうしたの?」
「いや、あのね」
「もう、早くぅ」
さらに胸が押しつけられて、鼻も口も白く柔らかな甘い匂いのする肉に覆われる。
仕方なく、おためごかしに乳首に口をつけた。先端をほんのすこしだけ唇ではさむ。
上目遣いでのぞくと、姉さんの目が満足そうな三日月の形になっていた。
「そうそう。まーくんは私のおっぱいを吸ってればいいの」
頭を抱え込まれ、形だけくわえた乳首が根元まで口の中に滑り込んできた。
足が俺の足に絡みつき、姉さんの股間が俺の太腿に当たり始める。
なぜか、口の中で乳首が太さと硬さをましつつあった。
二人の静かな息づかいだけが部屋に流れる静かな時間が過ぎた後、ぽつりと姉さんがもらした。
「ねぇ、まーくん。もう他の女の子のおっぱいについて行っちゃだめよ?」
姉さんは相変わらず穏やかに笑っていた。
俺は口から乳首を離した。
「……俺、別れないよ。沙織も里香も、大切な女だから」
胸が再び強く押しつけられる。だが俺はもう口を開けなかった。
「姉さんこそ、俺とこんな事をしてちゃいけないよ。……姉さんはそろそろ自分の幸せを考えなきゃ」
俺を胸に押しつける力は弱まらない。
「……姉さんは楽しかった過去に囚われすぎだよ。俺だってもう昔の俺じゃない。
俺はあいつらのことを愛してる。だから、もう姉さんとこんな事はしない。
姉さんも好きな人に抱かれて、その人に愛してもらわなきゃ駄目だ。
姉さんは美人だから、きっと恋人なんてすぐに出来るんだから。その気になれば結婚だって……」

 胸から顔をもぎ離し、体を起こして俺は姉さんを見据えた。
……そしてゆっくりと起きあがった姉さんの顔が怒りと悲しみの入り交じったものへと
歪むのを目撃して、俺は絶句した。
「何が恋人よ! 何が結婚よ! 自分の妻を殴って大怪我させて刑務所に行くような父親と、
そんな夫にいまだに未練たっぷりにくっつく母親。
そんな両親を持つ女に幸せが来るって思ってるの? 本気で思ってるの?
どこに私を愛してくれる人がいるの? 犯罪者の父に頭のおかしい母の娘なんて、
誰が受け入れてくれるのよっ!」
手で顔が覆われ、心がねじ切れるような悲痛な嗚咽が漏れ始める。
俺は言葉をなくして、ただ呆然と泣く姉さんを見つめた。
「姉さん……」
「私はまーくんと居るときだけが幸せだったのに! なのに、それも奪われちゃうの!
私は幸せになっちゃいけないの!」
「姉さん! そんなことないから! 姉さんを好きになる人は絶対にいるから!」
「じゃあ、まーくんが私を好きになってよ! 私をまーくんの恋人にしてよ!」
俺にすがりつき泣き叫んで睨む姉さんに、俺は再度絶句する。
頭の血が下がってくるような自失感に襲われて、すがりつく姉さんによってベッドに押し倒された。
「姉さん……」
「まーくんが悪いんだよ。私はまーくんともっと一緒にいようって頑張ってたのに、
まーくんが他の女の子に手を出すから」
そんなことを言いながらすがりついてきた姉さんが、俺のパジャマのズボンを
パンツごと引き下ろす。
気を取り直したときには、姉さんは俺の肉棒を握っていた。
「ね、姉さん! やめろって!」
答は肉棒を強く握る手の動きだった。俺は痛みで何も言えなくなる。
「これ、私のものなのに」
強く握られたまま肉棒が強引に引きずり出される。
手が離れたと思ったら、俺の肉棒は全部、姉さんにくわえられていた。
ためらいどころか、至福の表情すら浮かべて、姉さんは口で俺の肉棒を嬲った。
手は片手で俺の袋を握り、片手で俺の太腿を握っている。
舌が肉棒に巻き付き、先端を這いずった。その動きは奉仕でも愛撫でもなく捕食だった。
舌の一つ一つの動きが、俺をむさぼっていた。
固く張り詰めてきた幹をなめ回すのは、俺を快感に追い落とすためではない。
その肉棒に姉さんの匂いがついた唾液をたっぷりすり込むためだろう。
先端をなめ回すのは、きっと肉棒が快感に震える姿が楽しいからだ。
尿道口の奥まで舌を入れるのは、俺を犯して、精液をすするために違いない。
腰が浮き、目の前に何度も星が散って、姉さんの頭を押しのけるために伸ばしたはずの手が
逆に姉さんの頭を押さえていた。
「駄目だっ! 姉さんっ、くぅぅぁぁぁぁぁぁああ」
爆発してしぶくような勢いで、精液がほとばしり出る。腰から力が抜けて目にかすみがかかる中、
姉さんは笑顔すら浮かべて精液を飲み下している。
それどころか、放出の拍動が終わったばかりの肉棒が、再度吸われた。
残っていた精液が吸い出される快感で、萎えかかっていた肉棒が硬度を取り戻し、
俺は際限なく吸われそうな不安に襲われた。

 ようやく肉棒から口を離した姉さんが、俺を吸い尽くすような肉食獣の雌の笑いを浮かべた。
「なんだかんだ言って、まーくんはおちんちん吸ってあげれば素直になるのよね。
でもこんなもので終わりじゃないわよ?」
姉さんが上体を起こし、ナイトウェアを見せつけるように脱ぎ捨て、
両方とも全てが露わになった大きく柔らかそうな胸を誘うように揺らす。
「まーくんはおっぱい大好きだよね?」
そういうと姉さんはくすくすと笑った。
「だからまーくんのおちんちんを胸で包んであげる。
胸の中に埋めてこすって、先っぽを思いっきり吸って舐めてあげる」
そういいながら姉さんが自らの手で、胸を寄せ揉み潰し、乳首を舌で舐めあげる。
そして胸の肉を左右にかき分け、深く広い谷間が出来た胸を俺の股間に降ろした。
挟まれるだけで、気が狂いそうになった。姉さんの胸肉が俺の肉棒に
いやらしくからみついたからだった。
だが姉さんはその肉で先端をこすりあげ、肉の中に埋め込んだ。
そそり立った乳首で尿道口をこすりまわった。
なすすべなく快感が押し寄せ、腰は震えるばかりで力が入らなくなった。
俺は女のように声をあげて喘ぎ、姉さんに支配されていった。
突然全部が姉さんの胸肉に埋まっていたはずの肉棒の先端だけが、外気にさらされた。
淫らな双乳の白い肉が俺の肉棒に巻き付きはさみこんいる中で、先端だけが外に飛び出ている。
その上で姉さんが舌なめずりをして笑っていた。
何をするのかがわかってしまい、俺は怖くなるような快感を予感し、呆けた。
いかなる予告もなくずるりと先端を舌が這った。
快感が脳髄を打ちのめして俺はなすすべもなくのけぞる。目の奥で火花が散った。
ぬるりと舌が先端を這い回ると目もくらむような刺激に打ちのめされ、
自分の顔を覆って体を震わせるしか出来なくなった。
胸肉が肉棒を絡め取るように動くと同時に、先端を乳首がこすりまわり、
肉棒の尿道口に姉さんの舌が突き刺さってほじられる。
出たのが生命力そのものかと錯覚を起こすほど、精液は盛大に噴出し、
体が痺れて力が抜けベッドに倒れ込んだ。
俺が無様に口を開け、喘ぐように息をしていると、
またもや肉棒は姉さんに残った精液をすすられる。
俺の意志と全く無関係に射精したばかりの肉棒が再びそそり立ち、
白濁液を唇につけた姉さんが満足そうに笑った。
「まーくんのおちんちんは、私のおっぱいが大好きになったみただけど、
……ふふ、こっちも味わって欲しいな」
大の字になって脱力している俺の腰のところで姉さんが膝立ちになって、俺の腰をまたいだ。
痺れる頭の中でやばいという予感が走る。
姉さんの内股が濡れ光って、暗くなった外のわずかな明かりを照り返していた。
騎乗位になった姉さんの濡れた太腿と黒い翳りが降ろされ、肉棒と接触した。
先端が叫び声を漏らしそうなほど柔らかなものに飲み込まれ、からみつかれた。
沙織とも里香とも違うしなやかさと柔らかさに満ちた姉さんの膣は、
先端を飲み込んだだけにも関わらず、俺を奥に引きずり込もうとうごめいた。
肉棒から走るしびれで、続けていた荒い息が止まる。
姉さんは、いささかもためらわなかった。避妊も、姉弟として暮らしてきた今までも、
全く省みた様子はなかった。
その顔にあったのは俺を中に収める喜びと自らの体に酔わせる征服感だけ。
姉さんのからみつくヒダとそれによるしびれが、肉棒を根元まで飲み込み、
俺の腰を滑らかな内股がはさんだ。
「んふ、根元まで入った。……もう出したいって顔ね。……いいわよ?
まーくんが私のものになるっていうならね」
姉さんが、ゆっくりと腰を動かすと、からみついたヒダが肉棒を嬲った。
歯を噛みしめて射精感をこらえる。途端にぴたりと姉さんの腰が止まった
「まーくん、さぁ、私だけのものになるって言いなさい。
素直になったら、ここに好きなだけ、出していいのよ」
姉さんが自分の下腹部をそっとおさえた。
「私だけのものになったら、私のおなかをまーくんので、いっぱいにしていいのよ?」
快感が去りかけるところで、姉さんがまた腰を動かす。
姉さんの中の小さなぶつぶつが肉棒の先端をこすり、思わず腰をつきあげる。
「はああん! ……はぁ、はぁ、だめよ、まーくん。ちゃんと私のものになるって言ってくれなきゃ」
姉さんが震えながらのけぞったが、すぐに俺の腰を押さえつけた。
根元に貯まった精液が気の狂いそうなほどのもどかしさを感じさせる。

 必死に我慢する俺の顔を見て、姉さんがほくそ笑んで、また腰をゆらめかした。
「そんなに我慢しないで……。あの子達と別れて。私と二人で、また家族になろうね?」
そういうと姉さんが上体を倒し、豊かな胸を俺の胸でおしつぶした。
屹立した乳首が犯すように心地よく食い込み、軟らかな肉が抱くように
俺の胸板を覆って張り付いた。
俺の腰を自らの腰で押さえつけながら、姉さんが唇を寄せて、俺の口をむさぼる。
また姉さんが腰を動かすと、俺の腰から背中に快感が走った。
「そうよ、義父さんが母さんと再婚しなくても、私とまーくんが結ばれれば、また家族になれるの」
ゆっくりと嬲る意図で動かされる腰によって、姉さんの中が俺の先端から根元まで
舐めるように絞るようにからみついた。
「まーくんはね、私にどくどくだして、私のことだけ考えてればいいの」
先端をまたざらつく内壁がこすり、気の狂いそうな射精感に襲われる。
だが腰の動きが止まり、射精には至らない。
「だめよ。そんなにおちんちんをびくびくさせても駄目。……あの娘達を忘れるって言って。
私だけのものになるって言って」
耳元で吐息と共にささやかれるだけで快感が満ちた。
耳の穴に舌が差し込まれ、それだけで爆発しそうになった。
「さあ、もうあの娘達を忘れなさい。私がずっと包んであげる。
……私の中に帰ってきなさい、大好きなまーくん」
ふと、脳裏に寂しそうな沙織の顔が浮かんだ。泣き顔の里香も浮かぶ。
舌を出して喘ぐような息しか出来ず、下半身はしびれ続けていた。動かせば出てしまいそうだった。
でも姉さんも大好きだった。胸も尻も顔も背中も太腿も腕も髪も好きだった。あこがれていた。
精液が循環する脳みその片隅で、節操のない最低な男と罵る声がした。
そして悪魔がささやいた。どうせ最低なんだから、この女もいただいてしまえと。

 手を伸ばして腰をつかんだ。すべすべでしっとりした肌が手に吸い付いた。極上の肌だった。
歯を折れそうな程噛みしめる。射精する前にやることがあった。
「姉さん……」
俺の声で姉さんが至福の表情となった。
「別れないよ」
姉さんの顔は変わらなかった。きっと言ったことを理解できなかったと思う。
姉さんの子宮を目指して、俺は下からつきあげた。からみつく中をこすりあげながら、
子宮を犯そうとして突き入れた。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
陰部から尿と間違えそうなほどの量の愛液がしぶいた。上々の反応だった。
うねりからみつくヒダを引きはがしながら半ばまで抜き、もう一度奥の奥まで押し入った。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
背骨が折れそうなほど姉さんが反り返った。
力が入らない手足を動かして、なんとか体を入れ替え、姉さんを組み敷く。
柔らかそうなくせに、形を保って揺れる乳房は絶景だったが、
快感に体を小刻みに震わせる姉さんはもっと絶景だった。
こんな素晴らしいものは犯さないと損だった。
俺は上体を起こして、肉棒を全部抜いた。
「ぬ、抜いちゃだめぇぇぇ」
「わかってるよ、大好きな姉さん」
語尾にハートマークさえつけて、子宮の入り口まで突き下げた。そのまま何度も突いた
「あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああ、はぁぁぁぁ、うぅぅぅぅぅ、うあん、ひぃぅんん」
「でも、沙織や里香とは別れないよ」
別れないけど姉さんはたっぷり犯すつもりで突きまくった。
「いやぁぁぁぁ、だめぇぇぇぇぇ、そんなのぉぉぉぉぉ、ひどぉぉぉぉぉぉぃぃぃ」
姉さんは快感に浸りながらも首をふって抗議をした。当たり前だった。
ちなみに胸も揺れてやっぱり絶景だった。
けれども、大好きな姉さんにここまで誘惑されて告白までされたら、
もう姉さんを手放すつもりはなかった。
うん、我ながら、最低だった。もう笑うしか……いや犯すしかなかった。
「大丈夫。姉さんも俺のものだから。愛してるから。大好きだから。姉さん!」
刹那、快感に追い立てられていた姉さんが目を見開いて、信じられないって顔をした。
姉さんの中がきゅっと俺を食いしめる。
ほんとだよって答えたくて、姉さんの中を入り口から奥まで丁寧に何回も肉棒でこすってあげた。
「ああああああああ、そんなのってぇぇぇぇぇぇぇ、そんなのってぇぇぇぇぇぇ、
ずるぃぃぃぃぃぃぃぃ」
でも姉さんは体のほうが正直で、体の方は、口とは違って潮をふいて
びちゃびちゃになって喜んでいた。
「姉さんの体は、喜んで俺を締め付けてるよ?」
せり上がる精液を押さえ込みたくて、姉さんのあちこちを突きまくった。
もっと精液がせり上がってきた。
姉さんの体も震え続けて何度も反り返って、手がシーツを必死に握りしめていた。
「ちがうのぉぉぉぉぉ、そんなのぉぉぉぉぉぉぉ、ちがうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「そう? ごめん。じゃ、やめるよ」
もどかしさに頭がしびれていたが、歯を食いしばって、腰を止めた。
そして姉さんの腰も渾身の力で押さえつける。
「いやぁぁぁぁぁぁ、とめないでぇぇぇぇぇぇぇ、うごいてぇぇぇぇぇぇぇ」
じたばたと姉さんがあばれた。かわいそうで最後までいかせてあげたかった。
だけどやることがあった。

「俺は沙織や里香と別れない。それがいやだって姉さんが言うなら、ここでやめるよ?」
「ひどぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、おねがいぃぃぃぃぃぃ、いやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ」
頭を振り乱して姉さんは抗議した。かわいそうなので一回だけ突いてあげた。
「じゃあ、姉さんも俺の女にするよ? 沙織や里香と同じように。
三股で同時進行だけど、でも姉さんを心から愛してあげる。
姉さんが去っていかない限り、俺は姉さんを愛し続けるよ」
「いやぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁぁ、まーくんはぁぁぁぁぁぁ、私だけのぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ゆっくりと数回姉さんの中をこすった。
「ありがとう、姉さん。だけど、俺は沙織や里香を絶対に捨てない。だから、選んで。
ここで止めて他人になるか、それとも続けて、俺の女になるか」
少しだけ沈黙があった。
やがて姉さんの目から透明な液体が止めどもなく流れ落ちた。
「なるからぁぁぁぁ、まーくんの女になるからぁぁぁぁぁぁぁ」
「姉さん、大好きだ。もう一生離さないから」
そして突きまくった。思いに任せて、心にのせて、姉さんの中を愛した。
ざらついたところを先端でこすりたてた。壁を全て味わいたくて前後だけでなく左右にも動いた。
姉さんの上にのしかかって、姉さんの唇をまさぐった、舌も突き入れて、姉さんの舌に絡めたが、
逆に姉さんに口の中を吸い尽くされた。
手は乳房をまさぐった。大好きなおっぱいだった。夢に見た感触そのままだった。
姉さんの腕が俺の背中にまわり、爪が立てられていた。
姉さんの足が腰に回され、抜くことを許さなかった。
もっとももう抜くことなんか、まったく、これっぽっちも考えてなかった。
無責任かもしれないが、姉さんを本気で孕ませるつもりだった。俺はもう姉さんに狂っていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ、きちゃうきちゃうきちゃうきちゃうぅぅぅぅぅぅぅ……
いくぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅ」
姉さんが白目をむいて、反り返りながら不規則に何度も震えた後、
全身をすごい勢いで突っ張らせる。
さんざん我慢していたため、射精はむしろ安堵感すら覚えた。
放出感を伴った拍動と共に体の力が抜けていき、姉さんにしがみつくしかなかった。
姉さんの鼓動を聞きながら、意識を遠くしていった。

 

 ふと意識を取り戻したときも、二人の体勢は変わっていなかった。
俺が重いだろうと考え、姉さんの上から滑り落ちて、ベッドに寝転がる。
姉さんはかすかに呼吸をしているだけだった。完全に寝ていた。
また、やっちまった。そうは思ったが、姉さんが怒ったときからこうなるような気もしていた。
いろいろと義理の母がらみでひどいことがあったけど、
それを恨まないで居られるのは姉さんのおかげだった。
お互いがいたから、生き延びることができたというべきだろうか?
事実親父達が離婚した後、俺は孤独癖がひどくなり、姉さんの表情は冴えなくなった。
そしていくらもしないうちに、姉さんは縁が切れたはずのこの家に度々訪れるようになった。
そんな姉さんと他人になるという選択肢があるわけもない。あったら、とっくに他人だった。
姉さんの寝息が少し高くなり、そちらを見る。
姉さんの寝顔は、久しぶりにとても穏やかだった。
「うーん、まーくん、んふ……むにゃ」
寝言とともにねーさんが寝返りをうつ。
眼前に見事な尻がさらけ出された。大きくて白くてすべすべで男心を捉えて放さない曲線だった。
……姉さんは俺のものだった。だからこの尻も俺のものだった。
いたずらしなければ人生の損だった。
理屈はどうでも良くて、ただあの尻に顔を埋めたかっただけだった。うん、男なんてそんなもんだ。
数秒前の感傷的な気分などどっかに放り出して、俺は姉さんのお尻の探検をすることにした。

