「おい、起きろ人間」
「……んぅ……?」
「朝だぞ」
「……夜ねえじゃんここ……」
 んぐぐぐ、と伸びをして起き上がる。
 いまや腹時計以外では時間の経過がわからない小結界内。
 東屋的な家屋の一つで今日もマイアに起こされる。
 ちなみに家の数は全員にひとつずつあてがう程度にはあるのだが、今さらプライバシーなんて気にするのは……まあアンゼロスやアップル、オーロラなんかは多少気にする素振りを見せることもあるけど、まあほとんど誰も気にしていないので、男爵以外は2〜3個の家に固まって過ごしている。
 別に集落の近くでエロい真似してるわけではないので、男爵も一緒の家にいたって構わないのだが、男爵は遠慮してか自分で決めた家からあまり出なかった。
 んで、俺たちは朝起きて顔を洗い、朝食を取ってアンゼロスとオーロラの剣の稽古を眺め、温泉に入ったり手作りの巨大チェス(マスは地面に手書き、コマは石とか木の端切れ)で遊んだり、たまにエッチしに森の中にしけ込んだりしながら夕食を待ち、食ったら寝る、という生活をしていた。
 とっ捕まっているとはいえ穏やかな日々だ。気候も良く、魔物の心配も食事の心配もないので、ポルカにいるよりも安穏としているかもしれない。

「これで何日目だっけ……そろそろ会議とやらの準備、できないの?」
「ええ、まあ……一週間というのは早く見積もっての日数ですから。氏族の名代の中には気難しい方や、忙しい方もおられましょう。人間はどうか存じませんが、我々は一週間や二週間の遅刻、誤差の範囲と心得ていますので」
「ルーズだなぁ……」
 ちょっとお世話エルフがムッとしていたが、俺たちはいきなり狼藉に巻き込まれたんだ。多少毒づくぐらい権利のうちだろう。

 そんな日。
 今日も沈まない太陽の下、マイアやアンゼロスと一緒に露天風呂に入る。
 湧き出す温泉はエルフたちと共用なのでいつまでも入っているわけにはいかないし、はっきり言ってポルカの温泉に比べると小さいのだが、娯楽の少ないここでは貴重な楽しみであることには変わりない。
「むう。……人間。ちんぽ気合入ってない」
「い、いや、風呂ではあんまり頑張らないことにしてるからさ」
 正確には、誰も来ないならお風呂で犯りたい放題というのも大いにアリなんだけど、ここは男爵の館から徒歩30秒なので声は丸聞こえなのだ。
 ここでいちいち発情していては体裁が保てない。いや、男爵も薄々ならず気づいてるだろうけどさ。でもさでもさ。
「女の体見てちんぽしんなりのままっていうのは侮辱じゃない?」
「無茶言うな。……というかあんまりくっつくな」
「小さいおっぱいもいいって言ったー」
「マイア、アンディにあまり無理ばかり言うな。どっちにしろエッチは今はお預け」
「アンゼロスはそれでいいかも知れないけど、私は人間にまだ一回しか抱かれてない。しかも痛かった」
「……ご、ごめん」
「悪かったと思うなら今日は私にサービスしろ。今日は私と練習する日にしろ」
「それはズルだぞマイア」
 俺を挟んでマイアとアンゼロスが睨み合う。
「楽しいバスタイムなのでそれに関しては後にしてもらえないでしょうか……」
「だめ。約束しろ」
「か、回数限定ならいいけど一日ってのは暴利だ!」
「ああもう」
 マイアが俺を睨みながら擦り寄ってくるのは可愛いんだけど、さすがにちょっとべったりしすぎの気もする。でも言うほど甘やかしてやってるかというとそうでもないし。
 というか、まだマイアに関しては首輪もあげてないし。
 首輪は「力の契約」の証にもなるとライラは言っていた。マイアにも作ってあげないといけないけど……でもここじゃ最低限の素材も道具もない。
「早く出ないとなあ」
「うん、早く出ろ。そして早く私と交尾しろ」
「アンディ、ぼ、僕もっ!」
「いやちょっと待て、そうじゃなくてもっと長期的にな?」
 ギャーギャーやっていると、温泉の直上に、光の高まり。
「!」
 マイアが来た時と同じものだ。

