砂漠を離れて数度の休憩着陸を挟み、日の傾く頃にはトロット南部の都市シュランツに到着する。
シュランツはトロット王都、西部のフォルクローレに続くトロット王国第三の都会で、歴史だけなら王都と並ぶ古都のひとつ。
俺自身は一度も来た事はないが、古い建築様式の教会や美しい城、砦など、史跡がやたらとあることで知られている。
鍛冶でも剣や槍といったスマートなものでなく、ハンマーや斧、モールやフレイルといった、オーガやドワーフ好きのする実戦的な戦争武器なら、王都よりシュランツの鍛冶技術の方が本場と言われる。
「えらく古臭い街じゃのう」
「市制施行、確か600年だったっけかな? 俺が工房に入ってしばらくして、そういう祭り関係の噂が流れてきた気がする」
「僕が12歳の時だから今から12年前だな。母上が商機だって張り切っていた」
街を見下ろす丘の上で、ライラが人間体に戻るのを待ってから幻影を解く。
この近くには打ち捨てられた砦しかなく、丘の反対側は広い麦畑と果樹園。農家が近くにないのも確認済み。
多分木陰に隠して簡単な幻影でもかけておけば、馬車を見咎められて面倒なことにもならないだろう。
「それで、どうするディアーネ。宿でも取るかの?」
「そうだな。それにセレスタで手に入る情報だけでは、さすがに街の様子もわからない。アンディ……は無理か、アンゼロスと……あと、ジャンヌ。街の様子を見てきて、ついでに宿の空き部屋を確認してきてくれ」
「はい」
「ええだよ」
さすがに何かの拍子で宿という宿が満杯となったら馬車で寝るしかないが、一度街に降りてしまうと戻ってくるのは骨が折れる。
なら街に直降りしてしまえばいいんじゃ、と思ったが、どうやらデカい幻影隠蔽はそれだけ周りの人間に与える違和感も大きくなるそうで。あまり近づくと、それこそ勘のいい人にはちょと意識集中しただけでライラの巨体が見られてしまう可能性があるのだそうだ。
カルロスさんちほど広い無人領域があればいいが、シュランツには金持ちの知り合いがいるわけもなく、そうもいかない。
「やれやれ、お忍びの旅というのも骨じゃの」
ライラが溜め息。
大きめの帽子をかぶったアンゼロスと、物騒な金属防具やハンマーを置いているジャンヌを見つつ、ディアーネさんも頷いた。
「こういう時にベッカーがいると便利なんだがな。人間だからどこでも馴染むし戦闘能力に万一の心配もない、足も速いし隠れるのと情報収集は得意中の得意だ」
「なるほど」
ベッカー特務百人長ってどんな状況でも頼れる人材だなあ。
「アンゼロス、持っていけ」
ディアーネさんは馬車の荷物の中にあった俺のクロスボウからストックを外し、アンゼロスに投げ渡す。
ストックはディアーネさんの魔法を特別効きやすくする紋が刻んである。そしてディアーネさんに直接声を届ける力もある。
「宿が取れそうだったらそれに話しかけろ。私は返事できんが、聞こえているからすぐに追う」
「わかりました」
大事に懐にしまうアンゼロス。
「いってきます」
「任せるだよー」
古都シュランツ、一応セレスタに屈したとはいえどんな種族差別が残っているかわからない。
だが耳を隠せば普通に美少女で、トロットの勝手がわかっているアンゼロスと、トロットでは比較的多いドワーフ族のジャンヌなら、完璧とはいえないが多分大丈夫。
エルフな上に世間知らずで気位の高いオーロラや、ダークエルフのディアーネさん姉妹、そしていろんな意味で危険なライラを先行させるよりははるかに安全だろう。二人ともそこそこ強いし。
「私が行ってもいいんですけどね」
セレンがちょっと不満そう。
「まあ大人数で行くことでもないし、セレン元々外国人だろ」
「そうですけど。でもアンディさん探しであちこち歩き回ったし、アンゼロスさんよりは世間の荒波にもまれてるんだけどなー」
「まあ、な」
ちょっと足元危ない地元民vs慣れてるけど生粋の旅人。ディアーネさんの判断としてはどっちでもいいけど、ハーフエルフ二人組で飛ばすよりは片方ドワーフの方が出目は悪く出にくい、といったところか。
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