 尻肉は最高だった。おっぱいも素晴らしいが、
尻は柔らかくて弾力があって二つにわれてて丸くて最高だった。
姉さんのでっかい尻を間近から見るだけで、男に生まれて良かったと思った。涙がでそうだった。
ちなみに姉さんはまだ寝ていた。俺は姉さんの足の間にうつぶせで寝転がって尻探検を始めていた。
寝ているときにいたずらをするというのは、胸躍るものがあり、これまた良かった。
尻肉をつかんで広げると、色の薄い肛門がある。
指でつつくと肛門がすぼまるように動き、姉さんの体もぴくっと動いた。
さすがに何の準備もしないアナルプレイは臭そうだったので、それ以上はあきらめる。
というか、寝ている間に肛門まで襲っちゃうと、さすがに本当に嫌われそうだったので自重した。
俺にもちょっとは理性も残っていたらしい。でも理性はそれで作動終了だった。
未練を残して、下におり、性器にたどり着く。
濡れた尻肉の間で、赤みがかったピンク色で性器が俺を待っていた。
だらしなく膣口が開いていたものの、クリトリスは小さくなっていて、
持ち主のように寝ているらしかった。
けしからん眺めなので、罰を与えることとした。
膣の下に丸い皮に包まれた突起がある。なんかつつくといいことが起こりそうなので、舐めてみた。
姉さんの体が震えるが、抗議は無い。
舐めても問題なさそうなので、舌で舐めまくると、どうしてか液体が垂れてくる。
どっか液漏れがあるようなので、とりあえず舐めながら、開いた膣口に指を入れて栓をしてみた。
「うぅぅん……あん……はぁうん」
尻の向こうで誰かが変な声を上げてるけど、気にしない。
全然液漏れが治らないので、姉さんのお尻が心配になって、膣に入れる指を二本にしてみた。
漏れた液体は、責任をもって舐め取ってあげた。
ついでに可愛いクリトリスちゃんも舌でツンツンしてから美味しそうなので歯で軽くかじってみる。
液漏れが全然止まらないので、姉さんの中を愛情込めてこすってあげた。
どうしてか液漏れがさらに酷くなったけど、気にしない!
「はぁぁぁぁぁん……、ま、まーくん! 何してるの!」
ついに目を覚ました姉さんが顔を後に向けて俺をみた。
「姉さんのおしり☆」
「おしり☆、じゃないでしょ! あうん! ちょ、ちょっと!」
なにか照れた様子で顔を真っ赤にして怒る姉さんはかわいかったので、クリトリスを吸ってあげた。
当たり前だけどこんな魅力的な白くでっかい尻肉をちょっとやそっと怒られたくらいで
手放すわけはない。
だって、このお尻は、おれのもの! だれにもやんない。
「はひぃぃぃぃぃんんんんんん、……はぁはぁ、ダ、ダメよぉ、……はぁはぁ、……まーくん!」
目の色が快楽で飛びそうになりながら、姉さんはまだ抵抗した。
まったく姉さんは時々強情だからいけない。
「姉さんは俺のもの、このお尻も俺のもの、わかった?」
入れた指でざらついたところをこすりながら、クリトリスを舌の舐めあげて、軽く歯をたてた。
「ば、馬鹿ぁぁぁぁぁ、うはぁぁぁぁぁぁ、あうぅぅぅぅぅぅぅ」
姉さんの目がいってしまって、体がぶるぶると震える。
入れたくなって、顔を尻から離し、膝立ちで、尻に近づいた。肉棒は腹に付くほど元気だった。

 肉棒を膣口にあてがって、食べたくなるような丸みを帯びた尻をわしづかんだ。
しみ一つない姉さんの背中とベッドでつぶされてはみ出た大きな胸がみえた。
それだけで、姉さんを後から犯す実感がわき、背筋を泡立たせるような電流が走った。
手のひらから伝わるすべすべで柔らかく弾力性が失われていない尻の感触に感動しながら、
肉棒をゆっくりと沈めていった。
「まーくんがぁぁぁぁぁぁ、またぁぁぁぁ、はいってくるのぉぉぉぉぉぉぉ」
背中が奇跡的な美しいラインを描いて反り返る。
肉棒を根元まで埋めると、姉さんの尻が俺の腰に密着して、最高の弾力を伝えてくれた。
姉さんの中は相変わらず俺を搾り取ろうとしてうごめいてくれる。
腰をつかんで、一番奥まで突き入れ、からみついてくる姉さんの中をこすりながら引き抜く
「へんなところがぁぁぁぁ、……あたるのぉぉぉぉぉぉ……あはぁぁぁぁぁぁぁ」
「姉さん、沙織や里香とできるだけけんかしないでね」
「あぁぁぁぁぁぁ、ばかぁぁぁばかぁぁぁぁぁぁぁ、あうぅぅぅぅぅぅぅ」
丁寧にお願いしたのに馬鹿って言われちゃったので、姉さんの中をかき混ぜてご機嫌をとった。
「頼むからそんなこといわないでよぉ。……姉さん大好きだからさ。愛してるから」
しれっときざったらしくて恥ずかしいセリフが口から滑り出る。やっぱり俺は最低らしい。
けれども姉さんの中は、その言葉に反応して、肉棒をぎゅうぎゅう締め付けた。
「まーくんはぁぁぁぁぁ、ひどぃぃぃぃぃぃ……ああああああぅぅぅぅ、ひどいよぉぉぉぉぉぉぉ」
泣き叫びながらも姉さんは腰を振り、姉さんの中は俺の肉棒を離すまいとした。
今度は一切止めなかった。俺は姉さんの背中に上体をかぶせて、
背筋を弓なりにそらせて喘ぐ姉さんの口を背後から奪う。
「ほんとうだよ。……俺の大好きな姉さん。……お尻も唇もおっぱいも……」
腰使いにあわせて揺れる胸をすくい取って手のひらで覆った。はみ出た肉が指にからみついた。
「全部……姉さんのお腹も全部……俺のものにしちゃうから。もう離してやんないから」
「あああああああああああああああああああ」
姉さんが唇を離して、震えながらさらに反り返って叫んだ。姉さんの中が肉棒を痛いほど引き絞る。
もう我慢できなくて渾身の力で打ち込んで、姉さんの奥をむさぼった。
「愛してる」
「いくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
焦点を失った目で涙を流しながら姉さんは叫び、声がとぎれても声なき声で快美を訴え、
唐突に意識を失った。
俺も全てが出て行きそうな勢いで姉さんの中に放ち続け、
やがて射精が終わるとその背に崩れ落ちた。

 

 翌日、朝。
駅までの道は、悩み通しだった。だが俺にできることは真実を話すしかない。
悩んでも仕方がないことだった。
姉さんは、そんな俺を薄い笑いを浮かべながら見ているだけだ。
けれども姉さんが俺から離れる事もない。俺の腕に腕をからませ歩調を合わせて歩いていた。
朝起きたときから、姉さんは怒ってこそいなかったが、優しくもなかった。
コーヒーは濃く苦く、トーストにはバターを塗ってくれず、目玉焼きに醤油をかけてくれなかった。
鬼畜な事を要求して無理矢理通してしまったために文句を言える筋合いでもなかった。
仕方なく姉さんを傍らに伴いながらも、俺はひたすら無言で駅まで歩いた。
いつもなら駅で沙織と里香が俺を待っているはずだった。
それを考えると、俺は気分が重かった。

 改札から少し離れた柱にもたれて、沙織はいつものように待っていた。
そしていつものように俺を見つけるといつものように彼女は笑顔を浮かべ、
すぐにいつもと違った不審な顔をした。
駆け寄った彼女は、俺の空いた手を取り、不審さ百パーセントの目で姉さんを眺めた。
俺に出来たことは、最低な事実を言葉を選びながら、沙織に伝えることだけだった。

 いきさつを知った沙織は泣いた。俺は謝ることしか出来なかった。
「ごめんね、悪い弟で。……嫌になったら、すぐに捨てていいのよ、こんな子は」
姉さんが気の毒そうな声と顔で、沙織を慰める。
その唇のはしにわずかに笑みが浮かんでいるのを俺は見た。
しかし俺に言える言葉があるはずもない。下手な慰めはただのお為ごかしにしかならない。
しかし沙織はすぐに泣くのを止めて、顔を引き締め涙を拭いた。
「……でも矢代くんは、私と別れるって言わなかったですね?」
「え? ええ。ほんとに馬鹿な弟で」
姉さんが焦ったように言葉をとりつくろった。沙織はそれに頓着せず静かに言葉を続けた。
「なら、私も別れません。……ほんとはお姉さんの矢代くんに対する怒り方、
おかしいって思いました」
姉さんが沙織の言葉で顔に驚きの表情を浮かべる。
「目が女でした。好きな人を奪われたような目をしてました。
そして矢代くんは無節操に女の人にちょっかい出す人じゃないです。
だから……失礼ですけど……お姉さんが誘ったんですよね?」
沙織の目が姉さんの目を鋭く見つめる。
「……十年、家族として過ごして、その後親の離婚で別れて五年。
ずっと姉と慕ってくれて、そして支えてくれた大事な弟なの。
それをどこからともなくあらわれた泥棒猫なんかに、はいどうぞって渡せるって思う?」
姉さんも目に危険な光をちらつかせて、沙織を見返した。
「十年だろうと、家族だろうと、私が矢代くんの一番初めなんです。
私が矢代くんの最初の女なんです。
それを横取りするような、しかもほんとは他人なのに家族のふりをして誘惑する女に、
渡しちゃう方が馬鹿ですから。
私、思うんですけど、お姉さんには、もっとふさわしい年齢の男の人が
いいんじゃないでしょうかって?」
沙織はもう泣いていなかった。静かにしかし一歩も引かない覚悟で姉さんに立ち向かっていた。
「そう……馬鹿な娘ね。あなたぐらいならいくらでもかっこいい男の子が恋人になるでしょうに」
「お姉さんこそ、矢代くんに構っていたら、婚期を逃しておばさんになってしまいますよ?」
けんかしないでくれって言ったつもりだがなぁ、と部外者にされた俺はそんなことを考えながら
彼女らを待っていた。
結局けんかを終わらせたのは時間だった。
電車に乗る時間が迫っていて、俺は強引に改札内へと二人を追い立てた。

 里香は、話を聞くと俺の頬をはった。
「ひどいよっ」
里香はいつもホームで待っている。沙織と姉さんを連れてホームに上がった俺を、
里香は驚きの目で見た。
そして俺はやはり最低な事実を話したのだ。
「矢代くんを叩かないでください! 矢代くんを誘惑した中塚さんが
そんなことを言える立場ですかっ!」
吐き捨てるように沙織がかみつく。
「ごめんなさい、ほんとに酷い弟で。あなたのようないい娘は、
もう弟に関わらない方が良いと思うわ」
姉さんは沙織の時に増して丁寧な口調で里香に語りかけた。
だが里香は沙織も姉さんも完全に無視した。
「お姉さんに今すぐ謝って、なかったことにしてもらって!
一夜の過ちでしたって言って、関係を断ち切って」
「一夜の過ちって……」
「ちょっと待ちなさい! 何が一夜の過ちよ。私達は結ばれるべくして結ばれたのよ。
あなたのように突然やってきて略奪して、恋人面した浅い関係じゃないわけ。わかる?」
「いいえ、全然わかりません!」
姉さんの咆吼に、里香は眼鏡を光らせ、その向こうから敵意と決意を込めて姉さんを睨んだ。
「私と矢代くんは、お互い、本当に必要としあった仲なんです。
そこの変態女や、どこかの姉弟ごっこの姉気取りな女が、いやらしい体で誘惑するから
いけないんです。
そんな贅肉だらけのいやらしい体でも、好きだっていう男の人は多いでしょうから、
矢代くん以外を誘惑してください。
矢代くんは、私と本当のパートナーになるべきなんです」
「姉弟ごっこ? よくも言ってくれたわね。まーくんの優しさにほだされただけのくせに」
「自分勝手な正義ばっかり振りかざして、周りの人にそっぽむかれた人がよく言いますね、まったく」
……俺はこの時ばかりは、この私鉄のダイヤを守る努力に、心の底から感謝をした。
この恐るべき三つどもえの対立が、とにもかくにも回避されたのは、
いつも乗る電車が時間通り入線してきたからに過ぎなかった。

 そして車内で、俺は三人の女にはさまれた。
彼女らの体はたとえようもなく熱く柔らかだった。だが雰囲気はドライアイスより冷たく固かった。
魂が削れてゆくとはこのことかと、俺は実感した。

 そしてなぜか姉さんは、俺達と同じ駅で降り、同じ出口から出て、同じ道を歩んだ。
まるで少し距離を開けて歩く沙織や里香のごとく、姉さんも少し距離を開けて同じ方向に歩いた。
「ね、姉さん? どうしてこっちに?」
「ん? 後でわかるから。今は秘密よ」
そういうと姉さんはそれ以降口を開かず、やがて驚愕する俺達を尻目に、
俺達の学校の中に消えていった。
俺達三人は、ただ顔を見合わせるだけだった。 

「矢代、ちょっと話があるんだ」
「なんだ? 吾妻が俺に用って?」
「内緒の話なんだ。昼休み、俺についてきてくれ。いいな?」
教室に入るとすぐに吾妻がやってきた。そして言った言葉がこれだった。
強引な話に、さすがに少し文句を言う。
「……ここで話せないのか?」
「俺は構わないが、お前達がやばいぜ?
俺は優しくて気が利くからな、ちゃんと内緒の話にしてやるよ」
言い方はともかく何らかの意図はあるらしい。
「……わかった。昼休みだな? しかし、いったいなんなんだ?……」
だが吾妻はそれに答えず席に戻っていく。
少しばかり嫌な気分で始まった一日は、ホームルームの始まりでさらに変転を迎えた。

「入院されました細山先生の代わりに、しばらく二年の英語を担当することになった
大和田美春(おおわだ・みはる)先生です」
教頭の紹介でクラスに歓声がわく。きりっとしたキャリア美人的な女性教師が入ってくれば
そりゃ男どもは騒ぐだろう。
調子に乗ってお定まりのスリーサイズを聞く奴がいても、
それをにこやかにいなせばそれも騒ぎになる。
少しきついような容貌も、話し出せば穏やかでなにより笑えば花が咲くような雰囲気を与える。
女子ですら、少し喜んでいた。喜んでいないのは、クラスで三人だけ。
俺と沙織と里香は、その女教師を紹介される前から知っていた。
会ったのはついさっき、登校する道で。
そう、姉さんが女教師になって俺達の前に現れていた。
「先生、恋人はいますかぁ?」
何も知らないお調子者の男子生徒がそう聞いた。
「ええ、います。とても悪くて愛しい人が」 
そういうと姉さんは顔に喜びの色を表し、手を胸にあて頬を染めながら、そう答える。
その姿は、俺ですら鼓動を跳ね上げるほどの色気にあふれ、少しの間、クラスに沈黙をもたらした。
やがてどよめきながら盛り上がる教室の中で、俺は視線のレーザービームを二本浴びることになる。
いわば、人を射殺せそうな視線という奴だ。
出所は見なくてもわかる。そちらを見る気など微塵もおきなかった。
いろいろとたまらなくなって顔を伏せようとした俺を、姉さんが見つけてウィンクをした。
女二人の視線レーザーの出力が増強された。
焦げて風穴が開いたのは、俺の心だった。

 昼休みに入るとすぐに、吾妻は俺を視線だけで促した。
しぶしぶと立ち上がり、吾妻の後をついていく。
しかし教室を出たところで、吾妻は一人の女生徒に捕まっていた。
「しつこいな。俺の前に現れないでくれって言わなかったか?」
扉のとこで聞こえた低いが険のある吾妻の声に、俺は思わず立ち止まる。
相手は、清楚で小柄な日本人形的な整い方をした女生徒だった。
だけど、先輩と呼びかける口調から見て一年らしい。 
「俺はおまえに興味ないんだ。前にそう言ったよな? もうつきまとわないでくれとも言ったよな?」
そう言い放つ吾妻の視点が、さっと下を見て戻った。
女生徒の手には弁当とおぼしき四角い包みがある。
「わかったら、どいてくれ。俺はこいつと話があるんだ」
吾妻が顎で俺を指し示し、その女生徒の視線が俺を見た。
訳もなく、俺はぞっとした。暗く虚ろで濁った目だった。
そこに憎悪という光がぽつんとともっている。
なぜそんな感情を向けられるのか、まったくわからなかった。
「おい、矢代。その女は放って置け」
「し、しかし……」
「おまえには関係ないだろ。いいから来い!」
いらだった吾妻の声に押されて、俺は女生徒の前を通り過ぎて、吾妻を追った。
あの暗い目が俺を見ているのをはっきり感じ、背中の毛が逆立つ。
今すぐ引き返して、沙織や里香や姉さんに抱きつきたくなった。
もちろん、そんな事が出来るはずもなく、俺は吾妻の後を追った。

 数分後、俺達は四畳程度の小さな部屋にいた。
中は埃だらけで、訳の分からないガラクタが置かれている。
日光が差し込んでくることだけが唯一の救いだった。
ドアには汚い紙が目隠し代わりに張り付けられていた。
これもやっぱり埃だらけの丸椅子を、吾妻が二つがらくたの中から引っぱり出し、
埃を払って俺達はそれぞれ向かい合って腰掛けた。
やがて吾妻は俺の物問いたげな視線を察知して話をはじめた。
「さっきの女は、これからの話には関係ない。忘れてくれ」
不機嫌と決まり悪そうな目をした吾妻に、俺は肩をすくめて見せた。
吾妻は一年の時から既に六人以上の女とつきあっては別れることを繰り返していた。
少なくとも噂の上では。
だからそんなものに首を突っ込むつもりはさらさらなかった。
それが確認できればあの女生徒のことなど俺にとってはどうでもよかった。
「じゃあ、話って?」
俺の言葉に、吾妻はいつもの余裕を取り戻した。
にやにや笑いが復活し、いつものいたずらっぽい目の光が戻る
「おまえ、学校で中塚とやってただろ? 体育祭の前日」
吾妻の単刀直入にも度が過ぎる言葉で、自分でも顔色が変わるのが自覚できた。
まさしく血が引くってやつだ。
無論、言葉など出るはずもなく、ただ吾妻を凝視して息を荒くするだけだ。
「副委員長に聞いた。お前、中塚を慰めに行ったんだって?
そして私物を体育祭前日に持って帰るって言ってたのに次の日に持って帰っていったってな」
息が止まりそうになった。状況証拠は限りなく黒い。実際黒なのだが。
「まあさ、別に他人がセックスしようがどうでもいいんだ。証拠があるわけじゃないしな」
そういうと吾妻は全てわかっているといわんばかりににやりと笑った。
「たださ、おまえ、片桐とも付き合っているよな? 電車の中でくっついているだろ?」
たたみかける追求に、むしろ考えることが出来なくなって俺の表情は凍り付いた。
「真面目な優等生の矢代が、女を二股かけてる……これを教室で言わないあたり、
俺って優しいだろ? な?」

