ポルカは、突然の男爵&アップル誘拐事件に激しく揺れていた。
「エルフたちがこんなに深入りしてきたことなんて初めてだよな」
「男爵、大丈夫かなあ」
「まあ男爵は大丈夫だろう、あれで剣聖号取ったぐらいだ」
「え、マジ?」
「問題はアップルちゃんだよ。……なんか政治的に厄介な立場らしいから、下手すると処刑されちゃうんじゃないかって、男爵夫人が」
「ちくしょうエルフどもめ! アップルちゃんがようやく俺たちのアイドルに納まってくれ……いや、心安らかに暮らし始めたばかりだっていうのに!」
「全くだぜ……というか男爵に手を出した時点で外交問題だよな。いざとなったら王都の軍団本部にかけあって本隊呼んででも……」
「……来るかなあ、軍……だってここポルカだぜ」
「……それ言うなよ」
「呼んでも来るまでに多分冬が終わってるぜ」
「く、くそう。なんで歩いて1時間のところにないんだよ王都!」
 ポルカは王都からの道中、小蛇山脈という難所を通らねばならず、そもそも連絡がつきにくい。伝令は出来る限りの手段を用いても一週間を切る速さでは届かず、もし本格的にやってくるにしても過疎地のポルカ周辺を進軍するには相当な規模の兵站計画を立てなくてはいけないだろう。
 第一、どうせ北方エルフと事を構えるなら小蛇山脈の西を北上し、聖地ライカ経由で進軍する方が周辺都市も多く、何かと便利で早い。大事になればなるほど、急を要する辺境の一領主とその客人の人命問題は捨て置かれてしまう可能性が高い。
「今から俺たちで何とかできないかなあ」
「無理だよ……男爵いないんじゃ。俺たち、軍隊にいたって言ってもちょっとじゃん」
「というか街の男衆みんな駆り出したって百人ちょっとぐらいか……」
「ジジイやガキンチョ引くとその半分くらいじゃねえ?」
「……エルフが本気になったら三秒でみんな死ぬな」
「男爵さえいればなあ……」
 番兵コンビ、キールとジョニーは街の南の正門でがっくりと肩を落とした。
 本当はこんなところで自国からの侵入者なんか見張っている場合ではない。敵は北なのだ。
 しかし実際攻められたら逃げ惑うしかない。二人は実戦経験はたった一度、陽動的な城塞戦を経験しただけでセレスタ戦争の終戦を迎えており、まともに敵と戦ったことなどないのだった。
 二人の持つハルバートは、普段は不必要なぐらい威圧的で、持ってる本人でさえちょっと怯えるほどなのに、今はあまりにも頼りなかった。


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