翌日。
 今度こそ本当の使者が来て、俺たちはエルフ族の最高権力者会議に引き出されることになった。
「空色の姫よ。覚悟は出来ているか」
「何を? 寝言は聞こえないところでどうぞ」
「……どこまでも小生意気な」
 正使はあの、行き道にもオーロラに突っかかった剣士エルフだった。
「人間族やダークエルフなどに毒され、光の精霊への尊崇を失った幼く愚かな貴様が空色の名代を名乗るのだ。その不遜と傲慢、それを許した空色の氏族長の躾にも責は及ぶ。ただで今日が終わると思わぬほうがいい」
「いい加減になさいね」
 オーロラは剣士エルフににっこり笑って、腹パンチ。
 細っこいとはいえエースナイト、威力は充分。剣士エルフは芋虫のように悶絶した。
「げふっ……!?」
「我欲と大義を取り違える貴様の如き下賎、わたくしの前で口を開くだけでもおぞましい。愚にもつかぬ遠吠えを止めぬなら次は舌を千切りますわよ?」
「お、おい、オーロラ」
 口元だけ笑いながら氷点下の視線で剣士エルフを見下すオーロラを、慌てて制止しようとする。
「よいのですわ、アンディさん」
「無駄に相手刺激すんなよ、宣戦布告しに来たわけじゃないだろ」
「……ふぅ」
 オーロラは溜め息。渋々といった風情で剣士エルフの髪を引っ張り掴みあげる。
「案内なさい。わたくしが名代であることに不服があろうと、あなたは銀のたかが伝令であり、わたくしは空色の名代です。今ので非礼は許しましょう。しかし忘れるな、わたくしがどうだとしても、あなたは北の森の正義を語る立場でもなければ、光の精霊の意志を代弁できる者でもない」
 手を離す。青年エルフは呼吸を乱しながらも尻餅をつく。
「わきまえなさい、あなたは他人に名代を任せた枝葉。この身に一言も垂れ流せる身分ではない。勝手に一族の威を借り、醜い私情と願望を義の如く語るな。その程度の規律も守れずに誰の何を傲慢、何を不遜と語るか。意見したくば一族を背負って出直しなさい」
「……く、くぅっ」
「返事もできませんか。銀は犬畜生に伝令を頼むほどに堕ちたとでも」
 見下す。
 ……オーロラ怖ぇ。超怖ぇ。なんか背中にライオンか何かが威嚇してるような幻が見えるくらいだ。
「……は、ぶ、無礼をお詫び申し上げる。……会議は、こちらで」
 剣士エルフは結局屈した。
 逆上したとしても多分オーロラの方が強い。何より、人としての格が違う。
 上に立つ者の威厳が、立てやしない者の卑しさを、音を立てて踏み壊している。
 きっとオーロラはエルフの内輪ばかりでなく、国だって背負える精神力と高貴さを持っている。
 そんな鋭く壮大な精神が、なんだかんだと俺を好きでいてくれる事実が、頼もしくもちょっと怖くなった。


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