 吾妻の笑い顔が、俺に覆い被さってくるような幻影に襲われる。
ついにこの時が来た、そう思った。
悪事の露見が、恐れと共に安堵や解放感すらもたらしたのは、意外だった。
だが、錯乱することも自暴自棄になることも俺には許されていなかった。
沙織を、里香を、そして姉さんを、守らなければならない。
頼りなく震えそうになる膝を押さえつけ、歯を強く噛みしめて、ひたすらに思考する。
それは一匹狼を気取っていた俺が始めて行う、守る戦いで、かかっているのは、彼女達の人生。
その重さが叫びだしそうな心を押さえつけた。
覚悟を決め、逆襲の機会をうかがい、俺は吾妻の目を見据えるのだった。
>「真面目な優等生の矢代が、女を二股かけてる……これを教室で言わないあたり、
  俺って優しいだろ? な?」
  吾妻はそういって笑った。俺には悪魔の笑いに見える。
だがその見え見えの気遣いで俺はむしろ慎重になることが出来た。
「……で、秘密にしてくれた優しい吾妻君に、俺は何をしたらいいのかな?」
  言葉だけは格好良かったが、声が少々裏返って、沈黙していた時間も長かったから
大して有効な反撃ではない。
「話が早くていいな。……俺は生徒会執行部選挙に立候補しようと思ってね」
  そういうと吾妻は立ち上がり、俺に背中を見せると、小さな窓の側に歩み寄った。
  俺は無言のまま、続きを促した。
「だから優秀な駒がいるんだ。執行部生徒会長の下で働く、
  自分で動けて信頼することが出来る駒がな」
「吾妻が生徒会長? 何が目的だ? 今の彼女は確か……六人目だったっけ?
  デートに忙しいって体育祭実行委員だって逃げ回ったおまえが、生徒会長?」
  これは先ほどよりは効果的な反撃だと言えた。
  ついでに一年半ほどで六人の女と付き合ってふっている吾妻と、三人同時進行の俺と、
どっちが悪いのだろうかという疑問も湧いた。
  もっとも一般的には俺がインモラルであり、女達に聞いても顔と財力で比べられて
俺のほうが罪が重くなりそうではあったが。ブルジョアイケメンは何かと得だ。
「誰にも言っていないが、俺はアメリカ留学を狙っているんだ。それで執行部での活動実績があると
  受験で少しは有利になる。リーダーシップありって評価されてな。
  だけど、俺は楽をしたいし、お前の言うようにデートもしたい。
  だから、俺の下で働く有能な奴が欲しい」
  吾妻が言葉を切ると、それきり沈黙が落ちる。取引に対する計算は済んでいた。
受けざるを得ないのは間違いない。
  ただ思考時間を稼ぐ必要があった。
「俺なんかより、おまえの取り巻きな親友のやつらに頼めよ。
  執行部活動を仲良く楽しくできるんじゃないか?」
「あいつらはいざとなると俺を手伝わないさ、きっと」
  窓際に立つ吾妻の顔は逆光で見にくかったが、
その顔に自嘲の笑いが浮かんでいるのに俺は気付いた。
「薄い友情だな、おい?」
「女は俺の顔と金に、男はその女目当てに集まっているだけさ。
  どいつもこいつも紙切れより薄っぺらい」
  何かを吐き捨てるような顔で吾妻はつぶやく。
「で、俺のどこがおまえのお眼鏡にかなったんだ?」
「体育祭実行委員での実績、女を二股掛けてコントロールしている手腕、
  そして俺が脅迫しても馬鹿な反撃を考えない頭」
「うれしくないな」
  吾妻の言葉で酢を一気飲みさせられたような気分に陥る。
見透かされているとはこのことだと思った。
「評価しているんだ。喜んで欲しいな」
「オホメニアヅカリ、アリガタキシアワセ」
  俺はわざと棒読みにも程がある口調で答えた。
見事にはめられたことに対する無駄な意趣返しだった。
  それを悟って吾妻が体を震わせて笑う。
「ま、矢代なら、俺を楽させてくれるのは間違いない」
「俺がその分、こき使われるんだな?」
「片桐と中塚を同時進行でよろしくやってるんだ。それくらいの貢献はしろよ。
  矢代は風紀を乱しているという自覚がないか?」
  にやにやと例の笑いが吾妻の顔に戻った。
  もちろん吾妻が風紀委員であるはずはない。風紀委員経由での密告を暗喩しているわけだ。
  現状ではお手上げだった。条件交渉に移るしかない。

「……条件がある」
「言ってみろよ」
「協力は選挙が終わってからでいいか? 悪いが俺に集票能力はないぞ。
  自慢じゃないが人望はゼロだからな」
  吾妻の目に少し苦い色が浮かぶ。
「体育祭実行委員会では、矢代の影響力もそこそこあるんだが、
  ……副委員長が別の奴の応援にまわるからな。
  ……いいだろう。選挙運動自体はしなくていい。おまえは俺に票を入れるだけでいい」
「せいぜいがんばりな。できれば落選を祈ってる。こき使われなくて済むからな」
  口の端をひんまげて人の悪い笑みを浮かべてやる。吾妻が苦笑で返した。
「心配するな。票は結構とりまとめてるさ。勝ち目のない戦いはしないことにしている」
「オッケー。じゃあ、話はこれで終わりだな?」
  席を立ち、吾妻に背を向けて小汚い部屋を出ようとする。そこに吾妻の声が掛かった。
「待て。まだ重大な問題が残っている」
  内心少し驚きつつ、平静な顔を繕って、振り返った。
「なんだ? まだあるのか?」
「副会長の件だ。選挙協力をしないならば、副会長をお前にさせるわけにはいかなくなる」
  わずかの間、俺は呆けた。
「副会長?」
「ああ。方針演説とか立候補での自己紹介とかは、副会長候補もしなければいけない。
  矢代が選挙活動をしないとなると、副会長のポストが空く。
  ……困ったな、今から候補を探さければならん」
  この男は俺を副会長にするつもりだったらしい。本気で仕事を押しつけるつもりだったのが
よくわかってあきれた。
  俺はどうでもよくなって適当な提案をしてやることにした。
「……それ、お前の妹にさせろよ。美人だし、お前が信頼できるし、男の票を狙えるし、
  むさ苦しくなくて爽やかだ」
  今度は吾妻がぽかんとした顔をした。
  それからなにやら深く考え込み、うなり始める。
  俺は椅子に腰を下ろして、ぼーっと窓の外を見て待った。
  数分後、吾妻の顔がにこやかに晴れ渡る。
「ふっ、さすが矢代だ。この的確なアドバイス、やはり俺の目に狂いはなかったな」
  正直「馬鹿?」と思ったが、思うだけにして表情にもださないようにした。
  シスコンにつける薬はない。それは世界の定理だ。

「というわけで、吾妻が当選したら、俺も執行部にはいることになったんだ」
「ちょっと、なによ、それ?」
「一緒にいられる時間が減りますね」
「ふーん」
  憤慨する里香に、悲しそうな沙織、そして姉さんは教師なので帰る時間が変わらず
興味なさそうな顔だった。
  その日の夜、自宅の俺の部屋。俺は灰色一色の地味なパジャマ、
沙織は猫のイラストが全身に散らされた猫パジャマ。
  里香は無地のTシャツに紺色のジャージの下、
そして姉さんは過激さを抑えた薄いピンクのナイトローブで、ベッドに転がっている。
  ちなみに、姉さんの要望で姉さんの部屋のベッドが俺の部屋に移設され、
俺のベッドにぴったり横付けされてダブルベッドのようになっている。
「狭苦しいのはいや」と言われて、一生懸命運んでセッティングしたのだが、
寝るときには絡み合って寝ていて、ベッド一つ分しか使っていない。
  正直微妙なのだが、こんな風に思い思いにごろごろするときは、まったりと幸せな感じでいい
  それで幸せなのはいいが、伝えるべき事は伝えなければいけない。
「しょーがないさ。二股のことで弱みを握られた。無茶な脅迫じゃないし断るのはちょっと難しいな」
  俺の返答の後、少しの間会話がとぎれた。
やがて何事か考えていた沙織が俺にしがみついてキスをしてきた。
  ついでに勢い余って額をぶつけ、俺も目から火花が散った。
「いててててて……」
「……いたぃ……」
「なにやってるのよ、片桐?」
  痛みにうめく俺と沙織をみて、里香があきれ顔になった。
「まーくん、おねーちゃんがなぐさめてあげるからねぇ」
  しかし、伸びてくる姉さんの手は沙織にブロックされた。
  頭を抱えて涙目だった沙織が、痛みにうめく俺を上からのぞき込む
「私、まさくんを助けます! 執行部のお手伝いしますっ!」
  目にきらきら〜とお星を浮かべて沙織が胸の前で手を組んだ。
  ついでに姉さんによる俺の呼称まーくんに引きずられて沙織は
俺をまさくんと呼ぶようになっている。矢代くんでは友達のままみたいでなんかいやだそうだ。
「そ、そりゃ嬉しいけど、いいのか?」
「はい。中塚さんに体育祭実行委員会ではまさくんをとられてしまいました。
  同じ過ちは繰り返しません!」
  俺を引き起こしてベッドの上に向かい合わせに座ると、
沙織はぐっと拳を握りしめて力強く宣言した。
「なるほど、片桐がやけに気合い入れてると思ったら、そういうことなわけ」
  眼鏡を片手で直しながら起き上がる里香の目が、沙織を睨んできらりと光った。
「私だけ仲間はずれなのね〜」
  そんなことをつぶやく姉さんは、元から会話に加わる気もなく、
寝そべったままシーツにのの字を書いてたりする。

「ええ、学校でも家でも役に立つ女になって、まさくんの愛を独り占めする予定ですから」
  にやりと沙織にしては邪悪な笑いを浮かべて、里香を横目で睨んだ。
  だが里香は軽く笑い流しただけだった。
「片桐は自分のキャラをわかってないよね? 役に立つ女?
  あんた、自分がかなりどじっ娘ってわかってる?
  どう考えてもまさの足引っ張るだけでしょうが!
  できもしない事を言うつまんない口は捨てたらどう?」
  そう言うと里香が手を伸ばし、沙織の唇に指をかけて左右に引っ張る。
  ちなみに「まさ」は里香が俺を呼ぶときの愛称らしい。なにげに里香も姉さんを意識してたりする。
「ひひゃいひひゃいひひゃい!! ……ほのへー」
  口をひっぱられてジタバタともだえる沙織が、逆襲に挑み、里香のほっぺたをつかんだ。
「いたっ、いだだだだだだだだだだ、手をはなしなひゃいよー!」
「ひょっちこほーーー」
  愛する女達が争う姿というのにちょっとした倒錯美はある。が、目の前でやられるとつらい。
「はいはい、いい加減に……姉さん?」
  二人を引きはがそうとして、いつの間にか背中に姉さんがしがみついていたのに気付く。
  後ろに引き倒されてあっという間に顔の上に胸の谷間が迫り、
頭が丸ごと姉さんの胸に埋め込まれた。
「あんな二人は放っておいて、姉さんのおっぱいに埋まりなさい」
  ナイトローブのみで下着なしの丸みが俺を柔らかく
しかし決して離さないという意図をもって包みこむ。
  姉さんが俺のパジャマを信じられないほど巧みにずり下げ、
手を股間に忍び込ませて、肉棒をつかむ。
「ね、あんな乱暴な女達は忘れて姉さんの中に戻ればいいの」
  姉さんは、俺の頭と体を巧みに姉さんの肉に埋め込んで動きを封じると、
自らも巧みにナイトローブを脱ぎ捨て俺の肉棒に濡れた姉さん自身をあてがった。
「なにやってるのよっ!」
「まさくんは私のものですっ」
  衝撃とともに姉さんが俺から引きはがされてベッドを転がった。
  と思ったら、裸になってさらけ出された里香の小ぶりの胸が前を俺の顔に押しつけられ、
乳首が口に入り込む。
  肉棒は沙織だと思われる中に包み込まれた。あたっている足の感触から、沙織も脱いでいるらしい。
「ふぅ……って、ちょっと片桐! あんた、何勝手にまさを入れてるのよっ!」
「中塚さんこそ、胸をどけてください! まさくんは上も下も私が愛してあげるんです!」
「えーーっ! なんでまーくんのをとっちゃうのよ! 信じられない!
  先生のものをとるなんて最低!」
「生徒の恋人を寝取る教師がありますかっ!」
「まさくんは私のものって事は、常識です!」

 わめく姉さんはまったく懲りずに俺の手を抱いて、指を自分の中に差し込みながら、
俺のパジャマをめくり乳首を舌でなめ回す。姉さんもすでに服を脱ぎ捨てていた。
  言い返す里香は、口で愛撫しているほうの胸を押しつぶすように俺に押しつけ、
もう片方の胸で顔中をなで回している。
  そして俺のものは沙織の膣で締められこすりあげられていた。
  俺は腰を突き上げて沙織の中を肉棒で愛撫し、口で乳首を転がし愛して里香を愛し、
姉さんの中と胸を伸ばした腕で喜ばせた。
  すぐに快感で力抜けた沙織を下から突きまくって絶頂に追い込むと、
体を起こし姉さんを抱き寄せて正常位で突き入った。
  そして四つんばいにさせた里香の陰部を後ろから舌で犯し、
姉さんが震えながら愛液を漏らして達すると、そのまま後ろから里香に入った。
  目覚めてすがりついてくる沙織を抱いて胸を揉みながら口づけし、
里香を突きまくると里香が尻を震わせて倒れ込んだ。
  俺も里香の中に盛大に放って座り込む。だがそれで終わることはなく、
沙織にまたもや押し倒され、顔に沙織の陰部が押しつけられる。
  舌で沙織の中を好き放題かきまわしていると、感触の違う大小二つの胸に肉棒が挟み込まれた。
  両手を伸ばして腰のところにいる姉さんと里香の胸をつかんで乳首を弾きながら、
沙織のクリトリスを甘噛みする。
  女達のけんかは止まっていた。最近は、女達の体に溺れて全力で愛するだけで、けんかは収まった。
  ありったけの精液を三人の女に注ぎ込み、三人の女を両手で抱え込んで肉に埋まって眠りにつく。
  俺はこの女達を手放すつもりなんかなかった。全員、心から愛していた。それはほんとうだ。
  だから一人に絞るつもりも決着をつける気もモラルを守る気もさらさらない。
  そう言う意味では、やっぱり俺の恋愛機能は壊れている。どうしても全員で幸せになりたい。
  嫉妬もケンカもあってもいいけど、沙織も里香も姉さんも誰も拒絶して悲しませたくはない。
  そして眠りに落ち込みながら俺は思った。
  今のこの関係を守るなら、クズでも最低でもなんでも構わないと。
熱い女達の体と心に勝るものは何もない。
  ふと、親父に親近感を覚えた。
女で酷い目にあってもまた三十代バツイチの女にはまる理由がなんとなくわかったからだ。
  やっぱり俺は親父の子供なんだな、そう妙に納得した時、意識はとぎれた。

 里香と沙織に執行部に入って手伝ってもらう了解は、簡単にとれた。
  姉さんも当選したら執行部顧問という形になるように頼んだ。
たぶん問題はないだろうとのことだった。
  そうやって準備を整えて数日が経った。
  選挙戦が始まり、三組ほどの候補者が、演説やビラ配りや挨拶回りをするようになった。
  吾妻には選挙活動は手伝わないと言ったが、演説などはともかく、
ビラ配りやポスター貼りは手伝った。
  選挙活動を吾妻との交渉の時はめんどくさい事だと思っていた。
  しかし吾妻の下で働くにしろ、選挙運動中何も手伝わずに当選後に突然しゃしゃり出て、
仕事だから協力しろが通ると思うほど脳天気ではない。
  従って裏方に徹することにした。演説などで表に出て注目されるのは避けたかったが、
目立たない仕事なら手伝えることはいくらでもある。
  そうやって、当選後の仕事がやりやすいように小さく顔つなぎをしていくことが有効なのは、
体育祭実行委員で学習済みだ。
  だが、俺のもくろみとは別に執行部の選挙などそう盛り上がるはずもない。
  選挙戦はそんな風に極めて淡々と進んでいた。

 そのように見えたある日、唐突に吾妻が消えた。

 ざわつく休み時間。いつものようにグループが出来るが、いつものグループの中に吾妻の姿は無い。
  それが既に三日続いていた。
  さすがにこんな不測事態で俺は困惑していた。
「おーい、矢代ぉ! かわいい女の子がお前に用事だってさ」
  教室の二カ所から粘つく険しい視線を受けながら、俺は声のかけられた入り口に向かった。
  そこにいたのは、吾妻の妹――沙織と里香と姉さんだけでいっぱいな
女関連の俺の記憶に間違いがなければだが――だった。

