ブルードラゴンとエルフ青年が雪の中に正座している。
正座させたのはディアーネさんとライラだ。流石に自分の見ていない隙に俺が死ぬ目にあったということで二人の目つきにはちっとも容赦がない。
まあルーカス将軍のとき以来二度目のピンチに、またも間に合わないところだったわけで。それなりに自責の念もあるだろう。
ちなみにブルードラゴンの方はライラが強制的に人間体にした。そして全裸だったのでエルフの方が慌てて服をかけようとしたが、ディアーネさんに手を蹴られた挙句上着もライラに無表情で焼き尽くされていた。
「お前らもうちょっと手加減を……」
「ほ。まだ殺していないのは充分手加減になると思うがの」
「二度と弓の引けない腕にするつもりだから、まだ序の口だぞ?」
「マジでそういう残虐プレイはやめて下さい」
この人たち本気だ。
ブルードラゴンの娘はマイアと名乗った。
見た感じ、かなり幼く見える。14〜5というところか。
ふくらみかけた乳房も陰部も丸出しのまま雪の上に正座させられているのに寒がる気配もない。さすがはドラゴン、それも氷の竜といったところか。
その代わり深い諦めの念が表情に浮かんでいる。
「マイア。何故我が主とその奴隷を狙ったのかの?」
「……フェイザーが、人間も、混ざり物も、いずれミスティ・パレスを潰しに来るって言ったから。森を開いたら、いずれそうするって」
「ふむ。前時代的じゃの」
「でも、フェイザーは絶対そうするって」
「ほ。つまりあの男に責任を全て押し付けるのかの?」
「そうじゃない。罰は受ける。でも私は、理由とかはよくわからない」
「この娘はそう言っておるが」
ライラは隣に座っているフェイザーというエルフの青年に水を向けた。
「貴様も竜なら……」
「ほ。口の聞き方に気をつけろ」
ガッ、とライラはフェイザーの顔を蹴りつけた。
本当にこんなに尊大で冷酷なライラは初めて見る。
「フェイザー……」
マイアという娘は心配そうな顔をするが助け起こすことはせず、じっと彼が起き上がるのを見つめている。
「あ、あなたも竜ならわかるだろう。人間は野蛮な生き物だ。森に入って氷竜の宮殿を知れば、いずれ殺し、宝を奪いにかかるに決まっている。あの霧の宮殿には歳老いた竜と、そしてせいぜいマイア様のような歳の竜しかいないのだ」
「…………」
火竜戦争の再来を恐れているのか。
エルフ族は特に長寿種族だから、当時のことを生々しく言う者は多いというけど。
「そういえば、火竜戦争では氷竜系の種族はほとんど参戦しなかったというな。私も大陸全てを聞き回ったわけではないが」
ディアーネさんがライラに水を向けると、ライラはフェイザーを冷たく見下ろしたまま、説明する。
「一応、盟約には参じておったはずじゃがな。そもそも氷竜系のブルーやホワイト、シルバーは北方に住んでおる。そして大陸北方は……」
「エルフの古代結界と、魔物領か」
北方エルフの森は、今の魔法技術では突破不可能な遺跡文明期の結界で守られている。北方エルフたちが内側から開かない限り中には誰も入り込めない。その奥にドラゴンパレスがあるならば、人間族が主だったドラゴンスレイヤーたちでは手の出しようがなかっただろう。
また青蛇山脈の向こう、大陸の北東側には通称魔物領といわれる無法地帯がある。
数百年前に迷宮を破壊した影響で魔物の発生が特に激しく、およそ普通の種族が住めるような状態ではないらしい。そこのドラゴンパレスもきっと手付かずだったのだろう。
となれば、大陸中部や南方に多い火竜系のブラック・レッド・イエロードラゴンなどが火竜戦争の主役だったことは納得がいく。
「つまり北のエルフに守られたドラゴンパレス……というわけですわね」
そして、守り続けるエルフたちの妄執にそそのかされて手を貸したというわけだ。
「愚かしい。例え若い者ばかりとはいえ、仮にも竜が守られるまま、そそのかされるままなど笑い種じゃ」
「…………はい」
マイアという娘はしゅんとする。
やはり若い娘だから、ライラのような成熟したドラゴンには萎縮してしまうのだろうか。
「それより黒竜よ。あなたはその男をドラゴンライダーとしているというのは本当か」
納得がいかない、という顔でフェイザーはライラに食って掛かる。
「ほ。それがどうかしたか」
