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「しかし三ヶ月で足りるんですか?」
「足りるだろう。馬車でも高速の乗り継ぎ路線を使えば例の森エルフ領までひと月はかからない。交通費は全額父上持ちだ」
晩。
ディアーネさんの荷造りを手伝いながら、今回の旅程について話す。
「向こうに行っても時間がかかりそうなものですけど。仮にも向こうはコロニーリーダーでしょ」
「正確にはコロニーリーダーの息子、だがな。なあに、白エルフはプライドが高い。格下とナメているダークエルフ如きに挑発されれば、出てこないわけにも行くまい」
「……挑発するんですか」
いくらなんでも、相手の懐でそんな強気に出るデイアーネさんの魂胆は俺には理解しづらい。
「というか、一人で行くんですか?」
「一応アンゼロスも来る」
「クロスボウ隊みんなで行ったほうがいいんじゃ……」
「わかってやれ、スマイソン。父上が何故私を昇進させることにこだわったのか」
大臣は例の活動休止報告の後、そのまま飛龍便で首都クイーカに帰ってしまったのでもういない。だからこそか、ディアーネさんは少し優しい顔で父を慮っていた。
「奴らのやることに軍をもって対応すれば、今度は父上とダークエルフコロニー、そしてこのクロスボウ隊、その全体に対して他の地方、他の部隊から『内乱を起こした』と付け込む隙を与えることになる。本当は私の力を相手を傷つけることなく誇示して、相手の萎縮なり暴挙なりを誘うのが一番賢いやり方なんだ」
「……なのに、断ったのは?」
「言っただろう。私はこのクロスボウ隊を誇りに思っている。他人の手に渡って下手な運用をされるのが我慢ならない……いや」
荷を縛る手を止めて、ディアーネさんは振り返る。
風がふんわりと服を揺らすように、自然に俺の胸に飛び込んでくる。
「……お前が他の無能に使われて、もし死んだらと思うと我慢がならない。だから私は、お前をこの手で守る為に、もう上には行きたくないんだ」
「……ひでえ。それって俺を百人長に昇進させたくないってことですか」
「そう取ってくれてもいい。なに、金がいるなら私が稼ぐ」
「俺、ディアーネさんより偉くなって命令するのが密かな夢だったんですけど」
「ベッドの中でよければ何でも聞いてやるぞ?」
「……なんでセレンといい、俺をヒモにしたがるかなー」
「人間は儚すぎるんだ。だから好きになったら大事にしたい。わかってくれ」
胸の中で甘えた声を出すディアーネさんが可愛くて。
ついつい俺は欲情してしまう。
「……ったく、じゃあ命令。……今すぐヤらせて」
「バカ。それはお願いと言うんだ」
「や、ヤらせろ」
「了解しました。お好きなだけお使いください、上官殿♪」
すっかりがらんとした部屋の中、ぽつんと存在感の変わらないベッドに二人でもつれ込む。
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