 浮かんでいたのは妙に媚びたような作り物くさい笑顔。
  にもかかわらず育ちの良さを感じさせる清楚さと利発さ、
そして気品さは、その女から失われてなかった。
  話に聞く風俗営業店の女のごとく、俺の膝の上にのっていても、だった。
  本物の美少女という奴なんだなという感慨があった。
吾妻がシスコンになるのも無理はないと思った。
  しかし、あまりにも不自然だった。育ちのいい女が必死に下品な真似をしているが、
いまいちうまくいっていないという奴だった。
  本当に大事に育てられ、まっすぐ上品に育っているからこそ、
痛々しさと猜疑心しか起こらなかった。
  そもそも、この女にこんなもてなしを受けるほど、俺は彼女と親しいわけではない。
  俺の膝の上で痛い演技をしている女は、吾妻の妹だった。
  放課後に、俺一人だけをわざわざ自宅、つまり吾妻の家の、彼女の部屋まで招き入れての所行だ。
  清楚で可憐な吾妻の妹が、俺の膝の上に乗って、わざとらしい笑顔を浮かべて
紅茶を飲ませてくれていたのである。
  しかも制服のシャツの胸元は二つほどボタンが外れていると、痛いサービスっぷり。
  とはいえ、愛する女達が居なければ、俺だって見え見えのハニートラップに
引っかかっるかも知れないとは思った。
  ともかく、彼女の意図が掴めず、状況判断の計算も成り立たず、
俺は注ぎ込まれる紅茶を慎重に飲むしか出来なかった。
「えーと、吾妻の妹さん? なんで俺達はこんなことになってるのかな?」
「美優って呼んでください」
  そういうと彼女は悲しげな顔をする。太股の上で尻をもぞつかせるのは、
股間を刺激するので是非止めて欲しかったりした。
「で、妹さん? どうして……」
「美優です」
  澄んだ瞳が悲しみをたたえて俺をみる。演技だとはわかっていたが、
こわばった笑顔よりは心に響いた。
「で、妹さ……」
「お願いです。美優って呼んでください」
  負けた。顔を近づけられて、その目でじっと見られるとさすがにやばいものがあった。
「……で、吾妻さ」
「美優」
  くそっ、なんでこんなことに!
「美優さん? どうしてこんなことを?」
  澄んでいるくせに逆らいにくい力をもった魔性の目が遠ざかって、俺はほっとした。
  沙織や里香や姉さんと愛し合ってなければ、俺ももっと早く屈服していただろう。
「好きです。愛してます」
  唐突で驚きはした。だが、やっぱり演技はもう一つだった。俺は本当の告白というのを知っている。
  この娘は違った。目に怖れしかなく、俺の膝にのっていても、体が俺を怖がっていた。
  好きな男の全てを受け入れたいと願っている女の反応ではない。
  ずいぶん無理をした演技だった。
「誰を?」
  俺の受け流しで目に驚きの色が広がる。こっちの方が真実の色があった。
「あ、あなたです。矢代雅史さんです」
  そう言い切った目に恥じらいがない。体に熱がない。
「そう。でも吾妻さんにはもっとふさわしいいい人がきっと見つかるよ」
  意図が不明だが、これ以上二人でいるのは危険に感じた。ゆえに、さらりと受け流す。
  吾妻の妹だから大丈夫かと思っていたが、とんだ計算ミスだったらしい。
  これ以上、彼女の体に触れてはいけなかった。
  彼女の手を触らないように紅茶のカップをつかみ、腰を浮かし足を伸ばして、
膝の上の彼女をゆっくりと滑り落とす。
  軽い少女の体を優しく座っていた椅子に落とし込み、俺は起ち上がった。
  手に持つことになったカップを机に置き、出口に向かって歩いた。
  彼女の意図を探るつもりはなかった。そう言うのはこの危険地帯を脱出してからでいいのだ。
  出口のドアの取っ手に手をかけたところで、声が掛かった。

「どうしてですか?」
  その声に籠もったものは本物だった。本物の感情があった。
それで振り返ったところに俺の甘さがあった。
「だって、演技の告白なんていらないしさ」
  肩をすくめる。驚くかと思ったが、妹は表情を消した。
「やっぱり……」
  そういうと薄く笑った彼女は、シャツの前に手をかけた。
「色仕掛けでしゃべってくれればと思ったのですが……案外難しいものです」
「……本当に俺の事を好きな女性のふるまいを見ているからな」
  彼女の演技の下手さには触れないようにした。彼女に好意を持つ男にはあれで充分だからだ。
「そうですか。兄さんには私が色仕掛けで迫れば、どんな男も必ず堕ちると言われたのですが……」
  彼女の顔が幾分しょんぼりとしたものになった。
  そして俺は吾妻のシスコンぶりに苦笑した後、布が引き裂かれる音を呆然と聞くことになった。
  破れた服によって下着が露わになりながら、彼女は俺の顔をみて優位に立ったことを確信し
笑みを浮かべた。
  良い表情だった。少なくともさっきの無理矢理な笑顔よりは数段男心をそそる。
「矢代先輩、そろそろ本当のことをしゃべって下さいませんか?
  でなければ、ここで大声をだします。
  わかりますよね? この姿で人を呼べばどうなるかは」
「本当のこと?」
  冷や汗をかいてやばい立場に追い込まれたことを自覚しながらも、
意味がわからないところを問い直す。
  振り返らず部屋を出ればよかったと後悔に心を鷲づかまれながら、解決策を会話に求めた。
彼女に触れるわけにはいかなかったから。
  俺の疑問に可憐な目が厳しい輪郭を形作る。
「兄さんをどこにやったか、です」
  さらに意味が不明だった。にも、関わらず彼女の目は険しかった。
「とぼけるのですか? あれほどのノートを作れる人ですから、察しは良いと思うのですが……。
  やはり往生際が悪いのですね」
「なぜ、俺なんだ?」
  俺は自らが疑われているらしいということを、推論に頼らず、目の前の女の言動から察した。
  鈍いと言うべきなのだろうが、心当たりがないので仕方がない。
「最近、兄さんと変な行動をしたのは矢代先輩だけだからです」
「え?」
  どきんとひときわ強く鼓動が鳴った。
「二週間ほど前、矢代先輩は兄さんと旧天文部室に行きましたよね?」
「あ、ああ」
  声が緊張でかすれた。あの汚い部屋は旧天文部室だったのかと合点する。
「そこで重要な話をしましたね」
  一つ肯いた。
「矢代先輩はそれにより兄さんの執行部に参加することになりました。
  何かの取引があったのではないでしょうか?
  兄さんは、その後、矢代先輩の参加に満足してましたから、
  矢代先輩に不利な取引だったのではないかと思ったのです」
  それは今日この少女と出会って一番有意義なセリフだった。
  凡百な愛の告白よりも、この少女の推理のきらめきの方がまだましだった。
強引ではあったが読みは悪くなかったのだ。
  そしてそれは俺に深刻なショックを与えることにもなった。
  吾妻が消えて得をする人間は、つまりこの俺なのだ。限りなく黒いのが俺自身だった。

「……その通りなんだが、俺は本当に知らないんだ」
  自分で言ってて、かなり説得力に乏しいと自覚していた。
「信じられません。知りうる可能性を考えたのですが、兄さんが何かされる理由としては
  先輩しか思いつきません」
  吾妻の妹が、真実の端緒をつかんだという意気込みを顔にみなぎらせ、詰め寄った。
「他の可能性は? 女関係や、金銭の誘拐とか」
「確かに兄さんの女性関係は始めに考えました。しかし付き合っていたことのある六人は
  全員違うことが確かめられました」
「確かめたって?」
「全員、他の方と付き合っていました。兄さんに未練がある様子はありませんでした」
「犯罪は?」
「金銭目的の誘拐なら、私を狙う方が容易なはずですが、
  私の身の回りにはそんな怪しい人物が動いている感じはありませんでした」
「くそっ」
  俺の舌打ちですら、犯人の追い詰められた様子だと傍目には映るだろう。
「後は事故の可能性はありません。周辺の病院に電話して尋ねてみました。
  兄さんのような患者はいないそうです。
  それと兄さん自身の家出の可能性ですが、兄さん名義の通帳からお金が引き出されていません。
  友達との旅行の話もありませんし、新しい彼女の話もありません。
  いたとしても旅行やデートにもお金がいるはずです。
  残るは怨恨の線ですが、その可能性は先輩だけなのです。……さあ、真実を話してください」
  俺は彼女の目から視線を外した。この行動も非常に怪しい動きと思われたに違いなかった。
  だが、俺は自分が犯人でないことを知っていた。見過ごされている何かがあるはずなのだ。
「例えば不良ともめたとか、新しい彼女を作ろうとしてトラブったとか、ストーカーとか……」
「確かにそんな可能性はありますが、一番怪しいのは先輩なのです」
  そらした目の端にかわいい柄のブラジャーが見えた。胸をきれいに包んでいた。
  ストーカーといえば、彼女に真実を吐けと迫られるのもストーカーみたいだと思った。
  誘い込まれて色仕掛けでついには脅迫されて。これだから女のストーカーは質が悪い……。 
「ストーカー?」
  ふと何かがひっかかる感じがした。
  胸を包んでいるかわいいブラジャー。……女の子が大事に包んでいる?
  俺は視線を戻した。
  俺を犯人と決めつける彼女の嫌な目。だが、もっと嫌な目を見たような覚えがある。
  吾妻は、あの女はこの話に関係ないって言った。
「……俺をなぜか憎しみの目でみる女」
「なんでしょうか?」
  目の前の女のことを頭から追い出して必死に思い出す。
「きれいに包まれた弁当箱をもって、吾妻の前に現れて、怒られていた」
  前に立つ人物と同じようにあの子も清楚だった。
  ただし線の細い、はかなげな綺麗さとそれをホラーにしかねない
空虚で絶望と憎悪だけが浮かんだ目。
  毒をもった隠花植物の花というべきあの少女。……記憶はつながった。
「……吾妻と付き合っていないが、吾妻をとても好きだった女の線は?」
「先輩には失礼ですけど、兄さんはかなり女性に人気があります。
  そんな女の人は多過ぎてとても調べきれません」
「ああ。だけど最近吾妻に弁当を差し入れしようとして断られている女がいたはずだ。
  おそらく一年生。それなりに綺麗で線が細くて清楚な感じだけど、目が少し危ない感じの女」
  吾妻の妹は、首をかしげた。
「それは調べてませんが……、それが何か関係が?」
「わからない。ただ調べてみる価値はあると俺は思う」

 彼女の目に浮かぶ強い不審の色は消えなかった。だが彼女は一歩下がった。
「後ろを向いてください。着替えます」
  俺はあわててドアの方を向いた。
  しばらく衣擦れの音がした後、彼女の声により向き直った。
  吾妻の妹は、部屋着に着替えていた。ボロ切れのような制服のシャツは丸められている。
「先輩、今日は帰っていただいて結構です。ですが、疑いは全く晴れていません」
  俺は無言だった。
「しばらくは先輩を監視します。昼休みは私と行動してください」
「え、ええーーー」
「なんですか、その嫌そうな態度は? 少し傷つきます」
  どうも態度に露骨に出てしまったようだが、いまさら隠す気もなかった。
  先ほどの鋭利なほど俺を突き刺した彼女の目の光が刃こぼれして、ショックに揺れていた。
「昼休みは、大好きな女達と飯を食うって決めてるのに、
  何が悲しくて吾妻の妹と過ごさなきゃいけないんだよ?」
  いっそ言い切ってしまって、そして目の前の女の落胆ぶりに驚いた。
  吾妻の妹は本気で落ち込んでいたのだ。
「……そんな言い方って……。何も好きであんな兄さんを持ってないのに……。
  それに大好きな女って……」
「おい、なんでそんなに落ち込むんだよ?」
  その言葉に彼女が顔を上げて、さっきより迫力ある目つきで俺を睨んだ。
「先輩は、私と付き合いたいって兄さんに頼み込んだんじゃないんですかっ?
  だけど兄さんが私をあきらめさせようと先輩に無理難題ふっかけたから、
  先輩は兄さんを亡き者にして……」
  どこかで頭のネジが緩んだような気がするほど、俺の頭は空白になった。
「はぁ?」
「それなのに、私とお昼を過ごしたくないとかっ、大好きな女とお昼を過ごしたいとかっ、
  ひどいですっ!」
  ドンという音と共に彼女のかかとが俺のつま先にめり込んだ。
  その後の惨状は書くまでもない。

 あるものは不機嫌だった。またあるものは困惑していた。さらにあるものは無視しようとしていた。
残ったあるものは、信念にしたがっていた。そして俺は、開き直っていた。
  翌日の昼休み、中庭の端っこ。木と草むらでちょうどよく囲われた上に、
グラウンドや校舎の出入り口からも外れた絶好のカップルスポット。
  そこに俺達五人はいた。……四人は愛し合う仲だったが、お邪魔虫が一匹。
  俺達四人はいつものごとく柔らかい芝生にハンカチを敷き、輪になって昼食を食べていた。
適当に仲良く、適当にケンカしながら。
  弁当箱が空になって食事が終わりかけの時に、俺達の間に乱入してきたのが、
昨日のハニートラップ名探偵、吾妻の妹だった。
「なんですか、この人は?」
「女子高生探偵の人だ。気にするな」
  沙織が不機嫌も露わに、吾妻の妹を睨んだ。
俺はそんな沙織にご機嫌伺いでごろにゃんと体をすりつけた。
「吾妻美優です」
  気丈な口調でそう言いながらも、吾妻の妹――美優は俺の行動にショックを受けた様子を
隠しきれなかった。
「その、なんで私達のところに入り込んでくるわけ?」
「監視活動だそうだ。気にするな」
  里香が困った顔で美優を見つめる。俺は里香の膝枕でごろごろした。
「矢代先輩には重大な疑いがあるんです」
  そう言いながら、美優はさらに顔をこわばらせた。
「まーくんお弁当たべてしまいましょう?
  まーくんの大好物、ほら、ピーマンの肉詰め残ってるわよ」
「わーい、姉さん大好きぃ」
  素知らぬ顔で姉さんの箸につままれた料理を食べる。姉さんの胸にすりすりと顔をすりつけた。
「や、矢代先輩っ!」
  なにか美優が叫んだが、俺は無視した。
「というわけで、みんなは美優ちゃんのことは気にしないでいいから」
「先輩っ!」
「なに?」
  きんきんと耳が痛くなるような叫び声で皆が顔をしかめているので仕方なく振り返った。
「こ、これはいったいどういうことですかっ?」
「どうって?」
「こ、この三人の女性とどういう関係なんですか!?」
  美優は動揺していて目が少し泳いでいた。関係を理解はしているが納得してないようだった。
  はじめから隠すつもりがなかったので、単刀直入に答えた。
どうせこの娘が副会長になれば、いずればれることでもある。
「俺の大好きな女」
「どの人がですか?」
  その質問に深い意味はなかったのだろう。だが俺にとっては大事な質問だった。
  沙織、里香、姉さんを腕で抱えて引き寄せる。
「全部。三人とも俺の大好きな女」
  美優が口を開けたまま静止した。
「固まってますねー」
「そりゃ、固まるよ。理解したくないと思うよ? 異常な世界だし」
「女にとってはある意味、あり得ないしね」
  腕を放すと女達は呆然と固まった美優を見つめて思い思いの感想をのべ、
俺は無言で美優の頭に事実がしみこむのを待った。
  やがて美優の顔に納得いかないという表情が戻ってくる。
俺の言い分を理解したと考え、俺は話を続けた。
「つまり、吾妻の話とは、この女達と俺との関係の話だ。
  この関係をばらさない代わりに執行部の仕事を手伝えってことだったんだ。
まあ、あの時吾妻は二股だと思っていたようだけど、既に三股になっていたんだけどな」
  美優が再び口をあんぐりあけた。その表情は妙にコケティッシュだった。

「み、みつまた?」
「そう。三人同時進行」
  美優の顔が言うべき言葉を無くしたという顔になる
「それが君の考えていた、俺に不利な取引の正体。ばらされるといろいろとめんどくさいからな」
  美優は何度か口を開けて何かを言おうとしたが、
その度ごとに思い直したように口を閉じることを繰り返した。
  そしてついに大きく深呼吸をして、胸を押さえて、自身の気持ちを整えたようだった。
「じゃ、じゃあ先輩が私を副会長に推薦したってのは?
  先輩が私のことが好きで一緒に居たいからではなくて?」
  俺を見つめる美優の瞳が少し潤んだようにみえた。
  俺は申し訳なくなって頭をかいた。
「うん、すまない。俺は目立ちたくなくて選挙活動に加わらないから、
  副会長を誰にするかという話になって、吾妻にとって信頼できる人物ということで、君を推した」
  その言葉と共にぽろりと美優の目から滴が流れ落ちる。
「……私、馬鹿みたい。好きな人に認められて愛されてるから副会長に推薦されたと
  勝手に勘違いして。
  なのにいつものように兄さんが邪魔をしたんだと思いこんで……」
  泣き笑いの顔が胸に刺さり、俺はさらに深く頭を下げる。
  里香が黙って美優の肩を抱き、頭をなでた。
「ごめん。俺は沙織や里香や先生を愛してるんだ」
「三人ともですか?」
  涙をこらえた美優が、必死に意地悪な笑いを顔に浮かべた。
「ああ。三人ともだ」
「無茶苦茶です」
「そうだな。本当に、我ながら無茶苦茶だと思う。
  でもさ、俺にはできなかった。三人とも俺をすごく愛してくれたのに、
  その愛を比べるってのができなかった。
  愛を比べて、二つを捨てて一つを選ぶ……その選ぶっての、俺はすごく傲慢な気がして、
  出来なかった」
「……でも三股なんて」
「ああ、良識に反しているよ。そして、選べないことを女達に押しつけている。酷いことだと思う。
  でも俺に言わせれば、誰かに愛されるって、とてもすごい奇跡で、
  愛し愛されることはもっと奇跡だと思う。
  沙織が、里香が、先生が俺を愛してくれたから、俺は自分に意味を見いだせたんだ。
  ここに居る意味、自分が生きてきた意味を、教えてくれた。
  だから俺は沙織を、里香を、先生を愛し返してあげたい。
  もちろん、好きだから手放したくないってのもある。いや、それがすごく大きい。
  沙織も里香も先生ももう誰にも渡したくない。ずっと隣にいて欲しい」
  いつしか美優の泣きそうな顔が落ち着いていた。
  そして俺の両手がそれぞれの手に握られ、背中に姉さんの温かい体が寄せられる。
「ほんとは、みんなを俺のとんでもない勝手に巻き込んでいると思う。
  でも俺はこの手に三人を一生抱え込みたい。
  いや、抱え込む。抱え込んで幸せに暮らす。……そう決めた」
「……先輩はとんでもない欲張りで、大馬鹿です」
  何かを思うことがあるような顔で、美優は俺を静かに非難する。

「何をいまさら。この人、ハーレムを作るって本当に思ってるんだから! 正気じゃないわね」
  苦笑を浮かべながら、里香が言う。
「ほんと、どうしてこんな弟に育ったのかしら? まーくん、今からでも遅くないわ。
  お姉ちゃん一筋になって!」
  後から抱きついて姉さんがささやく。
「大丈夫です。最後には私だけが残って、普通になるんです。
  中塚さんもお姉さんもすぐにほかの男についてっちゃいますから問題ありません」
  なぜか自信満々に沙織が宣言する。
「勝手に決めつけないで! 片桐こそ、他の男に誘われたらよろめくんでしょ」
「私はまさ……矢代くん一筋です。でも中塚さんは矢代くんに愛想尽かしてるんじゃないですか?」
「矢代くんをブラコン女やあんたみたいな人に任せたら、余計に心配なの!
  というか、絶対に任せられない。あんた達常識ないから」
「弟の育て方を間違ったのは認めるわ。ほんと、こんな二人みたいな横恋慕してくる女を
  厳しく追い返すのは、早く教えておくべきだったわよ。
  こんなことならおねーちゃんだけに優しくって言い聞かせるんだったわ。
  おねーちゃんを海より深く愛するのは常識なのにねぇ。はぁ」
  女三人がいつものように始めた喧嘩を、美優は目を白黒させながら眺めている。
  それは俺にとってある意味心休まる光景だったけれども、言うべき事は残っていた。
  俺はもう一度三人を抱き寄せて、喧嘩を止めさせる。
「そのとおりだよ。君の言うとおり。我ながら馬鹿で強欲だ。
  でも俺はもう賢く正しく生きるのは止めた。そんな人生くそくらえ
  俺は沙織や里香や姉さんと共に生きていけるなら、最低でクズで結構。
  他の女に総スカンでいいんだ」
  美優が息を呑んだ。
「だけど、この三人を俺への疑いで巻き込んで欲しくはない。だから吾妻の捜索に協力する」
  言葉を切り、じっと美優をみつめた。
「俺の言ったストーカーの女、該当する奴はいたか?」
  美優はしばらく沈黙した後、表情を改めて、ひとつだけしっかりとうなずいた。 

