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 宿屋に歩いて帰ると、昼食をとっていたセレンやアップル、アンゼロスたちがその姿に目を丸くした。
「アンディさん!?」
「足、もういいのか」
「ああ。もう歩くのに支障はない」
 休暇終了まであと三週間強を残し、俺の目的はほぼ達成されたことになる。
「アンディさん、おめでとうございますっ!」
「ぱ、パーティしなきゃ……あ、で、でも、私まだお料理……」
「一緒にやろう、アップル!」
「う、うんっ」
 セレンとアップルが浮き足立ちつつ手を取り合って喜ぶ。本当に姉妹のようだ。
 アンゼロスとオーロラはそれを手伝うと言い出し、ライラとジャンヌは酒だ酒だーと大喜び。
 そして、ディアーネさんとヒルダさんはそんな仲間たちを嬉しそうに見渡している。
 ……そして、そんな中で一人ぽつんと、どうしたものかと困った顔でブルードラゴンのマイアが佇んでいる。
「どうした、マイア」
「……人間」
 マイアは俺を見上げて、やはり困った顔をする。
「私は、祝いの間どうしていよう」
「……お前も飲み食いすればいいんじゃないか?」
 何を困っているのかわからない。
 と、ライラが呆れ顔をした。
「ほ。その娘が無邪気にそなたの祝いができると思うのかえ? そなたはドラゴンライダーじゃぞ。その娘のドラゴンナイトを退けた」
「……それだとどうして居たたまれなくなるんだ」
 未だにドラゴンの価値観はよくわからない。
「……そなたは竜最大の権威をもって、その娘のコンビを屈服させたのじゃ。いわば敵じゃろ。祝いの席にそんなのがいたら迷惑なのではないかと言っておるのじゃ」
「て、敵だったのか?」
「……殺されかけて何故そんなに暢気にしていられるんじゃ」
 ライラが本気で呆れている。
 ……いや、でも俺としてはその……なあ?
「でも俺を攻撃する気はもうないんだろ?」
「……それは、お前がドラゴンライダーだから」
「じゃあ飲んで食え。俺はもっとお前に親ポルカ派になって欲しい。そんであのフェイザーとか他のエルフに、この町で気軽に買い物するような関係になるように橋渡しして欲しい」
「……にんげん」
「人間じゃない。アンディ・スマイソンだ」
「…………」
「……いや、まあ坊やとか十人長とか好きに呼んでもいいけど」
 ライラは最近「坊や」とは言わないけど、ジャンヌは相変わらず十人長って言うし。……オーロラもアンゼロスも十人長なんだけどな。
「じゃあ、アンディ。……お前が見ててくれるなら、食べる」
「?」
「やれって言ったのにどうでもいいような顔をするなら、やらない。ドラゴンライダーならドラゴンのすることには責任を持て」
「……い、いや、それはちゃんと見てるけど、俺はライラの……」
「見ててくれるなら、いい」
 そのままマイアは俺から目を逸らし、そのままその辺のテーブルに着席して待つ。
「ほ。なんじゃ、随分甘え屋な青竜じゃの」
「……あれ、甘えてるのか?」
「他にどう見えるんじゃ。……言っておくがアンディ、これ以上女を増やすのは感心せんぞ」
「ふ、増やすって」
 つか、ドラゴンじゃなくて女を、なのかよ。
「お主、せいぜい今の面子あたりしか夜の面倒見きれんじゃろ? さすがに一週間以上ほっとかれると危険日逃すぞえ」
「……一応他のお客様もいるのであまりあけすけなのは勘弁してください」
「ほ? 何故敬語になる」
 お願いします的な意味だよチクショウ。


 その晩は、セレンとアップル主宰によるパーティーが、宿屋の食堂借り切りで行われた。
 ちなみに男爵家もちょっと出資してくれたらしい。ありがとう男爵。
「にゃははははは、やっぱ北方の酒はええだなあ! ドワーフ好みのガッとした感じがするだよ!」
「うむ。ほどよく度も高いし、なんとも野趣のある味わいがたまらんの」
「お前たち、酒ばっかり飲んでないで料理も食べたらどうだ。……姉上も飲み過ぎないでくれ、あなたはあの二人と違って泥酔するんだから」
「うーふーふー。アーンディーくーん? 先生ここのところほんっとにずーっとアンディ君につきっきりだったよねーえ? そろそろさー、先生を本格的に身も心も前も後ろも俺色に染まれとか思ってなーいー?」
「ひ、ヒルダ先生、飲みすぎですよ」
「アップル、油断しちゃ駄目だよ、ヒルダさんの場合隙を見せてるように見せかけて全力で食い取りにいくかもしれない人だから」
「な、なるほど……女として勉強になりますわ」
「……それはともかくだな、アンディ。僕は思うんだが。思うんだけどな? うん、何の話だったっけ?」
「アンゼロスも飲み過ぎだ、ジャンヌたちのペースに巻き込まれるな」
 酒好き派と健全派と性的に不健全派(ヒルダさん)。それぞれに楽しんでいる。
「あ、アンディさん、これ作ってみたんですけどっ」
「お、おう。もらう」
 アップルが緊張した顔して持ってきたチキンステーキのあんかけを恐る恐る食べる。
「ど、どうですか?」
「……結構美味い」
 何でコンプレックスなんか持ってるんだろう。
「よ、よかったぁ……どうしてもセレンみたいにうまく出来ないから、ちょっと不安だったんです」
「……あー」
 セレンはなぁ……苦手なものがあるんだろうかってくらいなんでもできるからなあ。
 これで剣もできたらディアーネさんさえ霞むかもしれない万能っぷりだ。地味に。
 それと比べていたのなら、納得。
「中の上」
 横でつまみ食いしたマイアが真顔でそう言った。
 微妙に引きつるアップル。
「…………」
「案じるな、混ざり物。私は銀の氏族の結構凄い料理人にもご馳走されたことがある。それを上の上としての評価」
「マイア」
 ベシッとマイアの頭を叩く。
「混ざり物って言うの禁止。次言ったらライラにマジでしばいて貰うからな」
「……ごめん」
 意外と素直に謝った。
 ……っていうか、マイアって見た感じジャンヌよりちょっと上、アンゼロスよりちょっと下ぐらいに見えるので気軽に叩いちゃったけど、根にもたれたらやだなあ。
 無意味にドキドキだ。

「ふむ、青年。飲んでおるかね」
「あ、おっさん」
 おっさんも食堂に現れた。例によってゴーグルつけたまま。
 一応助けてもらった恩もあるので招待したのだ。
「ほう。これは『大氷原』。しかも10年モノか」
「おっさんもイケる口か」
「好きではあるな」
 ぐいっと飲んだ。
 そのままストンと椅子に腰をおろして、ムフーと鼻息を出す。
「うむ」
 そしてそのまま音速で首を倒して寝た。
「おいー!?」
「弱っ……こんな弱い奴に……」
 マイアが横で凄く微妙な顔をしていた。
 ……うん、まあ、剣腕と酒の強さは比例しないよね。うん。


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