とりあえず気勢を上げたはいいものの。
「ほ。まずはディエル……の本体とやらを掘り出さねばならんな」
 いきなり難題だ。
 まず、この聖獣の白い肉の塊、超デカい。
 部屋といっても迷宮で言う部屋というのはすごいデカい。普通のでも一軒家くらいはすっぽり入る。
 最深部の大部屋ともなると1辺150mはあろうかという巨大さなのだ。その七割くらいの広さ、高さ3〜5mを肉だけで覆い尽くしているという、この壮絶な気持ち悪い状態のどこかにディエルが紛れているという。
 そのディエルがいるうちは、いきなりライラのブレスで焼き尽くすというわけにはいかない。
「埒があかない。とりあえず切り裂いてみるか」
 ディアーネさんが剣を片手に近づいていき、一太刀振り下ろすと、肉の中からグチョリと突然馬の脚が生成され、後ろ蹴りのような要領で突然飛び出してくる。
「なっ!?」
 かろうじてディアーネさんはバック転で避けて距離を取る。
 その脚はそのまま肉から突き出して、ぶんぶん振られている。
「まるでタチの悪い活性スライムだな」
「あの辺に突き出している一角馬の頭のうちのひとつ……どれかに敵と認識されたのでしょう。厄介極まりますわね」
 ディアーネさんのぼやきにオーロラが苦々しい顔で相槌を打つ。
「ならば突き出している頭を一つずつ切り落とすか……?」
「手間だがやってみる価値はあるな」
 ディアーネさんの横にボナパルトのおっさんが並ぶ。その横にアンゼロスとオーロラも進み出た。
 頷きあい、無言で駆け出す。
「たああっ!!」
「えええいっ!!」
 ザクッ、ザクッと切り落とされていく一角馬の首。
 一本一本全力で叩き切っていくアンゼロスたちとは対照的に、ディアーネさんやボナパルトのおっさんはほとんど草刈りのように撫で斬りだ。
「全部やろうとするとキリがないな」
「ある程度まででよかろう。……うおおっ」
 攻撃開始から数秒置いて、肉からの脚蹴りの乱打が始まる。
 それを鮮やかに避けるディアーネさんとボナパルト卿。アンゼロスたちはそこまでの芸当をする余力はないらしく、急いで距離を取る。
「このへん、頭がもう突き出してないのに」
「肉の中に埋まってている頭があるのかもしれませんわね……」
「それじゃあお手上げだ!」
 アンゼロスが歯噛みする。
 くそ、何か手はないか。
「急所か何かないんですか? ヒルダ先生ならもしかして……」
「無理よアップルちゃん。あんな頭がいくつもあって、切り落としても平気な生き物なんて……医学知識の及ぶ範囲じゃないわ」
 全くだ。
「アンゼロス、それより衝撃波とかで遠くから攻撃できないのか!?」
「馬鹿言うな! 食らったことあるからわかるだろ、あれは殺傷力はほとんどないんだ、牽制にしか使えない! こんな肉塊に意味あるかそんなん!」
 そういえばそうか。
 吹き飛びはするが怪我自体はあまりしなかったな、アレ。
「いや、そうでもないぞ」
 ボナパルトのおっさんが次々に打ち込まれる蹴りをぐりぐりかわしつつ言う。
「打ち込み方にもよるがな……こういう芸当も、可能だ!」
 大きく剣を打ち振るって伸びてくる脚をまとめて叩き折り、その奥の肉にバックスイングを取った一撃を叩き込むボナパルト卿。
 そして、肉塊が……激しく炸裂する。
「うわ!?」
「ボナパルト卿!?」
 白い肉がごっそりえぐれ、10mほどの大きな穴と血だまりができる。
「生き物の肉体というのも突き詰めれば水袋。流動体ならブラストアタックを発生させられぬことはない……まあ不要な残虐さは剣聖にあるまじきもの、人に使うのは厳禁だがな」
「……剣聖マジ怖ぇ」
 俺の感想に引きつった顔で頷くセレンたち。
「しかしそれを打ちまくっては、中にいるはずのディエルにも通ってしまわないか」
「言われてみればそうだ」
 ディアーネさんに指摘されて渋々と首落としに戻るボナパルト卿。
「そうだ、医学的常識はともかく……ディエルの場所を特定できるタネはないですか、ヒルダさん」
「どういうこと?」
「俺の足を治療した時、魔力の流れか何かで状態を計っていたじゃないですか」
「それこそ医学的常識の範疇よ、人の体の治癒への流れにはパターンが……あ」
 ポン、とヒルダさんが手を打った。
「そうよ、これだけデタラメな生き物なら微視的なものじゃなくて巨視的な生命エネルギーの流れに規則性があるはず……それなら傷を受けた時の生命力の偏りから異物を割り出せるはず!」
「へ?」
 何をいきなり異次元語っぽいこと言ってるんだこの人。
「全員戻って! 一旦回復待ち!!」
「回復待ち!?」
 いきなりヒルダさんが仕切り始めた。


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