 

「ところで矢代先輩はどうして大和田先生を姉さんって呼ぶのですか?」
  ストーカー女の話をした後、美優がきっちりつっこみを入れてくれて、
説明に苦労したことは省略したい。
  まあ、三股の上に最低を重ねただけのことだ。 

 十分後、俺と美優は一年の教室の前にいた。美優のクラスではない。
  昼休みも終わりかけで生徒は教室に戻ってきており、
俺は入り口から教室に戻ろうとした女生徒を呼び止めた。
「えっと、古川幸(ふるかわ・ゆき)っているかい?
  おとなしそうでちょっときれいだけど近寄りがたくて暗そうな人」
「彼女、休んでますよ?」
  何のてらいも迷いもなく女生徒は即答した。俺の述べた外見的特徴が人名と合致したのだ。
人定質問は成功したらしかった。
「あれ? 彼女、いつも俺のクラスの吾妻に弁当を持って行ってたのに?」
「知らないんですか、先輩? 最近、吾妻先輩にあの娘、はっきりふられたんです。
  もう来ないでくれって。
  まあ、暗い顔で追っかけまわすんですから仕方がないですよ」
  ケラケラとその女生徒は残酷に笑った。俺は苦笑を顔に浮かべておいた。
「で、彼女いつから休んでるの?」
「四日前からですよ。失恋してあきらめきれずに引きこもってるんじゃないですか?」
  美優の目がきらりと光る。
  俺は礼を言って女生徒を解放した。
「……先輩には謝罪とお礼を申し上げないといけませんね」
  そこに居たのは、先ほどまで心を揺らしていた美少女ではなく、
  手がかりを見つけた名探偵だった。演技は下手だけど。
「ビンゴって言いたいが、まだ決まった訳じゃない」
  俺の言葉に美優はうなずく。
「現場を確かめる必要があります」

 放課後、俺達五人は見知らぬ住宅街にいた。目前の一軒家の表札には、「古川」の文字がある。
  今どき珍しくもない白い壁で建て売り風の少し古めな二階建て。
生け垣に囲まれ、窓ガラスにはカーテンがひかれている。
  門扉の向こうには少しさびた自転車があるが、
人の気配に乏しく昼下がりの古川宅は静まりかえっていた。
「この古川さんって人が、吾妻くんのことを知っているかもしれないってわけね」
「でも私達、この古川さんって人と全然話したことも会ったこともありませんよ?」
  里香と沙織が家を見上げて言った。
「私も矢代先輩に言われるまでは全然しりませんでした。クラスも違いましたし」
「私は二年担当だから。一年の事は知らないわよ?」
  美優が玄関のドアを見つめ、姉さんが俺を向いて肩をすくめる。
「全員でいってみればいいと思うが? 当事者の美優と、担当教師である姉さん、
  そしてクラスメートの俺達。
  俺達が吾妻の行方を尋ねても何もおかしくはない。堂々と行けばいいさ」
「知らないって言われたらどうしますか?」
「そんな時は姉さんの出番」
「ええー? ……と言いたいところだけど、仕方ないわね。仕事だし」
  美優の指摘に俺は姉さんを持ち出し、話をふられた姉さんはもう一度肩をすくめた。
「というわけで、姉さん。まずはインターフォンでのお話をお願い」 
「はいはい」

 教師の威力というものは、こういうときこそ頼もしかった。
  俺達に対してかたくなに入り口を閉ざしているように思えた古川家が
俺達を玄関まで招き入れたからだった。
  もちろん、姉さんの話の持って行き方がかなりうまかったのだ。
  俺達は門扉を開けて、ぞろぞろと玄関まで移動し、扉が開くのを待った。
  やがて、扉が小柄な女の体ぶんだけ開いた。開けたのは、あの時の嫌な目をしていた女生徒。
  休んでいたにも関わらず、タートルネックのうす黄色のシャツに
モスグリーンのスカートをはいている。
  着飾らないカジュアルな服装は、清楚さこそ失わなかったが非常に地味で、
かなり整った顔にも関わらず全体として冴えない感じだった。
  もっとも、顔の美しさが生きないのは、服装だけでなく瞳のせいもあった。
目が生気や喜びに乏しく、まさに人形じみた印象を与えるのだ。
  今日の彼女の目には憎悪こそなかったが、どことなく痛々しい空虚さが相変わらず漂っていた。
  そんな彼女に対して、姉さんと美優が先頭に立って、しゃべった。
俺達はその後ろで黙って会話を聞いている。
  だがその会話で彼女はじっと聞いているだけで、自身はほとんどしゃべらなかった。
それゆえまれな返答でなんとか会話が成り立っても中身は乏しかった。
  やがて手応えのない会話にじれて、美優が叫ぶ。
「お願いです! 兄さんが居なくなって、もう四日もたつんです!
  あなただって兄さんを好きだったじゃないですか!
  兄さんにひどいふられ方をしたかもしれませんし、そのことは謝りますが、
  どうして何も教えてくれないんですか!」
  その時、俺は家の奥で何か物音を聞いた。そしてうめき声のような声も。
「あの、何か変な声、きこえませんでしたか?」
「まさ、あれ、吾妻くんの声に似ている気が……」
  沙織と里香がそっと俺にささやき、俺も同意を込めて、彼女らの目を見返す。
「私には関係ないですから……」
  そう言って閉じられそうになった扉に、俺が足を突っ込めたのは、まさに奇跡だった。
  渾身の力で扉をひきずり開けると、俺は叫んだ。
「吾妻、いるのかぁ?」
  今度こそ、五人に、いや、目前の古川幸にすら聞こえる声でうめき声が響いた。
「二階よ!」
  姉さんの言葉と共に弾かれたように美優が中に入り込む。
  続いて入り込んだ俺は、視界の端にあの嫌な目の光と銀光が輝くのを見て、とっさに伏せて転がる。
  沙織の悲鳴があがり、姉さんが顔を蒼白にして口を押さえて立ちすくむ。
  中に入ろうとしていた里香が顔を引きつらせながら、入り口で立ちすくんでいた。
  俺は倒れたときに打ち付けて痛む肩を抱えながら立ち上がる。
  美優が階段の途中で振り返って、恐怖の面持ちでこちらをみていた。
「出て行って。……私と先輩の邪魔をしないで。……出て行かないと……殺しちゃうから」
  玄関の土間で、彼女はつぶやいていた。
  あの暗く絶望に満ちた濁った瞳。その中には否定と憎悪だけがうずまきながら、
顔はあくまで能面のごとき無表情。
  そんな古川幸の拒絶は、言葉だけでなかった。
  鈍く銀色に光る包丁がその手に掲げられていたのだ。
  包丁がゆらゆらと目標を値踏みするように動き、一番距離が近い俺のところで止まる。
「あなた、また、私の邪魔をした」
  それが彼女の死刑宣告。

7

 これは巡ってきた因果なのだろうか?、
突きつけられた包丁をみながら、今までの記憶がいろいろと巡った。
三股同時進行なんて悪行のつけをここでこんな形で支払わされることになるのだろうか。
だが、沙織の涙や、姉さんの青ざめた顔、里香の引きつった表情をみて、
俺は自分にやれることを思いだした。
もちろん、体はしびれたように頼りなく、足はどうしようもなく震えている。
息も轟音を発して荒く、喉は不快にひりついた。
古川は……包丁を突きつける古川の目は、相変わらず絶望と憎悪に濁っている。
「また、私の邪魔をした」
俺が刺されるのはいい。いや、ダメだ。そんな自己犠牲に意味はない。
沙織の目がだんだんと嫌な色に染まってきている。俺に何かあったら彼女が暴発しかねない。
必要なのは耐えること。限りなく狡猾になること。誰も、この古川ですら、無傷で終わらせること。
目を閉じずに、焦ることなく、全てのものを良く聞いて、良く見ること。
だらしなく震えながらも、俺の頭が少しだけまともに動き出した。
走馬燈など知らないが、意味もなく次々と思い出す過去の記憶から意識を振りはらう。
何をすべきか? ……いま、この暴発しそうな雰囲気をなんとかしなければいけない。
どうやって? ……ゆっくりとのんびりと普通の声で。
何も変わらないように、いつもと同じように行動すること。
頭の片隅でささやく声に従い、震える足でそっと後ずさりして、
カタツムリよりのろく玄関の上がり口に腰を下ろしていく。
足がたよりなくがくつき、ただ座るだけことに恐ろしいほどの神経を使って、脂汗が流れ落ちた。
突きつけられた包丁が、腹から目と同じ高さに上がっていく。
今からでも先端恐怖症になれるほど、恐ろしい切っ先だった。
「出ていって」
その言葉に反応せず、腰を降ろしきって大きくゆっくりと息を吐く。無性に小便がしたかった。
「ああ、出ていくよ」
古川の声は、思ったよりは低く、艶があった。でも気迫はない。
彼女に返す俺の声は裏返ってかすれている。我ながらすごく緊張しているらしい。
心臓がすごい勢いで鼓動していた。
「早く出ていって」
「ごめん、腰が抜けてうごけない」
「……馬鹿?」
ややとまどったように、だが仏頂面のまま古川がこぼした。
けれど、古川の目は揺れ動いていた。そして少し、ほんのわずかだけ、緊張が緩んでいた。
「はは、確かにあんまり賢くないかも」
無理して笑った。それは古川の反応を誘う一手だった。
幸運にも彼女は俺の期待したリアクションを返してくれた。
「早く出ていかないと……」
すこしだけムキになったのだ。
「君がそんなものを振り回すから、びっくりして足が動かないんだ」
「……出ていかないと、痛い目にあうから」
カンダタが蜘蛛の糸をたぐり寄せるように、俺は古川のわずかな反応を手がかりにして、
彼女との対話を試みた。
彼女の脅迫で背筋に悪寒が走るが、しかし彼女が包丁を動かしていないことも俺は見ていた。
「だから出ていきたくても足が動かない」
だんだんと口が滑らかにまわるようになる。それと共に心が少しずつ落ち着いてくる。
「……死んでみる?」
言葉は過激だったが、よく見ると包丁は小刻みに揺れていた。
目の前の少女もまた、かなり動揺していることがわかった。
顔だけは見事にポーカーフェイスだったが。
唐突に場違いな思考が浮かぶ。心の中で笑って消そうとして、ふと考えをとめた。
説得への計算とか、事態打開への打算とかが投げ捨てられ、頭の中が、それ一色になる。
馬鹿だ、俺は。と思ったが、本能の欲求がまさった。
口を開くとき、俺の顔には自然な笑みが浮かんでいた。
「死ぬ前にキスをさせてほしいな」
「何、言ってるの? 頭がおかしいの?」
少女があきれた声を出す。沙織達が戸惑った顔をしていた。
「君とじゃない。後の女の子達とだよ」
「……好きにすればいい」
そっぽを向く彼女に、俺の打算と計算が蘇る。シグナルは、グリーン。フルスロットル!
「んじゃ、女の子をこっちに呼ぶよ?」
めんどくさそうにうなずく古川に、俺は張り詰めたものがさらに少し緩んできたのを感じた。
「沙織、ゆっくりと歩いて、こっちにきて。彼女に近寄ったらダメだよ」
「まさくん!」
少女への怒りを顔にたたえて、沙織がゆっくりと俺に歩み寄る。
古川はそっぽを向いたまま動かない。
「そんな顔するなって。さあ、キスしよう。俺は腰が抜けてて動けないから、沙織から頼む、な?」
「でも!」
「沙織と今、キスしたい! だっこして欲しい!」

 少女の存在を頭から追い出して、プライベートで甘えるように、馬鹿丸出しを承知で甘えた。
結構本気で甘えた。
沙織がとまどった顔をする。俺は口を突き出して催促した。
よくわからないという顔のまま、沙織の顔が近づき、唇が重ねられる。
甘く柔らかい沙織の唇をむさぼり、舌を重ねた。軽い体を引き寄せ抱きしめた。
怒りととまどいで固かった体から力が抜け、いつもの大好きな柔らかい体になる。
沙織は優しく激しい女だ。この柔らかい体に驚くほどの熱情が入っている。
そんな彼女の心が俺に勇気をくれる。
存分に口づけを交わして、二人とも小さなため息を漏らして、唇を離した。
霧で閉ざされたように混乱していた俺の頭に冴えが戻ってくる
「……楽しんだ? なら、さっさと出て行って。二人とも串刺しになりたくなければね」
「まだ、キスは終わってないんだけど?」
古川がひきつったような嫌な笑いを浮かべて、脅しの文句をならべる。
しかし、平然と言い放つ俺に戸惑ったのか、すぐ無表情に戻った。
フルスロットルなんだぜ? キミ。俺は古川に心の中で舌をだした。
「里香ともキスしないとな」
「何、それ?」
「ちょっと! そんなことしてる場合?」
古川が戸惑ったようにつぶやく端で、里香が声を上げる。
「大事なことなんだ。ほら、里香もおいで。彼女に近づかないようにね」
そういうと俺は手招きをした。
不安と焦りを気丈さで押し殺して、里香がゆっくりと近づく。
「いったい何を考えているの?」
「キスと里香を抱きしめること」
こんな時なのに、里香は顔を赤らめた。里香は、こうみえて結構大胆な女だ。
……訂正、三人とも大胆だった。
抱き寄せた里香の眼鏡を外し、唇を重ねる。
沙織とはまた違う熱い甘さの舌と唇を味わい、抱き寄せたしなやかな体を服越しに楽しむ。
眼鏡をかけていない、綺麗な里香の閉じた瞳をじっくりと眺める。
里香は、俺を理解してくれる。このキスの意図がわからなくても俺を信頼してくれた。
里香は正邪をわきまえながらも信じたものを追い求め続けることができる熱い心をもった奴だ。
信頼をくれるから、俺はあきらめずにすんでいる。
心がさらに落ち着いて、手足の痺れたような感じが消えていく。
見ると階段の途中から、美優も驚いた顔で俺達を眺めていた。
名残惜しかったが唇を離す。大きなため息を漏らす里香に眼鏡を返した。
「……なんなの、あなた達」
少女が戸惑ったように立ちつくしていた。もちろん俺は最後まで突っ走るつもりだった。
俺と沙織や里香や姉さんとの間に、一人だけとか二人だけとかいう文字はない。
オールオアナッシング、それが掟。
「さてと、じゃあ、姉さん」
「どうして私を最初にしてくれないのかな? まーくんは」
「へへ、ごめん」
動揺の欠片も見せずに、姉さんがゆっくりと大股で歩み寄る。
手を広げると姉さんは、俺を胸の中に抱きしめ、何も言わずに俺の口をむさぼった。
姉さんに抱きしめられる度に温かいものがわき起こる。
求めて得られなくてあきらめたものが思いもかけずに戻ってきたときにうれしさ。
そしてそれを自在に出来る喜び。答えてくれる愛しさ。
「……先生とキスって」
立ちつくした少女が呆然とつぶやく。
姉さんは何もかも甘く優しく俺を包み込んでくれる。
背中を守ってくれる人だから、俺は突き進むことが出来る。
震えが完全に収まり、手足に力が入るようになった。
ゆっくりと唇を離し、俺は姉さんに微笑んだ。
「いったい、なんなの? 三人とキスをして」
「だってここにいるのは俺の恋人だから」
古川は混乱していた。無理もないとは思う。

 振り返った俺は、たぶん最高の笑顔を浮かべられたと思う。
すでに古川の包丁はかなり下がっていた。
はたき落とすのは容易だったが、そんな事をするつもりはなかった。
「だって、三人も……」
「だから? 何か問題でも? 俺達は吾妻を探しているだけさ。
いきなりそんなもの振るわれたからびっくりしたけど」
とまどってつぶやく古川に俺は肩をすくめてみせる。
「あ、吾妻先輩は渡さない!」
古川はあわてて包丁を構え直した。沙織と里香が殺気立つが、俺はそれを手で制した。
もう既に主導権は俺達が握っていた。
後は、ただ言葉を間違えないように、丁寧に詰めていくだけ。
彼女の思考を自分に置き換えて想像し、言うべき言葉を頭で練った。
何度も考え直し、少女の目に流れる感情の背景を理解しようとつとめた。
「……へぇ、吾妻と君は、俺達が引き離さなければいけないほど、愛し合っているのか?
それはよかったな」
その結果、あえて挑発気味な言葉をかけた。なのに、目に見えて古川の顔が暗くなる。
俺は次の手として階段の途中の美優によびかけた。
「美優、吾妻はこの娘と深く愛し合って居るんだそうだ。兄貴と話したら、すぐに帰るぜ」
美優もまた、混乱して返事が出来なかったようだった。
「どうした? 別に吾妻の居場所が判れば、俺達は帰る。
早く吾妻とラブラブ甘々なところをみせてくれないか?
すぐに納得して帰るから」
絶望と憎悪ばかりが彩る古川の目を俺は見返した。
そして俺は、しばらく口を閉じた。
答は彼女の目にあった。彼女は、四日も好きな人といたのに、
なぜこうも悲しくあきらめた目をしているのか?
やがて俺がかけた言葉は、自分でも思ってもみない言葉だった。
「……つらかっただろう?」
まるで能面にひびが入るように、彼女の顔が驚愕にひび割れる。
「四日間、想いを理解してもらおうと色々したのに、まったく受け入れられなかった」
包丁を持つ手の震えがひどくなる。
「それどころか、吾妻はますます君を拒否して、……酷い言葉で罵られたりしたんじゃないかな?」
立ちつくす古川が、ふらふらと体をゆらし始める。目から憎悪の光が消えていた。
「自分でもこうなるのは当然だと思っていた。間違っているのは承知だった。
でも……突っ走って、余計に駄目になった」
金属音と共に、包丁が土間に落ちる。とびついて拾おうとした里香を俺はとどめた。
「俺達がやってきて、なぜかほっとするんだ。だけど、家の中に飛び込んでいく俺達を見て、
また怖くなった」
古川がぺたりと尻をついて座り込み、その瞳から涙がこぼれ落ち始める。
包丁を姉さんが静かに拾った。
「怖くなって、包丁を向けて、もっと怖くなって……もう終わりだと思った」
泣き声を一切たてずに、ただ涙をあふれさせて、彼女は泣いていた。
「……ありがとう。……自暴自棄にならないでくれてありがとう。キスをさせてくれてありがとう」
俺は礼を言い、彼女に頭を下げた。彼女の何にかは、わからない。
ただ、丁寧に礼をいうべきだと思っただけのことだ。
俺は沙織達の方を向いて、また頭を下げる。
「沙織、里香、姉さん。頼む、この子を慰めてやってくれ。……暴走しちゃったけど、
最後に踏みとどまってくれたから」
彼女らはそろってうなずいてくれた。
「ここからは教師の仕事だから。まーくんは吾妻くんのところに行きなさい」
「……この娘、私と似ているような気がします……」
「何かあったら呼ぶから。ほら、吾妻さんが待ってる」
里香の言葉に俺は階段をみる。美優は呆然と立っていた。
「ありがとう。さあ、美優、感動のご対面と行こうか?」
そういうと俺は階段を昇り、美優を促した。

