ジーク・ベッカーは特別諜報旅団、要はスパイ部門に属しているくせにセレスタ南部ではオーバーナイトに匹敵するほどの知名度を誇る珍しいエースナイトである。
 何故かというと、やたらと英雄詩に歌われているせいだ。
 国家的な英雄であるオーバーナイトの武勇伝でさえ定番入りするのは7〜8曲程度が相場な中、エースナイトでメジャー曲として4曲も5曲も歌われているのは珍しい。
 しかもジークの場合、やたらと巨大な敵とやりあったとか、大人数の追っ手を瞬殺したとか景気のいい話が多い。
 そこまで大活躍している男ならば、首都に構える自宅もさぞや、と思うのは無理からぬことである。
 が。

「おう、帰ってきたかいジーク」
「リードの阿呆から荷物届いてんぞ。……おい婆さん、その手はちょいと待て。うん、流石にワシもボケかましすぎた」
「やかましいよジジイ。チェックメイトだ」
「いやいやいや、まだ手はある、まだ。ワシを信じろ」
 首都入りしたジークが向かった家は、古いモルタルの集合住宅、というか安アパートの一階。
 そして目に飛び込むは、しなびた鳥人間の老夫婦が、小庭の縁台で魚の干物をくちゃくちゃ食いながらボロいチェスで遊んでいる風景である。
「……ベッカー。この方々は」
「あぁ? 俺の爺ちゃん婆ちゃんだけど」
「お前、バードマンの血を?」
「拾われっ子なんだよ俺。そして拾った親父がバードマンの冒険家。知らない? リード・ベッカー」
「知らん……」
「知らない……」
 オーガ美女とダークエルフ少女が揃って困った顔をするのを見て、鳥のジジババがケラケラ笑った。
「お前の有名さにゃーかなわんだろ」
「ったく、親父も盗掘者のくせに目立ちたがりで、ジークは逃げ足ばっかの癖にやたら目立って。少しぐらいわきまえろってんだい」
 二人はひとしきり笑った後、急に揃ってポンと手をたたき、ジークと一緒に入ってきた二人の女性を見てあんぐり嘴をあける。
「……ジークが女連れてきたよばーさん」
「本当だ。あの小金が入れば娼館いってケジラミもらってたジークが」
「医者いってシモの毛ツルツルにして泣きながら『ナイフはいいよなあ、ビョーキうつさないし』とか言って夜な夜なナイフ磨きしてたジークが」
「その後しばらく本番風俗いくの怖がってストリップ小屋に詳しくなってたジークが」
「黙ってくれじーちゃんばーちゃん、ホントマジデ」
 後ろで聞いている二人は、なんとなく「ああジークならありえる」と思って苦笑いしつつも、むしろそれを全部ジジババに知られていることの方にちょっと恐怖を感じた。
 いい大人のジークがそんなの祖父母とはいえ言いふらすわけもない。
 この家庭は意外と手強いのではないだろうか。と。


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