「というわけで本日より獄中仲間のマイアさんだ」
「…………」
 小結界中央の集落、男爵の館(仮称)。
 いや、何軒か家がある中で男爵が使ってるのがそこってだけなんだけどね。
 ちなみにこの集落、謀議対策なのかどの家にも塀もなければドアもなく、どちらかというと東屋のような雰囲気の家ばかりだ。いつも昼間だからそれで寒いということはないんだけど。
 おかげでちょいと隠れてエッチしようなんて真似が出来なくて森の中での青姦に行き着いたりしている。
 で。
「この子もドラゴンだったのか」
 今さらそこに気づいたらしい男爵はまあおいといて。
 ジャンヌとアップルはまたなんともいえない顔をした。
「またややこしくなるんでなければええだが」
「……なるでしょうねぇ」
 二人のコメントが大体俺たちの感想を総括していた。
 マイアはどうも、エルフたちにすごく大事にされてるドラゴンらしい。特にあのフェイザーにとっては相当大切な相手だというのが見て取れる。
 が、マイアはフェイザーに対してあまり執着していないようだ。……今まで半分騙していたようなものだからちょっとしょうがないところもあるが。
「というか大丈夫なのか、氷漬けにしたとか言ってたけど」
「……若干ギリギリのところをさまようと思うけど、まあ“癒しの泉”があるし」
「ああ、そういうことね……」
 ポルカの霊泉と源を同じくする泉は、その癒しの霊験のあるうちはどんな低温になっても凍りつかない。
 その珍しい性質もあいまって、各種の疾患の中でも特に凍傷や低体温症に対して効果が目覚ましい。
 ……だからといって氷漬けにしていいってことでもないと思うけど。
「だってあいつ、いくら違うって言っても聞いてくれなかったんだもん」
「何が」
「『あの人間は世に言う調教師という奴で、女を犯して狂わせては操る最低最悪の人種、低級な魔物にも劣る下衆です。奴の手管に騙されては』とかメチャクチャ言うから、カッとなって」
「…………」
 フェイザーの せいしんてきに つうこんの いちげき!
 アンディは せいしんてきに ひんしに なった!
 ……床の上でのたうつ俺。
 何その客観的に的確っぽい表現。
「あ、アンディ、お前は別に調教とかそんなこと……その……ええと……」
「そ、そんなにはしていませんわ! ええ!」
「むしろライラ姉様とか先生とかの方が主犯だよ! 十人長は……ええと、実行犯ていうかその」
「……わ、私はあまり、その、よくわかりませんけど……首輪とか、エッチの時の他の人の反応とか見てると、仕込みが普通じゃないのは否定できないところはありますけど……」
 お前らなんでそんなに視線泳がせるんだよ。フォローするなら嘘でも力強くして下さいお願いします。
「……あ、あれ? 人間、お前もしかして調教師?」
「違う……けど……」
 ヒルダさんとかライラの所業と複合すると、それっぽい仕込みを受けた人が何人かいるのは否定できない。
「?」
「……まあ、アンディを信じるなら『違う』が、客観的に状態だけを見ると『それに準ずる』といったところのようだ。……というか貴様あの美女集団になんという羨ま、いや不埒な!!」
「わあ、ごめんなさいごめんなさい!」
 何故か男爵にも怒られる俺。別に俺そんなよこしまな意図で犯ったんじゃないんだよう。
「……むぅ。人間、犯して狂わせて操るの?」
「大丈夫だよ。安心するだよ」
 マイアの肩をジャンヌがぽんぽんと叩いて首を振る。
「むしろしつこいくらい犯していじめてって頼まないとしてくれないだよ」
「あ、僕もそうだった。好きだってわかってたくせに三週間ぐらい放置」
「わたくしも自分から通うまでは……というか、アンディさんはずいぶん長いこと足を壊しておいででしたし」
「……私の時はそうでも」
『アップルは恵まれすぎ』
 アンゼロスとジャンヌとオーロラに総ツッコミを受けるアップル。
「まあ、言えることは……アンディは……その、守備範囲すごく広い。異種族とかプロポーションとか気にするのが馬鹿らしくなる」
「そのくせそれぞれ個人的にピンポイントのときめく台詞を言う方ですね」
「あ、アタシもだ。あの時の十人長かっこよかっただー」
「……ただの女ったらしじゃないですか……」
「違うぞアップル。これで結構やる時はやるからタチが悪いんだ」
「どの女性が困っていても一生懸命、打算なしで救いに走りますし」
 お前らの中の俺評価がわからないよ。高いのか低いのか。
「……えーと?」
 マイアも何をどう判断していいのかわからず変な顔をしている。
 アンゼロスは咳払いをした。
「まあ、その。……頼りないけど。はっきりいってすごく頼りないから目が離せないけど。……でも、頼ったら絶対に応えてくれる、何がどうあっても手を伸ばしてくれる男だから……うん。僕は、大好き」
「あ、アンゼロスさん、さりげなくポイント稼ぎをっ!」
「オーロラも言えばいいだろ」
「……う、うぅ。改めると何か恥ずかしいですが……そうですわね。彼は、わたくしの心を捧げるに相応しい度量があることは確かですわ。いついかなる時も、諦めることなく大切なものを守り抜こうとする意志。幸せにしてやろうという気概。種族という利己的な括りに囚われないその熱意……大器といえましょう」
 いや俺、アップルとディアーネさんのせいで人間族の半端な美女じゃ満足行かなかっただけなんだけどさ。
「何まどろっこしいこと言ってるだ。……アタシは十人長大好きだ。思いっきり大好きだ。そう言えばええでないだか」
「うっ……」
「わ、私は……その……今はまだ、アンディさんとセレンの他に、受け入れてくれる人、いないから……でも昔はすごく大好きだったみたいだし……最近ちょっと昔のことも思い出したりしてるし……でも、うぅ。勘違いかもしれないし」
 アップルはアップルで、熱愛宣言をする三人を横目に、枝分かれした心をもてあましている。無理もないけど。
 それらを見て溜め息をつくマイア。
「……つまり、ライラ様の見立ては正しいってことでいいんだよね?」
「うん」
「そうですわね」
「んだんだ」
「……まあ、心情的には」
「じゃあ、いい。私は間違ってない」
 ……フェイザーも間違ってるとは誰も言い切れなかったけどな。


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