 吾妻が監禁されていた部屋は、あの娘の自室のようだった。
素っ気ないながらも女の子テイストで飾り付けられた部屋の、
やはり薄いピンクと花柄が主体の女の子テイストなベッド。
そこに吾妻が縛り付けられていた。口にはSMプレイで使いそうなボールギャグがはめられている。
裸ではないが、改造して縛っていても脱衣着衣が出来るようになっている
野暮ったいジャージを着せられていた。
「よう、吾妻。白馬の妹姫と、お付きの最低男のご登場だ」
「兄さん!」
ちょっと気取ってみた俺のセリフは、美優の真面目な叫びにかなりかき消された。
ベッドに飛び乗った美優が、口のボールギャグを必死に外している。
格好をつけたのが無駄になったのをちょっと残念に思いながらも、
俺もベッドの足と吾妻の手を結ぶ紐を外した。
手が外れれば、吾妻自身がもう一方も自分で外し、美優と俺とで足を解いた。
そして自由になった吾妻が美優にとびつく。
「美優〜〜」
「に、兄さん……」
俺は抱き合って無事を喜ぶ二人の邪魔をしないように、足音を殺しながら、
縛られてたベッドや部屋の様子を観察していった。
ベッド脇の目立たないところに尿瓶と差し込み便器が綺麗に洗って置いてあった。
さぞ甲斐甲斐しく下の世話までしたのだろうが、それが吾妻には我慢できない恥辱になったのも
間違いないところだろう。
改造ジャージだって、縫い目から見れば彼女の手製のようだ。
頭のところには、吸い飲みがおいてある。中身はお茶のようだった。
シーツには汚れがほとんどなく、綺麗にかえられていたのがわかった。
なんとも報われない、そしてされた方も気の毒なご奉仕だ、俺は古川の目を思い出しながら、
心の中で大きくため息をついた。
「矢代、ほんとうにありがとう」
観察していると後ろから声が掛かった。うるわしい兄妹愛のシーンは終わったみたいだった。
「どういたしまして」
肩を少しすくめながら振り返る。とても珍しい……いや初めて見る吾妻の表情。
なんと吾妻が目を潤ませながら近寄って俺の手を握りしめた。
その横で、美優が深々と俺に頭を下げていた。美しいストレートロングの髪が
さらさらと流れ落ち、俺は美少女が頭を下げてもさまになることを発見していた。
「ほんとうにありがとう! 矢代、やっぱりお前が本当の友人だ!」
もっとも普段ニヒルに笑っているほうが似合うイケメンが、
瞳を潤ませて俺に迫ってきても、あまり感動的ではない。
「あー、はいはい。……本当にそう思うなら、例の取引はこれでチャラにしてもらいたいが?」
「当たり前だ! 親友を脅せるか!」
なにやら、突然親友に格上げされたらしい。まあ、どうでもいいことだ。
「サンキュ。まあ、こんなところでなんだし、下には沙織達が待ってるんだ。降りようぜ?」
柄にもなく照れて、照れ笑いを押さえ込みながら、俺は階下を指さした。

 階段を降りてくると、八つの目が俺達を出迎えた。
姉さんが教師として口火を切って、吾妻に声をかけた。
「体は問題ないようね? でもとりあえず病院にはいきなさい。いいわね、吾妻くん」
「はい、先生」
「妹さんに感謝しなさいよ。妹さんが熱心に吾妻くんを捜したから、うまくいったのよ?」
「ああ、中塚にも迷惑かけたな。ありがとう」
里香がクラス代表として、姉さんの言葉の後を続けた。
沙織は笑みを見せただけだった。何も言わなかったのは、
彼女が吾妻とほとんど口をきいたことがないからだろう。
そしてそれだけだった。吾妻はそれきり、静かに涙を流しながら彼を見上げる真ん中の少女、
古川幸を完全に無視した。
「……先輩」
「黙れ。二度と俺に話しかけるな。いや、二度と俺の前に現れるな!」
か細く上がった声を吾妻は容赦なく断ち切る。
それきり声はとぎれ、しゃくり上げる泣き声に変わる。それでも吾妻は彼女を省みなかった。
「美優、吾妻を病院に」
「はい」
いたたまれないものを感じて俺は、美優を促す。だが、吾妻はそれを許さなかった。
「矢代、警察を呼んでくれ」
「……いいから病院に行けよ」
ため息をつきながら俺は病院を勧めた。吾妻はごまかされなかった。
「俺はこいつに監禁されたんだぞ! 四日間もだ!」
「わざわざ言わなくたってわかってる。大変だったな。病院で診てもらって、ゆっくり休め」
「そうじゃない! 俺を監禁したあの女を警察に逮捕してもらうんだ」
「落ち着けよ。警察に通報するのは考えものだぞ」
吾妻が警察と騒ぎ出した意図はわかっていた。わかっていて、俺は話を逸らしていた。
確かに犯罪が行われ、犯人はここにいる。警察に連絡するのは当たり前だろう。
だが、小説のごとく警察に連絡すれば話が済むと、俺は思っていなかった。
「どういうことだ? こいつは逮捕されて罰を受けるべきだろう?」
「とりあえず聞くが、どうしてこの娘、お前をこれほどに好きになったんだ? 心当たりは?」
くってかかる吾妻に、俺は目に出来るだけ冷たい光を浮かべて、根本原因を指摘した。
美優を含めた女達の目が、吾妻に集中する。
「心当たり? 告白されて一度デートしただけだ。それでつまらなかったからふった。
それ以外に接点は思い当たらん」
「つまらなかった?」
腕を組み、つまらない話題をしていると言わんばかりに鼻を鳴らして、吾妻は応えた。
「デートしたのに、キスも許さないんだぜ。告白を受けてやったのにそれはないな」
「……なるほど。じゃあ、なおさら通報するのはやめとけ」
「どういうことだ?」
「この娘が警察に行って、監禁した動機を警察は聞くよな?
そして吾妻、おまえも事情聴取を受ける」
警察は犯罪被害者に非がある例は、少なくないことを知っている。
だから被害者達も事情聴取を入念にする。
「監禁して、でも体に酷い傷もつけずに大事のお世話をする女と、
キスをさせないからってふるプレイボーイの男。警察の心証はどっちかしら?」
姉さんが続けた。
「新聞や雑誌ネタになって、インターネットで流れたりしてね? 英訳されて世界中に流れるかも?
プレイボーイ、監禁されるって」
里香が茶化した。
「女の子がキスに迷ったらいけませんか? 好きなのに怖いって思ったらいけませんか?」
沙織が目を潤ませながら、必死に訴える。
うちの高校にも、例によって裏掲示板や裏メーリングリストがある。
他人事ながら酷いことが結構書かれている。
それは、当人にとっては非常につらい内容だろうと思う。
そういうものに吾妻のことが載り、それが外部に流出すれば格好の燃料になるのは
容易に想像がついた。
「兄さん、……兄さんは女性の心を粗末に扱いすぎです」
「な、なんだよ。俺は被害者なんだぞ!」
美優の抗議に吾妻がうろたえた。だが吾妻が被害者だということは間違っていない。
だから俺は助け船をだした。
「うん、まーね。ただ通報して大騒ぎになると、吾妻の悪評も流れてしまって
結局誰も幸せにならないと思う。どうする?」

「矢代、ひょっとしておまえはこの女に同情しているのか?」
目に疑いを込めて、吾妻が逆質問をしてきた。俺は心のままありのままを述べた。
「そうだな。なにもかも間違えた努力で、おまけに俺に向かって刃物まで
ふりまわしてくれたんだけどな」
「おまえに向かって刃物をふりまわしたぁ? お前、そこまでされて、どうして?」
「……大好きな人に一度受け入れてもらって、訳もわからないままふられるってのは、
きついことなんだよ」
あの痛々しい目を俺は思い出す。彼女の憎悪は、きっと俺達ではなく、
自分自身に向かっていたのだろう。
だから、監禁とか包丁振り回しとかいう後先考えない自暴自棄な行動をとったのだ。
「そんなのが言い訳になるか!」
「じゃあ、お前が通報しろ。俺は協力しない」
俺は静かに告げた。警察に通報させない権利なんて、俺にはない。
けれども誰も幸せにならない正しさに荷担する気を俺は持っていなかった。
うなだれた古川を俺は眺める。
「私も協力しません」
やがて決意を秘めた顔で、古川の横にいた沙織が立ち上がって俺に寄り添った。
手がそっと握られる。
「私は、まさくんの判断に従います」
「ちょっと、片桐ぃ!」
里香が吼えた。
「なんですか? この子が許せないっていうなら中塚さんは協力してあげれば
いいんじゃないですか?」
里香としては、やっぱり警察に協力しないことは許せないらしい。
「違う! なに、どさくさに紛れて手をつないでるの! 離しなさいよっ!」
そういうと里香は駆け寄って、俺と沙織のつながれた手をもぎはなして、
自分の手を俺につないだ。
「中塚? 協力しないのが許せないんじゃないのか?」
吾妻と俺が不思議そうに里香をみると、里香はつまらなさそうに吾妻を見つめ返した。
「警察に協力を求められたら協力するわよ。でも私はついてきただけでほとんど何もしてないから。
だから美優ちゃんや、まさを差し置いて勝手に出しゃばって協力するっておかしいと思うのよ
それだけよ。必要があれば一関係者として協力はするけどね」
そういうと里香はさりげなく俺に寄りかかって密着した。
さりげなさ過ぎて、気がついたのは沙織だけだが、
その沙織は俺の反対の腕にとりついてくっついている。
「ちっ、どいつもこいつも」
ぶつくさと愚痴る吾妻にとどめを刺したのは、やっぱり姉さんだった。
「そーねぇ、先生も通報しないことをお勧めしておくわね」
「せ、先生?」
教師でありながら露骨にしかもにこやかに反社会的な事を言いだした姉さんに、
吾妻が驚愕の視線を向ける。
「あら、吾妻くんのためよ?」
「どうしてなんですか?」
「この事件、もし広まるようになったら吾妻くんの経歴にプラスになるかしら?
それともマイナスかしら?」
刹那、吾妻が凍り付いた。姉さんの目が獲物を狙う蛇のような輝きを帯びる。、
「大学入学、大学院入学、就職、転職、そうしたときにこの事件があなたの一生に
ついてまわるかもしれないんだけど、それでもいいの?
しかも警察沙汰になれば、刑事事件になるから、学校の記録にも残ることになるの。
個人情報保護法で氏名とかは保護されるけど、人の口には戸が立てられない。
調査をすれば事件の概要はすぐに明らかになるわね」
「だ、だからって……」
体を震わせ、脂汗をにじませながら、吾妻は反駁しようとした。
「そういえば吾妻くんは留学希望だったっけ?
でも一市民としては警察に連絡すべきよねー。仕方がないわねー」
そう言うと姉さんはスーツのポケットから携帯電話を取り出し、ダイアルをしようとした。
「待て! 待って下さい、先生!!」
吾妻の大声が古川の家を揺るがすと、姉さんはにこりと笑って、携帯電話をしまう。
「……なんでこうなるんだ?」
やがて重苦しい沈黙を数分ほど続けた後、頭を押さえた吾妻は俺にたずねた。
「吾妻、落ち着いて解決策を考えようじゃないか。通報ならいつでも出来る。
話が終わってからでもな」
そう言って俺が吾妻の肩を叩くと、吾妻はがっくりと肩を落とした。

 吾妻は廊下にいる古川をあからさまに避けて、廊下の横の階段に腰掛けた。吾妻の横に俺も座る。
女達は聞き耳を立てながら、古川を囲んで廊下に座っていた。
「こんな時の解決策はストーカー防止法とかにのっとって、近づかない、話しかけない、
周りをうろつかない。
そんなところだと思うが、どうだ? あの娘がお前に近づかないと約束できれば、納得する?」
俺の提案に吾妻は目を光らせる。吾妻の中で思考のエンジンがうなりをあげて
回転しているのがわかった。
返答はたっぷり一分ほどたってからだった。
「それだけじゃだめだ」
「じゃあ、どうすればいい」
「警察には強制力があるが、おまえにはそんなものないだろ。そんな取り決め、絵に描いた餅に……」
ふと吾妻が言葉を止めた。やがて、にやりといつものあの笑いが蘇る。
調子を取り戻してきたようだった。
「矢代、優しい綺麗事を通したければ、お前にも苦労してもらうのが筋ってもんだな」
吾妻の言葉にかすかな不安を抱いて、俺は黙る。
「お前が責任持って、その女を見張れ。お前がその女を俺に近づけさせないようにしろ。
周りをうろつかないようにしろ。話しかけないようにしろ」
俺は何も言えなかった。 
「まさか綺麗事だけ言って済ませるつもりだったのか、矢代?
犯罪をなかったことにしようというなら、被害者が安心できる環境ぐらいは整えてみろよ?」
吾妻の言葉が重く響く。
それは当然の要求だが、他人の行動を権力無しで制御するという難しいものであった。
押し黙る俺に吾妻が言葉で追い打ちをかける。
「なんならその娘も入れて三股にしたらどうだ? 簡単だろ、うん?」
「つまらない話はよしてくれ」
それだけを言うと俺はまたもや考え込み、吾妻も鼻白んだように視線をそらした。
だが三股はともかくも、吾妻の要求は正当で、それを怠れば自分の言葉に
正当性が無くなるものだった。
一方で一般人が他人の行動に制約を掛けると言うことも難しい。
考えあぐねた末に、俺は階段を離れ、顔を伏せて座りこむ古川の前に移った。
ためらう気持ちが舌に伝染したのか、俺は何度か口ごもってから、やっと目の前の女に話し始めた。
「その、これから言うことはかなりきついことだけど、君には選択権がない。
何をどうしても、君の吾妻に対する思いは……実らない……からだ」
その言葉で顔を伏せた古川の体が震える。
「君がもし、もう一度吾妻に何かしようとしたら、吾妻はすぐに君を警察に通報する。
そうすれば、俺達も君が吾妻を監禁したことをしゃべらなければならなくなる。
そうなってしまえば君は二度と吾妻に近づけなくなるし、
それどころか君の家族や友人まで巻き込むことになる。
……だけど、俺達の言うことに従って、吾妻に近づかなければ、静かに丸く収めることが出来る」
「……どうして、あなた達が関わって来るんですか?」
顔を伏せたまま、古川が静かにたずねた。声に敵意はなく、淡々とした分絶望が深く感じられた。
「君が吾妻を閉じこめたことを警察沙汰にしないように吾妻に頼んだ。
その見返りとして、俺達が責任を持って君を見張れと言われた」
「お願い、もう一度! もう一度だけ、先輩と話をさせてください!」
突然顔をあげた古川が、目にすがるような光を浮かべて、俺を見る。
「……吾妻、……頼む」
話を振った俺に吾妻が怒りと苦虫をつぶしたような表情の混ぜあわせを顔に浮かべる。
「なんだよ、さっさと言え!」
「……先輩、私は何がいけなかったんですか? つまらない女だって言われて、努力しました!
あのとき以来、二人で会ってもらえなくて、お弁当も食べてもらえなくて。
ちゃんと話を聞いて欲しくて、悪いって言われたら、そこを治そうと思ったのに。
なのに先輩は、当てつけるように、他の女の人と抱き合ってキスをして。
何回聞いても、しつこいとか寄ってくるなって言われて……。私、どうすれば良かったんですか?」
古川の声が悲しみで震えたが、しゃくり上げることなく最後まではっきりと気丈に続いた。

 吾妻の返答は無残だった。
「弁当だのデートだの、ガキくさいつき合いはウザイんだよ。
必死な顔して頼んでくるからつきあってデートしてやったのに、キスもさせないって、
おまえ何考えてるんだ?
この家だって、しつこく来てくれって頼むから、お詫びにヤらせてくれるのかと思って
来てみたら、縛り付けられるし。
おまえ、いつも必死で、しつこいし、重いくせして、ガード固いから、
つきあうメリットないんだよ」
俺は吾妻の言いぐさを聞いて、吾妻に話を振ったことを猛烈に後悔した。
沙織、里香、姉さんも嫌悪で顔を歪めている。
そして古川はただ呆けていた。
「もういいだろ。その辺りにしておけ、吾妻」
「何、俺に命令してるんだ、矢代?」
思わず遮った俺を、吾妻が鋭く睨み、俺もまた言いようのない悲しさと怒りに捉えられて
吾妻をにらみ返した
「黙れ。それ以上くだらないことをしゃべるな!」
殴ってくるなら、心ゆくまで殴り返してやると拳を固めたとき、吾妻が目をそらした。
「このクソ甘いフェミニスト気取りの偽善者どもめ。
この女のやったことがどんなにおぞましいことか、矢代、お前にはわからんだろ?
ええ?……助けられた貸しはこれでチャラだな。
正直、おまえに助けられていなければ、顔の形が変わるほど殴ってやるところだ」
もう一度視線を合わせてにらみ返してくる吾妻から、俺は一切目を外さなかった。
「……俺もおまえが監禁されていなければ、そのスカした顔にパンチをいれてやりたい」
険悪な空気が俺達の間を流れる。だが殴り合うには俺達は消耗しすぎていた。
俺達からすぐに緊張が抜け、不快感と嫌悪感だけが残って漂う。
「……いいだろう。矢代、おまえも今後は俺に近づくな。話しかけるな」
「ああ。俺も当分はおまえと話したくないからちょうどいい」
そう言い切ったとき、吾妻の顔がかすかに歪んだ。それが何を意味するのかはわからなかった。
ただ吾妻は美優を呼ぶと、音高く扉を閉めて、出ていった。
その後を美優が追い、扉を開けて振り返り、一つ流麗なお辞儀を残して、扉は閉まった。

 しばらく、気まずい沈黙が落ちた。
「……ごめんなさい。私、勝手なことばかり言って」
「ごめん。私も調子に乗った」
「こちらを立てればあちらが立たず。まーくんのやったことは決して間違いではないと思うけど、
残念な結果だったわね。
ただ、どんなにベストに近い解決をしても、取り返しのつかないことはあるわ。悲しいことに、ね」
「……俺は三股同時進行の鬼畜だぜ? 男よりも美少女を優先しただけさ」
二人が出ていった扉を見つめながら、俺はつぶやいた。
「馬鹿、まさは素直に落ち込んで私にすがりついてくればいいの。
まさは鬼畜なんて柄じゃなくて、単にお人好しの大馬鹿なの」
「今日はおいしいご飯を食べましょう。……あなたも一緒にね。
おいしいものをお腹いっぱい食べれば、悲しいのは少しマシになりますから」
「そうね、古川さんも一緒にいらっしゃい。どうせこの子が面倒見るってたんかを切ったんだから、
私も連帯責任で面倒見るわ。
馬鹿な弟の後始末は、姉の私の責任だしね」
女達の言葉が心にしみる。優しさに返すべき言葉をなくして、俺はうつむいた。
古川が、その時初めて、嗚咽を放って泣き始めた。
悲痛な泣き声を聞きながら、それが沙織や里香や姉さんものであったら
きっと俺は耐えられないと思った。
彼女たちの優しい笑みが心に刺さり、俺は最低でクズな男であるにも関わらず、
ダサいことに少しだけ涙をこぼす羽目になった。

