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 懐かしいポルカの街。
 雪深い街道の只中に着地し、いつものように馬車を隠す。
「荷物はできるだけ持っていけ。馬車に置いておいたら凍るばかりだからな」
 ディアーネさんの号令で、みんな持てるだけのものを持って、町の入り口へ。
 そこには若い門番が二人立っていた。
「ようこそポルカへ。徒歩ですか」
「そんなところだ」
 ディアーネさんがそう言って通り抜ける。……別に邪魔もされない。
「へえ……本当にエルフでも入れるようになったんだ」
 思わずそう呟く。と、門番は怪訝な顔をして俺……じゃなくて、隣のセレンを眺め。
「!! セレンちゃん!! セレンちゃんじゃないか!!」
「ど、どもー」
 セレンが手を振ると、門番は二人ともとろけた顔をする。
 ……アイドル化してたっぽい。
 確かに人間基準ではちょっと見ないくらい可愛いからなあ。
「って、なんだよセレンちゃん。こんなに美人ばかりたくさん連れてきて」
「鍛冶屋のアンディを探しにいったんじゃ……」
 ……そして俺は、もはや顔を見たって識別されないっぽい。
 そりゃあ……うん、10歳と25歳じゃ別人みたいなもんだけどさ。
「ほら、この人アンディさんですってば」
「お、おお! アンディ!」
「懐かしいなあ!」
「……誰だよお前ら」
「なんだ忘れちまったのか、薄情だな! ほら、俺饅頭屋のキール!」
「ああ、あのデブの。痩せたなあ」
「デブって言うな!」
「俺覚えてるか、俺。酒屋のジョニー」
「忘れた」
「ひでえなオイ!」
 ……ああ、帰ってきたんだなあ。
 顔で思い出されないのはちょっと寂しいけど、確かに俺の故郷だ。俺が生まれ育った街だ。
「しかしなんだお前、足駄目にしたのか?」
 饅頭屋の元デブ、キールが俺の恰好を見て心配そうな顔をする。
「ああ。……これな。これ治しに来たんだよ」
「治しに? 帰ってきたんじゃなくて?」
「ああ。俺今セレスタ軍で十人長してて」
「マジかよ。十人長って王国軍で言ったらアレだろ、えーと……」
「少尉」
「そうそう」
 王国軍では十人長を少尉、百人長を大尉と言っていた。ちなみに準兵正兵と将軍はセレスタと同じで、元帥位は大将軍という。
「治したらまたどっか行っちゃうのか」
「まだわからない。治るかどうかもわからないし、残るにしたって親父と話さないと」
「あー……えーと」
 キールが微妙な顔をした。
 なんだ?
「と、とにかく。セレンちゃんが帰ってきたなら男爵にちゃんと報告しないと」
 ジョニーがキールをハルバードの柄でつつく。
「そ、そうだな。俺行ってくる」
「頼むぞ。……とにかく、おかえり、セレンちゃん、アンディ!」
 ジョニーが番兵らしく、胸を張って俺たちに道を譲る。
「……男爵と知り合いなのか、セレン」
「え、ええと……私がどうこうと言うか、アップルの絡みで」
「ああ」
 アップルはトロット=セレスタ側と北方エルフとの対話の促進に繋がった存在。
 その友人というか身元引受人という形で、やはり面識はあるわけか。
「……よし、とりあえず俺のことは後回しにして、まずはアップルに会いに行こう」
「アンディさん」
「どうせ足にしたって親父にしたって急ぐことじゃない。でもアップルは一刻も早く目を覚ましてやったほうがいい」
 ……まあ、結果が出るのが怖いことを少しでも先送りにしようって魂胆でもあるけどさ。
 でも、一番優先度が高いのは間違いない。
「わかりました。……病院、行きましょう」
「その間に私は宿を取っておく。姉上、頼んだぞ」
「はいはーい」
 ディアーネさんが集団から離れる。
 セレンの後について、あとの俺たちはゾロゾロと歩き出した。


 ポルカの病院ははっきり言って流行りようがない。
 医者より優秀な霊泉がある。わざわざ医者にかかって切ったり貼ったり得体の知れない薬を飲んだりする意味がほとんどないのだ。
 それでも一応、病院は立派だった。
「ようこそポルカ病院へ。……って、セレンちゃん! 二年ぶりじゃない!」
「どもー。……アップル、あのままですか」
「ええ。霊泉の水を飲ませたりは定期的にしているんだけど」
 受付にいた看護婦は困った顔をした。
「霊泉でどうにもならないんじゃウチの先生にもどうにも出来ないしね……」
 やる気あるのかないのかさっぱりわからない。
「やっぱり……でも、アンディさんと、セレスタのダークエルフのお医者さん、探してきました!」
「どうもー。魔法医のヒルダでーす」
「あ、あらあら」
 看護婦は慌てて受付から出て、医者を呼びにいく。
 そして、現れた医者がヒルダさんと何分か話し込んだ後、俺たちは奥の病室に通された。


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