「そんな弱い人間がドラゴンライダーなど、狂っている! 何を血迷ったのだ」
は、歯に衣着せない男だなあ。
「お前だってそんな言うほど強いわけじゃないのにドラゴンに乗ってるじゃんか」
反論したら、フェイザーではなくマイアの方が答えた。
「ドラゴンの背に乗ればドラゴンライダーというわけではない。……ライラ殿、教えていないのか」
「ほ。必要なかったからの。外の世界の竜と人は不可侵を貫き、滅多に出会うこともない」
「…………」
マイアは、言っていいのかというニュアンスでライラにアイコンタクトを求めた後、静かな声で説明し始める。
「彼は、ドラゴンナイト。私との『契約』は、彼を助けて翼と力を貸すだけで、それ以上ではない」
「なんか、ナイトの方が偉そうだな」
「……そんな不心得者をライダーにしているのか、あなたは」
「口に気をつけろと言うたはずじゃが」
さらにフェイザーを痛めつけようとするライラの髪を慌てて引っ張り、止める。
マイアは微妙な顔をして、それでも言葉を続けた。
「ライダーと竜の契約は交わしたのだろう、既に」
「……首輪のこと?」
「そうだ。……首輪か、最上級ではないですか、ライラ殿。それほどこの男に惚れましたか」
「ほほ。羨ましいかえ」
「切に」
……なんだかノリがわからない。
「ドラゴンライダーとなることは、ドラゴンに正義と信念を与えること。虚ろなる力に意味を与えるということ。その生き様を互いに背負うという最上の契り」
「うん。それは聞いた」
「あなたはそれを背負った。フェイザーは……背負わない。私たちのために、私とともに戦うと、ただそれを誓っただけ」
少し寂しそうな顔をするマイア。
フェイザーが再び食って掛かる。
「り、竜の力だ! 小さきものの身には余るはずだろう! 責任を負えるはずもない! その男は、口先で誓うだけ誓い、あなたの力を食い物にしているだけだろう!」
「マイア、これは我らに対する侮辱と捉えてよいかのう」
「ご随意に」
「では殺してよいのじゃな」
「……私にはそれを止める権利はありません」
「ま、マイア様!?」
おい。
あのブルードラゴン、自分の臣下をあっさり見捨てたぞ。
「では、焼け死ぬのと折れて死ぬのを選ばせてやろう」
「ら、ライラ、待て! いちいちちょっとつっかかられたぐらいで殺すな! お前そんなキャラじゃないだろ!」
必死にライラを引っ張る。ライラは不満そうな顔をした。
「生かしておいても我らに仇なすだけじゃ」
「でも駄目だ! 俺はお前がそんなことするのは見たくない!」
「……アンディ」
ライラが力を抜く。
ついで、マイアに真意を問う。あまりにもあっさり殺すの認めすぎだ。
「お前の、その、ナイトだろ? なんでそんな簡単に殺していいなんて」
マイアは薄く笑い、とんでもないことを言った。
「ライラ殿は、今ここで私を殺す権利さえある」
「け、権利ぃ?」
「ドラゴンライダーの伝説を聞いたことはある、人間?」
「……ちょっとぐらいなら」
「ならば、邪悪の竜を討伐するドラゴンライダーも知ってる?」
一拍。
「ドラゴンは、同族殺しを盟約で禁じている。同族殺しは全族を持って討伐される」
「……そ、そうなのか」
「だが、例外はドラゴンライダー。正義を乗せた竜。それだけは同族殺しをすら認められる。ライダーを持たぬ竜は、盟約の上では逆らうことは許されない」
「そ、そんな……ええ?」
衝撃の事実。
「言うたはずじゃがな、アンディ。ドラゴンライダーはその心にて竜の力を操る善なる存在。力に溺れた邪悪あらば、それを断つことも許される。それは竜とて同じ事。ドラゴンライダーの正義とはそれを断じることができる。そういうものなのじゃ」
極端すぎる。
「私は逆らいません。アンディ殿、ライラ殿。罰は、受けます」
「と言うておるが」
「却下」
俺はフェイザーはともかく、マイアのその潔すぎる覚悟が納得いかない。
「じゃが、何度も言うが、放っておけばまた狙うぞ、この手の馬鹿は」
確かにそうかも……と。
いい考えがあるぞ。
「じゃあマイアを人質に取る」
『……はっ?』
その場のみんなが、凍る。予想外だったのだろう。
うむ。俺ナイスアイディア。
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