 俺達に日常が戻ってきた。授業を受け、食事をして、むつみ合う日々だったが、
一つだけ変わったことがある。
学校にいる間とその帰り道、俺達が古川に付き添うことになったのだ。
古川はといえば、俺達にされるがままだった。
その目にもう憎悪が輝くことはなかったものの、絶望と悲しみばかりに覆われていた。
彼女の面倒を見ると言っては見たものの、たいしたことが出来るわけでもない。
それでも里香と姉さんが言うには、ただ側にいればいいということだった。
気を使いすぎず、さりげなく、ただ彼女をできるだけ一人にしないことにした。

 そして学校に吾妻も戻ってきたが、もはや俺達は口をきくことがなかった。
もちろん執行部の件なんかなかったことになった。
俺達は選挙の手伝いを離れ、古川の相手だけをして過ごすようになっていった。
……古川もまた、クラスで孤立していた。吾妻を執拗に追っかけまわしたことで
クラス女子から総スカンを食らっていたのだ。 
そんな古川を連れ出してくるのは、いつも沙織だった。
沙織は、古川を妹のように面倒見ていた。
「自分に似ているって片桐はいうのよ」
中庭の例の場所で、弁当を食べながら、里香がそっと俺にささやく。
その視線の先で、古川に寄り添う沙織の姿があった。
「……そうか、そうかもな」
「そうじゃないわよ」
俺の曖昧な同意を里香は一蹴した。
「あの娘は、私達全員に似ているのよ。……間違っているとわかっていながら
止められないところがね」
「それと、はみ出て孤立していたところもね」
姉さんが里香と反対側に座り、俺の手を握った。
「だからみんなあの娘を見捨てられない」
里香が視線を落とす。姉さんも顔を曇らせた。
空は晴れて青いのに、なにか重く悲しいものが俺達につきまとっていた。
決して古川のせいだけではない。
抜けるような青空を流れていくどこまでも白い雲一つ。
温かいそよ風が木々も草花も揺らして吹き去っていく。
「……暗いな」
心に浮かんだ言葉がぽつりとこぼれ落ちた。
「まーくん?」
「なんか暗くって嫌だな」
あれ以外、みんなから笑顔が消えて、喧嘩すらしなかった。
「まさ?」
「なあ? ただ側にいるってのは確かにそうだと思うけど、それだけじゃらちがあかないな」
最近の俺達の顔は、暗い表情と古川をそっとうかがう表情ばかりだった。
「どうするの?」
里香と姉さん、そして俺の発言に気付いた沙織と古川も俺を向く。
そんな彼女達に俺はいたずらっぽく明るい笑顔を受かべ、人差し指を立てて振った。
「ここで一つブワァーっと騒ぎたい。めちゃくちゃに騒ぎたい。幸い、明日は土曜日!」
「いいですね、それ、私も混ぜてください」
突然後ろから降ってきた言葉に、俺達は驚いて振り返る。沙織と古川も驚いていた。
「美優!」
「もう不機嫌な兄さんを相手にするのは飽きましたし。
矢代先輩の提案に吾妻美優は賛成の一票を投じまーす」
そういうと美優はにこりと微笑んだ。なぜかやけに魅力的な微笑みだった。

 ビール、酎ハイ、カクテル、日本酒、焼酎。それにお菓子と酒の肴。
ビンと缶とグラスと皿がずらっとテーブルに並び、女達もいるので、まさしく酒池肉林だった。
「えー、私達未成年ですよー?」
「ウォッカって、ちょっと、結構度がきついよ、これ?」
「……わ、私、教師なのに……」
「……」
土曜日午後4時。俺の家のリビング。
リビングテーブルから落っこちそうなほど並べられた酒と食べ物に、
俺と美優以外の女達が、目を丸くしていた。
「うちにあったお酒は飲みやすいそうですよ。悪酔いしないんだそうです」
そんな彼女らの様子に頓着せず、美優は酒について解説している。
「異論はあると思うし、法律違反だけど、俺はここで主張します! 大失恋には酒しかない!」
美優のうしろで俺は女達に説いた。未成年の飲酒が悪いことなどは承知している。
それでも酒の力を借りてでも、笑うことが必要な状況だと俺は思った。
……姉さんには悪いことをしたと思っているが。
そんな俺の主張に、美優だけの拍手が空しく響いた。しかし美優はそんな状況も意に介さず、
カクテル缶をグラスに注ぐ。
「さんせー、矢代先輩は正しいでーす。かんぱーい」
それだけを言うと美優は、酒を一気にあおった。
「ちょ、ちょっと吾妻さん?」
心配そうに美優を気遣う姉さんに全く構わず、美優はグラスを下ろすと、叫んだ。
「一番、吾妻美優。兄さんのばかやろーーーー」
思わず俺は歓声をあげて拍手した。負けてはいられない。
そして美優の気持ちを無駄にするつもりもない。
ビールをグラスにあけると、俺はぐっと飲み干した。苦いばかりで味なんかわからなかった。
口に付いた泡をぬぐう。
「二番、矢代雅史。俺も最低だが吾妻も最低だぁ! 古川にもっとやさしくしろーー」
「おおーーー。矢代先輩、素敵ぃぃぃぃ」
ノリもよく、美優ちゃんがやんやの喝采を送ってくれた。
もちろん周囲の目は冷たい。が、気にしない!
もう一度ビールをついで飲もうとしたとき、横から手がのびて、ワイングラスをつかんだ。
「み、美優ちゃんだけに、いい格好はさせないです!」
参戦したのは、沙織だった。グラスのワインを飲み干して、まずそーな顔をする。
「さ、三番、片桐沙織です。吾妻くんを見ていると、まささんがもっと好きになりましたぁぁ!」
「ひゅーひゅー! 片桐先輩らぶらぶー」
「えへへへー」
顔を赤くして沙織が照れ、そんな沙織を美優がはやしたてていた。
「えーい、飲めばいいんでしょ!」
グラスに三分の一ほど焼酎を入れて飲み干したのは、里香だった。
「四番、中塚里香! 片桐と大和田先生には絶対に負けない!
……古川、吾妻みたいな男に未練たらたらしてんじゃないわよ!
飲んで泣いて忘れちゃいなさい!」
「私だってまけないですよーー、えへへへぇ」
既に顔を真っ赤にした沙織が、笑いながら言い返す。
「中塚先輩、かっこいい!」
はやし立てる美優の横で、古川は無表情に空のグラスをもって立っていた。
「あははははっ、も、もう……えーい! どうにでもなれぇ!」
未成年の飲酒は良くないとかぶつぶつ言っていた姉さんの目がすわり、ウォッカを飲み干す。
「五番、大和田……いいえ矢代美春! まーくんと結婚しますっ!」
意味不明な事をわめいて、姉さんがウォッカをあおった。
「ぷはぁ……古川さん。どうして私達が好きな男に、他の女が色目を使うのかなぁ?
おかしいと思わない?」
無言で立っている古川に、姉さんはからむ。
「ほら、あなたもなんかいいなさい!」
そういうと姉さんは、古川にグラスに適当な酒を注いだ。
何を思ったのか、古川がグラスをくいと傾け、飲み干していく。
「おおーー、いい飲みっぷり!」
「六番、古川幸(ふるかわゆき)」
ぽつりと古川がつぶやく。全員が彼女に注目した。
「……重くて堅くてつまらない女の馬鹿な失恋に乾杯」
言い終わり涙を流して嗚咽する彼女に四方からグラスが差し出された。
「飲みましょう!」
「飲むのよ!」
「飲みなさい!」
「飲もうよ!」
泣きながら古川が再び注がれた酒をあおる。女達が古川を囲んで酒を飲んだ。

 俺はほっとして手近な椅子に腰をおろした。
ビールが苦すぎて、ジュースみたいなカクテルに手を出して手酌で飲んだ。
「まさくん、そんなところにいないで」
「なにやってるのよ! 私の酌じゃ飲めないって言うの?」
「おねーちゃんの話をきいてー」
「矢代せんぱーい、こっちこっちぃ」
俺は笑うと、グラスを持って女達の中に加わる。
吾妻の大悪口大会が繰り広げられた。調子に乗った美優が吾妻の秘密をいろいろ暴露した。
姉さんがシスコンとブラコンについて詰問され、ブラコンの方が綺麗だという超理論をうちたてた。
沙織と里香が飲み比べをはじめた。泣いていた古川がやがて泣き笑いになり、
美優と親友の杯を交わした。
古川は涙を流しながら酒をあおり、美優は笑って兄の秘密を暴露しながら酒を飲み干していった。
姉さんが俺の恥ずかしい過去をバラし始め、乱入してとめようとした俺は女達の下敷きになった。
仕返しに俺も姉さんの恥ずかしい過去をばらしてやると、
姉さんは酒を口移しで飲ませるという暴挙に出た。
それで、つぶれかけていた沙織と里香が、口移しぃぃとつぶやきながら、
ふらふらと俺に口づけをした。
しかし二人から酒は流し込まれず、むしろ卑猥に唾液をすすられ、それを美優がはやし立てていた。
その後、真っ赤な顔をした美優が口移しで 俺に酒を流し込んだ。
すでに酔っぱらっていた俺は、その意味をまったく理解せず笑っていた。
古川が、なぜかありがとうございますって礼をいった。
その目は泣きはらして赤かったけど澄んで綺麗だった。
俺は古川の目が綺麗になると、顔の作りがいいからすごい美人になることを発見した。
発見したのでそのまま言うと、古川の顔が真っ赤になった。
面白いのでこんな美人をふる吾妻は大間違いのばかやろーでチャラ夫だというと、美優が同意した。
あれはシスコンだからだめなんだそうで、俺の方がいい男だなんて言った。
姉さんが、私のまーくん、だれにもやんないって言って、俺を抱きしめた。
つぶれる寸前の沙織が、いいえ私のですって言って俺を抱きつき寝息をたてた。
もちろん、里香が俺の腰にしがみついて、変態とブラコン退散!って叫んでまた寝た。
古川がおかしそうにクスクスと笑う顔は、とても綺麗で、爽やかだった。
うん、やっぱり古川は笑うべきだよ。
笑う古川は無敵だな、そんなことを口走って、俺の意識はとぎれた。

 窓に当たる雨音と共に俺の意識が戻った。
しがみついた女達を丁寧に剥がして、体を起こすと、リビングは惨状を呈していた。
テーブルの上には、空き瓶と空き缶、食い残したお菓子とつまみが散乱している。
倒れて転がった缶や瓶からこぼれた酒が、川と水たまりをつくっていた。
机の下では沙織と姉さんが俺の腰にしがみついて寝ていて、
里香が俺の太腿を枕に幸せそうな顔で寝ている。
美優はテーブルにつっぷして軽い寝息を立てていて、古川すらソファにもたれて眠っていた。
記憶はあやふやだった。はっきり覚えているのは古川が泣いたところまで。
酒はまだかなり残っていた。飲みつけていない高校生がほとんどだから、
そんなに飲む前に酔いつぶれたらしい。
渇きを覚えてテーブルの上のミネラルウォーターのペットボトルを引き寄せ、開けて飲む。
「うーん、水ぅ」
「ほら」
沙織が呻いたので、その口元にミネラルウォーターを差し出す。
喉を小さく鳴らしてミネラルウォーターを飲むと、沙織の目が開いた。
「……寝てしまってたんですね」
「なんか無茶苦茶だったな」
「ふふっ、でも楽しかったです。……そしてすごく私、幸せです」
「うん、俺も」
そういって、俺は古川をみた。
「沙織は覚えていないかもしれないけど、俺がかなり酔っぱらってから、
古川がいい顔で笑ったんだ。なんかほっとした」
「……まさくんはすごいです」
「俺じゃないよ。みんなのおかげだ。特に沙織にはいろいろと助けられた」
「私、なんにもできないですから。頭も良くないし、女としての魅力ももう一つだし、
料理も並だし。
だから、何かできることをしたかったんです。……でもあんまり役に立たなかったですけど」
そういう沙織の口を俺はキスで塞ぐ。
「……そう言う事じゃないんだ。沙織に居て欲しいんだ。魅力とか頭とかそういうことじゃない」
沙織の目が潤む。
「沙織が大好きだ。ずっと側にいてくれ」
頷く沙織の唇をまた奪う。沙織の体が欲しくなって、胸に手をやると沙織が顔を赤らめる。
「声を出さないようにしないと、みんな、起きちゃいますね」
「止める気はないんだ?」
「当然です。止めるなんてもったいなさ過ぎます!」
小声で沙織は力説する。そんな彼女の上着をブラジャーごとまくり上げて、弾み出た乳房を吸った。
柔らかく熱い乳房を無心で吸って、乳首を舌で転がし、愛しさを込めてなめ回す。
体を震わせながら、俺の頭を掻き抱く沙織が、とてもかわいく愛しかった。
反対側の乳房をつかみ、感触を楽しみながらこねる。
この柔らかさと愛しさに俺は小さな感動を覚えながら、ひたすら思いを込めて奉仕をする。
震える体をもっと震わえるように、漏れ出る声がとぎれないように、
固く尖った乳首がさらに固くなるように。
俺を包み込むこの柔らかく熱くしなやかな体に愛と充実とこの上ない快感をしみこませたかった。
二つの乳首を甘く咬んで先端を舌でなめ回し、下半身に伸ばした手を下着の中に滑り込ませる。
下着が張り付いて、陰毛まで濡れていることに、俺は安心と満足を感じて、
沙織に対する愛しさが増した。
下着を脱がそうとする俺の手の動きに合わせて、沙織が腰を動かす。
パンツを抜きとったところで、突然右肩を叩かれた。
「まーくんは何をしてるのかな?」
「え、えーと、姉さん……」
振り返ると姉さんが、少し恐い顔で俺をにらんでいた。
さらに左肩を叩かれ、反対側にむくと、里香がジト目で俺をみていたりする。
「愛してるのは片桐だけ?」
「里香も愛してる」
「私は?」
「もちろん姉さんも」

 口に手をあてて驚いていた沙織が、少し悲しそうな顔をする。
「里香、姉さん、ちゃんと愛してあげるからちょっと待って」
そういうと俺は沙織をやさしくカーペットに押し倒すと、たまらず服を脱ぎ捨て、
正常位でのしかかって沙織にたぎっていた肉棒を埋め込んだ。
「あああああ、まさくぅぅぅぅんーーーー」
温かくそして柔らかく絡みつく沙織の中に、快楽だけでなく安堵感すら覚えながら、
里香と姉さんを抱き寄せて唇を奪る。
「もう!」
「悪い弟ね」
二人は少し怒っていた。しかし彼女らの腰にまわした手を滑らせ、下着の中に手を入れる。
女のぬくみと心地よい柔肌が、手を伝って俺にますます喜びと安堵を感じさせた。
「ごめんよ。でもほんとうに沙織も里香も姉さんも大好きだ、俺のものが三本あったら、
みんなの中に一日中入れていたい」
まじめな顔で言ったのに、里香は笑った。
「……馬鹿。三本あったら三本とも私の物にするに決まってるでしょ」
「本気で想像したら、気持ち悪……あん……い……」
姉さんと里香の中に指をゆっくりと入れていく。
そして姉さん達の体をゆっくりと押し倒す。
「キスをしたい。四人で」
ささやくと、沙織も里香も姉さんも一瞬とまどった。
だが体を倒して沙織に唇を重ねると、里香も姉さんも唇を寄せてきた。
三人の舌に舌を絡ませ、涎をすすっては飲み、女達の舌を吸う事を思う存分繰り返した。
そして沙織の中に肉棒を打ち込みつづける。
里香と姉さんのクリトリスを親指でこすりあげながら、二本の指で女達の中をこすりあげた。
女達は体を震わせるだけで何も言わなかった。
沙織の中が俺を断続的に激しく締め付けながら、細かく震え、俺の股間が濡れそぼった。
姉さんはたまらなさそうに腰を激しく振りたくり、自身で俺の指を奥深くまでくわえ込んでは、
尻を振るわせながら激しくなにかをもらした。
里香の股間では水音が重くかき混ぜるような音をさせながら、尻をずっと振るわせ続け、
俺の指をぎちぎちに食い絞った。
指と肉棒にそれぞれ異なるが、少しざらつくところをみつけ、指と肉棒で優しくさする。
姉さんと里香が、体を震わせながら、俺の舌を痛いほど吸った。
沙織の足が俺の足に絡みついて、背中にまわされた手が裸の皮膚をかきむしる。
痛みをこらえながら、さらにつくと、ついに三人の口が離れた。
「沙織、大好き」
「はぁぁぁぁぁぁぁ、いいのぉぉぉぉぉ、いくぅぅぅぅ、いっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「いやぁぁぁぁぁぁ、指じゃやだぁぁぁぁぁぁ、あはぁぁぁぁ、きちゃうよぉぉぉぉっぉ」
「まーくんのぉぉぉ、せいえきぃぃぃぃ、ほしぃぃぃぃぃ、だめぇぇぇぇ、うはぁぁぁぁl」l
三人の女に渾身の力で抱き寄せられ、女達の肉に俺は埋まる。
体中が女達に包まれる快楽に飲み込まれ、我慢もなにもなく、精液がほとばしり出た。
沙織の胸の中に倒れ込むと、頭を姉さんのと里香の柔らかな胸に優しく蓋をされる。
俺は、女達の鼓動と柔らかさにはまりこんで、埋まった。