 タイミング的には、もう俺たちが会議とやらのために解き放たれてもいい頃合い。
 ということはエルフたちの正使が来たのかも知れない。
 いや、でもこのタイミングはマズくないか。俺がアンゼロスやマイアとイチャイチャしつつバスタイムなんて心象めっちゃ悪くないか。
 に、逃げた方が……いや。
 例えばの話、この光の向こうから来る正使がフェイザーだとしよう。
 あの気難しくて分からず屋のあのエルフ男。
 まあマイアはいい。全裸でも気にしないというか、多分フェイザーの前では頻繁に裸でいたのだろうと思う。
 でもアンゼロスは?
 アンゼロスの全裸を他の男にタダで晒していいものだろうか。
 否。断じて否。アンゼロスのおっぱいとお尻は俺のだ。
 つまり逃げてはいけない。出てきたのがそういう男だったとしたらその視線を遮る義務がある。
 とはいえ……いい絵面じゃないよなあ。
 コストとはいえ、どう言われるものやら。
 だが仕方ない。男としての義務だ。

 ここまで1.5秒。

 パシュッ、と光が弾ける。
「わっ」
「ん?」
 その光にびっくりしたアンゼロスが俺にぴったりしがみつき、マイアは無造作に見上げる。
 その光の中から出てきたのは……。

「ふぅむ。これは異な」
 若草色のローブ。
 純白の毛織物の、ケープのようなマント。
 ハッとするような、真昼の太陽のように輝くプラチナブロンド。
 ……そんな風貌の、えーと。
「……誰?」
「ふむ? 名は自分から名乗るのが人間の習いと思っていたが?」
 ……マイアと同じくらいに見える、エルフの……少女?
「お、俺はアンディ・スマイソン。ポルカの鍛冶屋の息子で、セレスタ軍北方軍団……ええと最後まで聞く?」
 なんとなく遮りそうな尊大な雰囲気を纏っていたので、そろそろ遮ってくるかなーと思って表情を窺うと。
「ふむ。別にわらわはそれほど気短でもないが?」
 尊大ではあるが普通に話ができるくらいには寛大らしい。
「セレスタ軍北方軍団クロスボウ隊所属の十人長。で、えーと……マイアの、飼い主予定?」
「わらわに疑問形で言われても困るというもの」
 腕組みをした少女は、水面をちょぷん、ちょぷん、と爪先立ちで歩き、浴槽の外に歩み出た。
 ……さっきから水面の上に立っていたのだ。
 それだけでただ者ではないということがわかる。ディアーネさんも魔法は得意とはいえ、水の上を歩くなんていう芸当は見せたことはないのだ。
 まあ普通必要ないけどさそんなん。
「しかし、そうか、そなた、噂の調教師」
 洗い場で振り向いた少女は、そのままステーンと尻餅をついた。
 ……うん。掛け流しの風呂だから洗い場にも常に水が流れてるし、コケや水垢もあるから転びやすくはあるんだよね。
「……調教師違うけど大丈夫?」
「い、いい、寄るなちんこしまえ!」
「あ、ああ」
 一度上がりかけてから、怒られて沈み直す。
「で、あんたは?」
「う、うぅ……」
 びっしょりと濡れてしまったお尻や袖を気にしつつ立つ、銀髪のエルフ少女。
「わらわは……白の氏族の長、アイリーナ」
「……氏族長!?」
「うむ。……なんだその目は」
「……いえなんでもないです」
 アンゼロスよりも若く見える少女が、氏族長か。
 白の氏族なんてどういう立場なのかは知らないけど。
「ず、随分と……その、マイアもたやすく調教したようではないか」
「調教……」
 マイアが難しい顔をする。どれが調教行為だったのかと悩んでいるのかもしれない。
「だから俺調教師じゃないんだってば。エッチは確かに好きだけど」
「違うのか。見境なく女という女を犯して手駒にしているという話を、銀の小僧から聞いたが」
 フェイザーめ。
「手駒じゃないよ。恋人とか雌奴隷」
「……め、雌……? どう違うのかさっぱりわからん」
 ポッと赤くなるアイリーナ女史。
 意外とウブかもしれない。
「……あと俺は見境なしじゃなくて、美人でエロい子しか抱かない」
 俺がさらに宣言すると、傍で聞いていたアンゼロスが慌てた。
「なっ……ぼ、僕がエロい!?」
「エロい」
「…………うぅ」
 言い張ったら黙った。
 うん。実際お前エロ娘だと思うんだ。かなり。
「ま、まあ、ここではアレだし、上がってゆっくりと話をしようよ」
「ふむ……そ、そうよな」
 最初こそ威厳たっぷりだったが転倒のおかげですっかり恰好がつかなくなってしまった彼女と別れ、急いで風呂から上がって服を着る。


次へ
目次へ