 里香の切なそうな目に促され、立ち上がるとソファに座った。
飛びついてきた里香とキスをしながら、服を手早く脱がし、降りてくる里香の腰を誘導する。
対面座位の形で、俺の肉棒が里香の中に飲み込まれた。
里香の中がぎちぎちに俺を締め付け、俺にまたがって座った里香の足も
俺の腰をがっちりとからみついた。
さらに両腕で俺の首も掻き抱き、俺を上から下まで完全に抱きすくめた。
姉さんが恨みがましい目で俺の右から里香に劣らない勢いで抱きついた。
姉さんの胸が里香の胸と押し合いながら、俺の胸で押しつぶれて密着する。
左からよたつく足で沙織が抱きつき、ふんわりと俺を抱きしめた。
沙織の目には紗がかかっていて、オルガスムスの影響が残っているようだった。
だが彼女はためらうことなく俺の肩に口づけしながら、俺の手を抱き込んで、
俺の指を沙織の中に埋め込んだ。
柔らかい沙織の中が俺の指を軽く締め付け、沙織ははふと小さな息をもらした。
右の耳が姉さんの唇でしゃぶられ始めると、すぐに耳の穴に舌が入り込んだ。
俺の右手はすでに姉さんの股間に挟み込まれ、指は膣に差し込まれてくわえられていた。
耳の穴をなめ回す姉さんの舌で膝の裏から首の後までぞくぞくしたしびれが走り回る。
我慢できなくなって、目の前にある里香のうなじにかぶりついた。
「ひゃぁぁんん」
里香が体を飛びはねさせる。俺を食い締めている里香の膣もさらに強く俺を締め付けた。
射精しそうになって、我慢しようと腰を動かしながら、うなじに舌を這わし肌をついばんだ。
首への愛撫で涙を流しながら、何度も腰を跳ね上げる里香を、俺は下から優しく深く突き上げる。
肉棒のつけねに貯まってきた精液と、肉棒から腰に走る快感のためもあった。
だが、一番の理由は愛しさだった。
「やだぁぁ、いきたくないぃぃぃぃぃ、あああああああ、いっちゃったらぁぁぁぁ、
私の中にぃぃぃぃ、いてくれなくなるぅぅぅぅぅ」
全身の力で俺を抱きしめながら、里香は俺を放したくないと泣いていた。
快感に抗いながら、彼女は俺にいて欲しいと懇願していた。
「大丈夫だよ。里香が欲しいって言ったら、いつでも中に入ってあげる」
締め付ける里香の中を優しく全て味わうつもりでゆっくりと入る限りまで、
恥骨の肉にクリトリスが食い込むまで突き入れる。
「うわぁぁぁぁぁぁ、だめぇぇぇぇぇ、だめぇぇぇぇぇぇぇ」
激しく首を振る里香をみて、姉さんの膣が俺の指を奥に引き込もうとする。
俺は二本の指で姉さんの中を丁寧にすり上げ、姉さんは白く丸い尻をなんども振るわせる。
沙織の中もやんわりと俺をしめつけており、沙織自身は俺の左肩に体を震わせてしがみついていた。
里香の中が絞るようにさらに俺をしめつけ、我慢できなくなった俺は、
大きなストロークで里香の奥をもう一度押し入る。
「里香、愛してる」
「ああああああ、くるのぉ、きちゃうのぉぉぉ、大きいのがあああああああ……
いくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅx」
里香に息が詰まるほど強く抱かれる。同時に姉さんが震えながら俺の肩に顔をおしつける。
姉さんの中も俺の手に熱い液をほとばしらせていた。
沙織もまた腕にしがみついて体を硬直させている。
我慢できずに俺もまた、里香の奥に、放っていた。
やがて、全身から力が抜けた里香が俺にもたれかかってくる。
ひくひくと不規則に体を震わせながら、里香は荒い息をついていた。
それでも足も腕も俺を離そうとしない。
姉さんや沙織も快感に息をつきながら同様に、俺の腕にすがりついていた。
里香に包まれた肉棒の拍動がやがて途切れ途切れになってゆき、
最後の精液が小さな脈動とともに押し出される。
里香の中に残さず注ぎ、萎えた肉棒が膣から滑り出るのを自覚しながら、
俺は里香の唇をむさぼった。
姉さんと沙織が顔をよせ、里香の舌ごと俺の舌をなめ回し吸いまわしたのは言うまでもない。
軽くなった腰を自覚しながら、もたれかかる里香のしなやかな重さを俺はゆっくりと楽しんだ。

 姉さんは、俺の上にのっかった。
眠り込んだ里香と沙織をそっとソファに寝かせて、姉さんを引き寄せようとしたら、
姉さんが俺を引っ張ったのだ。
力が抜けていた俺は、抵抗する間もなく姉さんに抱きしめられながら、床に崩れ落ちた。
そして姉さんは横たわった俺の口を飢えたようにまさぐりながら、
服を乱暴に脱ぎ捨てると手も足も全てを俺にからみつかせて、カーペットの上を転がった。
気がつくと姉さんが俺の上になって、笑っていた。
「まーくん……若い娘よりもずっと私の方がいいってこと、教えたげる」
「姉さん?」
刹那、俺達は見つめ合った後、姉さんは寝そべった俺の腰まで勢いよくずり下がり、
なんの遠慮もなく俺の萎えた肉棒を手に取った。
そのまま、たとえようもない満足げな顔で、姉さんは頬をよせる。
里香の愛液がついたままの肉棒に姉さんはためらいなくほおずりしたのだ。
「やっと、私のところに戻ってくれたね」
輝くような笑顔を浮かべ姉さんが優しい手つきで萎えた肉棒をさする。
俺が不思議な感慨を覚えた途端、肉棒が姉さんの口に根元まで飲み込まれていた。
優しい雌の肉食獣に俺自身が食べられた、そんな気がした。
竿の根元までくわえられ、先端に舌が巻き付く。
俺の弱点を知り尽くした舌が、肉棒の下部をなめ回す。
姉さんの口が俺の尿道口を嫌らしく吸引した後、舌がねじ込まれた。
その動きは俺の性欲に必ず火をつけようとする姉さんの決意と
俺を犯したい欲望の表れのように思えた。
そんな姉さんの炎のような決意になんの心構えもない俺がかなうわけもなく、
肉棒はあっさりと硬さを取り戻した。
そそり立った肉棒から、ひとときの間、姉さんが口を離し目を満足そうに細めて見つめる。
だがすぐに青筋をたてていきり立つ陰茎を喉の奥にまでくわえ直し、姉さんは愛撫を続けた。
決して射精させないように、だが絶対に萎えさせたりしないように、弄ぶように、楽しむように。
「くぅ、ね、姉さん……」
「いけないおちんちんにしっかり私の良さを教え込んであげる。
まーくんが私に泣きながら舐めて下さいって頼みに来るようにね」
肉棒から再度口を離した姉さんが、下半身から俺を支配している喜びを浮かべた。
「さあ、まーくん。姉さんの口に出したいって言いなさい。……それとも胸がいい?
おまんこは後でたっぷりしぼってあげるからね」
言葉と共に柔らかい肉が俺の肉棒を包んだ、肉棒を溶かしそうなほど
心地よい胸肉にこすりあげられながら、先端の尿道口にまたもや舌が突き入れられる。
女みたいに腰を浮かせてひくつかせ、声をあげながら、俺は姉さんに屈した。
それは例えようもなく甘美だった。
「さあ、どうしたいの? 私にどうして欲しいの? ちゃんと言わないと止めるわよ?」
言葉と共に柔肉も舌も遠ざかる。姉さんに屈してしまった心に、それは拷問だった。
……もっとも我慢する気など欠片もない。所詮は姉さんも俺ももう互いから
離れられなくなっているのだ。
「姉さんのおっぱいにはさまれてぇ、くぅ……、口で、……口でいきたい!」
姉さんの舌が俺の尿道口を激しくほじり、
胸肉が膣のごとく肉棒を包んでからみついてこすりたてる。
それだけですぐに射精しそうだったのに、姉さんはその上に、肉棒を全て犯そうとして吸った。
浮いた腰がどうしようもなく震え、精液が無理矢理引きずり出される。
精液を姉さんの口に噴出させているにも関わらず、
姉さんは喜びを顔に張り付けて肉棒をほおばったままだった。
やがて、姉さんの喉がいやらしく動いて飲み込む音をたて、出したはずの精液は消える。
咳き込みもせず、こぼすこともなかった。
姉さんは俺の出した精液を苦痛の色を全く見せずに一滴残らず飲み干した。
それどころかそのまま萎えかかった肉棒が、またもや淫靡に吸われ、
俺も再び強烈な快楽にもだえた。
それで肉棒は一瞬で堅さを取り戻す。
俺が下半身からの怖いほどの快楽と腰の軽さにおののいていると、
ようやく姉さんは肉棒から口を離した。

「やっとだね……」
あれほど淫らなことをしたのに、そんな事を口走る姉さんの顔には
性欲ではない不思議な優しい色があった。 
その顔を俺が呆然と眺めている間に、肉棒は全部姉さんの中に騎乗位で埋まっていた。
そう全部だった。根元の根元まで姉さんのヒダが巻き付いているのを俺は感じていた。
快感より安堵した顔で姉さんが息をつく。そしてそのまま姉さんの上体が俺の方に倒れてくる。
見事に平らな腹が俺の腹にこすりつけられた。
大きく魅力的に揺れた双乳は、俺の胸でつぶされ、姉さんの心を表したかのように
びったりと張り付いて、硬く小さくそそり立つ乳首で俺の小さな乳首をつきさした。
姉さんの足が蛇のように俺の足にからみつき、足の指と指でさえ絡まった。
腕もまた絡められ、手がつながれて、カーペットに押しつけられた。
そして、改めて姉さんの唇が俺の唇に重ねられる。
舌にも舌が絡まり、唾液が吸われ始めると同時に、姉さんが腰を動かし始めた。
自らの快楽ではなく、それは膣で俺の肉棒をしごきたてようとする動きだった。
あれほど出したのに、またもや肉棒に快いしびれが走り始める。
手が握りしめられ、絡まった太腿がこすりつけられ、俺の胸がオッパイで柔らかく包み犯された。
「……まーくん、今日はね、ピルも飲んでないし、危険日なの」
姉さんが唇を離して、たいしたことでないような顔で、宣言した。
「中に出したら、子供、できちゃうよ? 弟なのに姉さんをはらましちゃうの?」
だが、もう俺はそんなことで驚きはしない。
「姉さんがそれを望むなら。……でもね、子供がいなくても、もう俺は姉さんを離さないよ。
離れられないしね」
その言葉で姉さんの笑みが消えた。肉棒から昇ってくる快感に顔を歪めながら、俺は続けた。
「俺達、家族だよ。姉さんは沙織や里香を邪魔だと思ってるだろうけど、でも俺達家族だよ」
そう言うと俺はソファーに目配せをする。そこには不安そうな顔で上体を起こして
俺達を見ている沙織と里香がいた。
近寄ってきた沙織と里香が無言で寄り添い、俺と姉さんの繋がれた手を解き、俺の両脇に潜り込む。
四つの乳房が俺の脇腹に押しつけられ、四本の足が、俺と姉さんの絡み合った足にさらに絡まる。
沙織と里香を俺は抱き寄せ、尻から手を入れて、指をまた、沙織と里香の中に入れた。
それで沙織と里香の目から悲しげな色が消え、安心の色が浮かぶ。
姉さんが少しだけ寂しそうな目をしたが、やがて両腕を俺の首にからめた。 
「でも姉さんがそれでも不安なら、俺を信じられないなら、……孕ませるよ。
おむつを換えてもらったり、ご飯を食べさせてもらったりした弟だけど、姉さんに子供を産ませるよ」
心を込めてとんでもないセリフをいいながら、俺は下から姉さんを深く突く。
「いいよ、姉さん。俺の子供を産んで。親父やあの人にあきれられて、怒られるだろうけど」
もう姉さんは、何も答えず目を閉じて必死に俺にしがみつくだけだった。
沙織や里香も姉さんと俺の間に体を潜り込ませるような勢いで俺にしがみついた。
俺の肉棒にまきつきしごくヒダをかき分けて突き上げ、三人の唇を奪い、
沙織や里香の中をかきまわす。
「姉さん、……ううん、美春。沙織、里香。俺のかわいい奥さん達、ずっと一緒にいてくれる?
そして俺の子供を産んでくれる?」
その言葉で突然、姉さんが泣き始めた。
快感に声をあげながら、泣きじゃくりしゃくり上げて、腰を振った。

「まーくぅぅぅぅん、ずっといっしょだからぁぁぁぁ、家族なんだからぁぁぁぁぁぁ」
「私もぉぉぉうみますぅぅぅぅ、子供ほしぃぃぃぃぃ」
「私だって、私だってぇぇぇぇぇぇぇ」
泣いたのは、姉さんだけじゃなかった。沙織も里香も、顔を涙でべしゃべしゃにして叫んだ。
俺は三人の涙をキスでなめとりながら、ひたすら腰を突き上げ、指を動かした。
それをさせたのは、もう欲望じゃなかった。
たまらなく愛しかった。
泣きながら腰を振る姉さんが愛しかった。
泣きながらしがみつく沙織が愛しかった。
泣きながら俺の指を締め付ける里香が愛しかった。
「みんなで家族になろうな」
「はぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」
「またぁぁぁ、またいくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「くぅぅぅぅうぅぅぁぁぁああああああああああああ」
女達がかわいい声をあげ始め、俺は心を込めて丁寧に優しくでも力強く、彼女たちを愛した。
姉さんの中が、俺を絞り締め付け、奥の奥へいざなった。
沙織の中が俺の指にからみつき、里香の中は指を食い絞めた。
姉さんのおなかにめがけ、孕ませて本当に俺のものにすべく、
俺は腰を突き上げ、そして思いっきり心の限りに腰を反り返らせて放った。
「いくぅいくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅ」
「いっちゃぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「またいっちゃぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
痛みにも似た頭の奥のしびれと目のかすみ、そして生命力が流れ出るような腰の感覚と共に
俺は放ち続けた。
やがて、肉棒の拍動は止まったが、頭のしびれは暗黒へと変わり、俺は意識を失っていった。
眠りに落ちる前、姉さんも里香も沙織も、その手や足、特にその膣は俺を一切離さなかった。
だから、俺達は絡み合って絡まり合ったまま、眠ることになった。

 

 気がつくと、二つの目がじっと俺をのぞき込んでいた。
しびれた頭は、なかなか動かなかったが、のぞき込んでいる人物が服を着ているのに気付き、
頭が働き始める。
俺に絡まった女達は、涙の跡を残しつつも俺に絡まって幸せそうな顔で眠り込んでいた。
もちろん、俺達は全裸だった。
すぐに強烈な羞恥心がよみがえり、顔がほてった。
見上げている顔が誰のものか認識できた。吾妻美優だった。
そういえば、古川や美優も交えて飲んでいたはずだった。
うかつにも酔っていた上に自宅だったことで、警戒心と注意力が大幅に下がっていたらしい。
他人のいる前で、SEXを、しかも女三人相手にやってしまった訳で、
事態はどうしようもなかった。
「え、えと、……おはよう」
「そんなに寝ていませんよ。十分ほどです」
美優の冷静すぎる返答に、かえって俺の頭は沸騰する。
「あ、あの、これは……」
だが俺の返答を待たず、二つの目はなぜか妙な色を浮かべてあらぬ方に向けられる。
怒りや軽蔑ではない。羞恥でもなく呆れでもない。嘲弄でもなく驚きではもっとない。
「……はぁ。……がんばれ、美優。勇気出せ、美優。ファイトオー」
なにやらぶつぶつと言って、小さく気合いを入れている。
そんな少女の前には、三人の裸の女と絡まり合っている、裸で鬼畜な俺がいるだけだ。
やがて切れ長の美しい美優の目が俺に正対し、決意を秘めて妖しく美しく光った。
「……あの先輩、私も……その中に入れてください」
「はぁ?」
理解できないことを桜色の美しい唇が吐き出した。 
「私、やっぱり先輩が好きです。……あきらめようとも思ったんですけど、あきらめきれなくて。
それで、さっきのを見て、嫉妬しちゃいました。……悔しいです。
私が先輩の側にいられないのが悔しいです」
その言葉で美優の目の光が示したものを俺は少しだけ理解できたように思った。
「美優……」
女三人に抱きつかれて裸で仰向けに転がった俺の頭の側に、美優は正座して、俺を見下ろしていた。
固く握られた二つの拳は、何かを抑えつけるかのように、
スカート越しに太腿の付け根に押し当てられている。
「三人と同時に付き合うなんてって思ってました。でも……先輩達も先生もすごく幸せそうで。
自分でもおかしいと思うんです。だけど私も先輩に愛されたい。
みんなと一緒になって先輩に絡まって溶けたい」
美優が切なげな吐息を漏らし、その美しい目が妖艶に揺れた。
言葉をなくして呆然としている俺を、美優はもう一度背筋を伸ばして見据えた。
「……もう一つ、お願いがあります」
俺は口をぱくぱくとさせただけだった。

美優が立ち上がり、リビングテーブルの向こうで、ソファにもたれて寝ている古川に歩み寄った。
「ゆきちゃん、寝たふりはもういいよ」
美優のセリフで俺はさらに愕然とした。
古川が目を静かにあけて美優を、そして俺達をみたのだ。
「いつからわかってたの?」
「泣きながら、……触っていた時から」
「美優ちゃんもしてたのに、なんでわかったの?」
二人とも少し頬を染めているのに、俺には何を触っていたのか、何をしてたのかはわからなかった。
「気配でわかるよ。そんな事より一緒に来て」
「わたし……」
「駄目。矢代先輩ならきっと大丈夫」
「でも」
「兄さんのことで傷ついたのはわかるつもり。怖いのもわかるつもり。
でも、私が一緒だから。断られて傷つくのも一緒だから。一人じゃないから」
そういうと美優が手を伸ばして古川の手を握り、引っ張って俺の前に連れてくる。
「美優?」
俺の頭の横に二人並んで正座すると、美優は頭をふかぶかと下げた。
「ゆきちゃんもこの中に入れてください。私と一緒に愛してあげて下さい」
「え?」
「私と、ゆきちゃんを、二人とも先輩の恋人にしてください」
「「「ええーーー!」」」
寝ていたはずの三人の女が、一斉に驚きの声をあげる。
即座に俺の頭が六つのおっぱいに埋められる。
「これ以上は駄目です!」
「今でも我慢してるのに!」
「駄目、絶対駄目っ!」
「もう我慢できません! 私もゆきちゃんも矢代先輩と一緒になって幸せになりたいんです!」
「あ、あの、美優ちゃん?」
勝手に話をすすめる美優に古川がおずおずと問いかける。だが美優は
「だって、ゆきちゃんも矢代先輩好きだよね? 好きになっちゃったよね」
「……、わ、私は……」
「好きじゃないなら、先輩がSEXしているときに、泣きながらオナらないでしょ?」
美優の指摘に古川の顔が紅潮する。
「美優ちゃんだって、……自分で、……触ってた」
「だって、先輩に愛されたかったんだもん。なのにのけ者だし。
……ってゆきちゃん、好きなこと、否定しないね」
その言葉で古川の顔は、ますます赤くなった。
俺を埋めるおっぱいの肉圧がさらに高くなる。  
「あ、あきらめてください。まさくんは三人が限界です」
「私一人で充分なの!」
「この子はおねーちゃんだけで手一杯なの、ね? ね?」
けれども、美優と古川の決意を秘めた顔はいささかも揺るがなかった。
「矢代先輩! 答えてくださいっ!」
呆然とする俺は、女五人の目を結ぶ不可視の線の上で火花がスペークしたのを確かに見た


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